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不安のない生活(34)呼吸について(7)(ケセラセラvol.90)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

呼吸の仕組みについては今までいろいろ述べてきましたが、ここで呼吸の3つの脳内のセンターについてもう一度おさらいをしておきましょう。

代謝性呼吸は無意識に行っている呼吸をつかさどっています。延髄にある化学受容器が血中の炭酸ガス分圧を感知して呼吸をコントロールします。脳幹部に中枢があります。わたくしたちは意識的に呼吸をゆっくりしたり、息をためることが出来ます。呼吸を自分の意志により左右できるこの呼吸を随意性呼吸と呼んでいます。手や足を意識的に動かすときに指令を出すのと同じ大脳皮質運動野に中枢があります。

最近分かってきたのは、情動性呼吸という呼吸です。不安になったり、興奮すると呼吸が早くなります。このような陰性感情は扁桃体の活動で引き起こされ、その刺激が呼吸にも及ぶことが分かってきました。静かな深い呼吸は扁桃体の活動性を静めることも最近の研究で分かってきました。歌うとき、会話をするときも呼吸は変化します。この時は呼吸を意識する場合もしない場合もありますので、随意呼吸だけでなく自動性の呼吸が行われます。このような呼吸は、代謝性呼吸とは区別して行動性呼吸といわれています。行動性呼吸では3つの呼吸中枢が相互的に働いていると考えることができます。(図1 3つの呼吸中枢)

 

貝谷先生_図1

さて、マインドフルネス瞑想をしているときには、呼吸はどのように変化するのでしょうか。

マインドフルネスでは主にヴィパッサナー瞑想といって、現在起きている状況をありのままに観察する瞑想―洞察瞑想―を行いますが、初心者には難しいので初めは呼吸に注意を集中するサマタ瞑想―止瞑想、坐禅で行う瞑想―をします。今回は坐禅瞑想の時の呼吸の変化について考察しようと思います。坐禅では自然に行われるありのままの吸う息と吐く息を観察するという教示がされます。曹洞宗の鈴木包一師は坐禅の呼吸を次のようにいっています。「呼吸は自然に向こうから吹いてくる風でドアが開いたり閉まったりするようなもので、それは自分の意思のものじゃない。でも、自分がそういう呼吸をしているということだけは、わかっている。いってみればそれを観ている。そういうもので満たされた坐禅…。しかし、その状態が壊れても仕方がない。それをどうする必要もない。また、気がついたときには直っている。気がつけばいいのであって“これはいけない”と思うと、そっちの深みにはまっていくからね。」一見、簡単なことに思われるかもしれませんが、ただひたすらに自分の呼吸を観察するということは大変難しいことです。この時、ありのままの自然な呼吸を観察するようにといわれますが、観察することはすでに介入になり、自分では気づかないうちに意識的に一生懸命に腹式呼吸をしていると、呼吸回数は徐々に減少していきます。それ故に、この時期の呼吸(行動性呼吸)は、代謝性呼吸に随意性呼吸が混じり込んでいる状態であると考えられます。坐禅を10分から20分ほど続けていると、自分の意思とはあまり関係なく、呼吸は規則正しくなり、静かになってきます。この時は代謝性呼吸をベースにして随意性呼吸にさらに情動性呼吸が加わってきたと思われます。気持ちが静かに落ち着いてきており、情動中枢である扁桃体の活動性が低下し始めてきていると考えられます。この状態がどんどん進めば、呼吸数はさらに減少していきます。ついには呼吸数が1分間に1回以下になってしまうようなベテランがいます。そうなれば心は非常に落ち着きます。この状態は平静、静穏、閑寂、森閑、沈静、康寧、静謐、沈潜、静寂、寂静、などと形容されるでしょう。禅では禅定とか三昧といいます。坐禅が目指す状態です。

最近のある脳研究は、2週間のマインドフルネス・ストレス低減法を行う前後に、ストレス尺度を使った心理検査を行い、それとともにMRIで扁桃体の灰白質の大きさを測定しました。この結果、ストレスが低くなった人は、扁桃体の灰白質が、ストレスの低下の程度に応じて薄くなった― すなわち、扁桃体の活動性が低下していたことが報告されました(Hölzelら・2010)。その後、同じ研究グループが、マインドフルネスにおける呼吸への注意の集中(attention-to-breath)は嫌悪感のある刺激に対する反応性を弱め、同時に、前頭前野の背内側部の活動性を高めたことを報告しました。さらに、前頭前野の背内側部の働きが高まると扁桃体活動にブレーキがかかることを機能性MRI検査で示しました(Dollら、2016)。これらの結果は、マインドフルネスで呼吸に注意を集中する訓練を2週間しただけでも、前頭前野の活動性が上がり、扁桃体の灰白質が縮小して活動性が低下し、ストレスを低減したことを意味しています。

このシリーズにおいて以前、坐禅をしている時は酸素消費量が20%前後減少し、これには脳での酸素消費の減少が主に貢献していることを記しました。坐禅が進んだ状態で呼吸数が少なくなっていけば、当然、脳内の血液中炭酸ガスが緩徐に増えていくものと考えられます。脳幹部における炭酸ガスの増加はセロトニン産生を担っている脳幹部の神経細胞を活性化することが動物実験でわかっています(Seversonら、2003)。軌道閉鎖で血中炭酸ガスが急に増えれば、呼吸停止が来るし、炭酸ガス分圧が急上昇すれば反対に過呼吸が生じます。坐禅におけるように炭酸ガスがゆっくりと増えていけば、脳幹部のセロトニン性神経細胞が活性化し、セロトニンの分泌が上昇していくことが推定されます。セロトニンは抗不安、抗うつ作用のある脳内神経伝達物質です。脳内のセロトニン上昇は精神の安定を更に進めることになると考えられます。このように坐禅の呼吸は神経伝達物質の変動を生じさせることによっても、また、脳内の前頭葉前皮質―扁桃体結合を強化することによっても心の平安を招くと考えられます。仏陀の趣味は呼吸することだといわれたといういい伝えがあります。また、坐禅の熟達者は息が甘くなったとも、法悦を感じるともいいます。このような状態はいろいろな脳内機序が相互的に働いて生じさせているものと考えられます。呼吸は人間の生活の中で深い意味を持った生理機能です。

 

参考文献
・帯津良一、本間生夫編集 常道学シリーズ6、情動と呼吸、朝倉書店、2016、東京
・Hölzel BKら Stress reduction correlates with structural changes in the amygdala.
Soc Cogn Affect Neurosci. 2010 Mar;5(1):11-7
・Doll Aら Mindful attention to breath regulates emotions via increased amygdalaprefrontal cortex connectivity.
Neuroimage.  2016 Jul 1;134:305-13
・鈴木包一 師として、そして父としての鈴木俊隆サンガ 27巻、p 56 ・2017
・Severson CAら Midbrain serotonergic neurons are central pH chemoreceptors. Nat Neurosci. 2003 Nov;6(11):1139-40.

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