フクロウblog | 物忘れと認知症(ケセラセラvol.96春)

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物忘れと認知症(ケセラセラvol.96春)

医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック 院長 岸本智数

 

物忘れとは記憶の障害で、「同じことを何度も尋ねる」状態をいいます。では、健康な人の物忘れと、認知症の方の物忘れとでは、何が異なるのでしょう。健康な人の物忘れは、記憶の一部分だけが抜け落ちるのに比べて、認知症の物忘れは丸ごとすっぽりと抜け落ちてしまいます。例えば、昨日の晩御飯は何でしたか?という質問に対して、健康な人の物忘れでは「ご飯を食べたことは覚えているが、何を食べたかは思い出せない」となります。しかし、認知症の物忘れでは「ご飯を食べたこと自体を忘れている」となるのです。また、健康な人の物忘れは、ヒントにより思い出すことが多い、普段の日常生活に大きな支障はない、最近数年間で変化が見られない、他の症状は特には目立たないことが特徴です。一方、認知症の物忘れは、ヒントによっても思い出すことは少なく、普段の日常生活に支障があり、最近数年間で増えていて、他の症状(見当識障害、判断力障害、実行機能障害など)も見られることが特徴です。

「物忘れをするようになりました。私、認知症ですか?」と心配される方が非常に多いのですが、ここで注意しないといけないのは、物忘れがあるからといって必ずしも認知症ではないですし、認知症だから必ず物忘れがあるとは限らないのです。また、アルツハイマー型認知症は認知症ですが、認知症はアルツハイマー型認知症だけではないのです。もっといえば、認知症というのは状態であり、アルツハイマー病という病理学的基盤を主体とした変化が進行して最終段階としてアルツハイマー型認知症という状態になるという考え方が主流となり始めています。実際に、病理学的にはアルツハイマー病であっても初期には症状はないか、あっても極軽微である状態があり、アルツハイマー型認知症を呈するまでに20年近くかかることが分かってきているのです。

では、認知症とは一体何なのでしょう。2011年にNIA-AA(National Institute on Aging and Alzheimer’s Association workgroup)から発表された診断基準によると、①仕事や日常活動に支障、②以前の水準に比べて役割を遂行する機能の減退、③本人または周りの人からの情報や心理検査で検出・診断される認知機能障害、④認知機能または行動異常が以下の項目のうち少なくとも2つを含む(新しい情報を獲得し記憶にとどめておく能力の障害、複雑な仕事の取り扱いの障害や乏しい判断力、視空間認知障害、言語障害、人格や行動などの変化)とされています。

図1
つまり、物忘れが他の障害と同等に扱われており、物忘れがあまり目立たない認知症も多くあるということを意味しています。認知症を呈する疾患には具体的には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症のほかに、パーキンソン病、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍、正常圧水頭症、頭部外傷、低酸素脳症、ウイルス性脳炎後や髄膜炎後、腎不全や肝不全、甲状腺や下垂体の機能低下症、慢性アルコール中毒、薬物中毒などなど非常に多くの疾患が含まれます。

物忘れが(特に初期の段階では)あまり目立たない認知症もありますし、物忘れがあってもアルツハイマー型認知症などとは違って、治療可能な身体疾患などによるものもあります。いずれにしても、頭も足腰と同じで年とともに衰えてきますし、使わないとより早く衰えます。年齢による変化は仕方ない面もありますが、いろんな人との会話を楽しみ、ぼーっとテレビを見るかわりにラジオを聴き、本や雑誌を読み、パズルやゲームをし、適度な運動をして、頭に刺激を与えることで、年齢による衰えを出来るだけ防ぐことになるのです。

 

参考書
認知症ハンドブック 医学書院
認知症 最新医学社