フクロウblog | マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ①腹が立たなくなりました(ケセラセラvol.92 春)

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マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ①腹が立たなくなりました(ケセラセラvol.92 春)

医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣

 

今回から新しい連載をはじめました。1年か2年は連載できると思います。マインドフルネスのショートケアセンターに通所し始めた患者さんがまず初めに気づくことは、立腹しないか、腹が立っても程度が軽く顔に出なくなるということのようです。それは、マインドフルネスの基本態勢である、今のこの瞬間を判断せず優しい気持ちで好奇心を持って受け入れる、ということが現実生活の中にも無意識のうちに少しずつ浸透するからだと思います。この効果は社会的動物である人間にとっては非常に好ましいことです。腹を立てるということは良好な人間関係を損ずる危険性が大変大きいことを意味しています。人間というものは不思議なもので心の状態がすぐ顔に現れます。腹が立たなくなった方はある日ふっと穏やかな表情が見られるようになります。一緒に瞑想をした後のシェアリングでこのような人を見ると私は本当にうれしくなります。

私は、そのうれしさをすぐ本人に伝えたくなってしまいます。”あっ!顔が変わったね。良くなってきたよ!”と声をかけます。すると患者さんはますます明るい輝いた顔になります。この瞬間にマインドフルネスをはじめて本当によかったと感じます。

このような臨床症状の変化を脳機能から証明した研究が最近出ました。呼吸に注意を向けるマインドフルネス瞑想を初心者に2週間訓練を行い、機能性核磁気共鳴脳画像検査(fMRI)中に、呼吸に注意を向けた状態とそうではない状態が比較されました(Dollら、2016)。この時に嫌悪感の強い画像が示されたり示されなかったりして、合計4種類の状態でfMRIが行われました。その結果、呼吸に注意を集中していると安静時に比べ、嫌悪感のある刺激に対して本人はそれほど気持ちが悪いと感じず、同時に、前頭前野の左背内側部の活動性は上昇し、怒りの中枢である扁桃体の活動性は低下します。さらに扁桃体と前頭前野の結合性が上昇しました。要するに、呼吸に注意を集中していると前頭前野の活動性が増して、その活動が扁桃体を抑制するということです(図1)。図1

この研究は、呼吸への注意集中マインドフルネスが行われている間扁桃体自体の活動性が低下することを示しています。この研究結果は皆さんが日常的にも使用できます。要するに、腹が立った時に呼吸に注意を集中して、今この瞬間を感じるようにしたら、皆さんの嫌な気持ちは雲散霧消します。呼吸への注意集中瞑想は心の静穏化作用が強力なのです。

この研究は短時間のマインドフルネスでしたが、ストレスフルな人に8週間のマインドフルネスプログラムを行った前後で、fMRIで扁桃体の大きさを測り、ストレス度の変化を調べた研究があります(Hölzelら、2010)(図2)。図2
驚くべきことに、8週間のマインドフルネスで脳の形態が変わってしまうのです。マインドフルネスでストレス度が低くなった人では怒りの中枢である扁桃体が小さくなってしまったのです。しかし、実際に2か月間近く毎日最低20分間マインドフルネスをすることは結構な努力を要します。

読者の皆さん、マインドフルネスは魔法の療法ではないのです。毎日地道な努力があって初めて効果が出てくるのです。

 

文献

Dollら Mindful attention to breath regulates emotions via increased amygdalaprefrontalcortex connectivity. Neuroimage. 2016; 134: 305

Hölzelら Stress reduction correlates with structural changes in the amygdala. Soc Cogn Affect Neurosci. 2010; 5:11