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父の贈り物(ケセラセラvol.73)

医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長 原井宏明

子どもが親に似る
子どもが親に似るのは誰でも良く知っている当たり前のことです。子どもが生まれたとき、その子が自分に似ているかどうかは親にとって気になることでしょう。ここはお父さん似、ここはお母さん似、あるいは祖父母似などとあれこれ家族で似ているところを探すのがよくあるでしょう。では子どもが大きくなったときはどうなのでしょう。子ども自身が大人になり、自分が誰かに似ていると思うことは? 最近、50代の私が昔の父に似ていることを人から知らされることがありました。そしてこれも父から私への贈り物の一つでした。

贈り物1 京都で生まれ育ったこと
親から貰ったものの中で、ありがたいと私が思っていることの一つは、京都で生まれ育ったことです。ミシガン大学に留学し、世界行動療法・認知療法会議に参加するようになり、ハワイ大学精神科・ハワイ州立病院で薬物依存者の研究を行い、動機づけ面接トレーナーネットワーク(MINT)の理事になって、たくさんの外国人の知り合いができました。知り合いが日本に来ることがよくあります。そして日本に来た外国人の大半は京都に行きたいと言い出します。京都の観光案内は私にとっては故郷を案内するのと同じです。金閣寺と龍安寺の石庭を回るときにはついでに出身高校も、黄檗山万福寺の普茶料理を食べに行くときには、実家の近くを紹介することになります。

贈り物2 醸造元見学
そして何よりもとっておきの観光ツアーが、清酒「英勲」の醸造元、齊藤酒造の工場見学と試飲会です。これは父が現役で働いていたときからさせてもらっている、父のおかげでできるツアーです。 醸造は生物学の実験室と同じく厳密な衛生管理を必要とします。雑菌を外から持ち込まないように見学者も帽子を被り、靴にはオーバーシューズを取り付け、消毒マットの上を歩いてから工場内に入ります。床のあちこちをホースが走り、頭上には迷路のようなパイプやコンベアがある中を通り抜け、ハシゴを上がって発酵途中のタンクの蓋を開け、タンク上部に溜まった香気を手で掻き出すようにして、醪(もろみ)の香りを嗅ぐのは、なんとも華やいだ気分にさせてくれます。吟醸酒の香りは果物の香りから濁りや臭みを取ったようなものです。ワインと似ていますが、発酵途中の酒には紙容器やコップ、冷蔵庫の香りなどがつくはずはなく、自宅で嗜む酒の香りとはまったく別物です。(一部の吟醸酒メーカーでは発酵途中の香気を集めて凝結させ、瓶詰め前の酒に添加する、香り付けをするぐらいです) 父が亡くなった今は、後を引き継いだ藤本修志取締役が齊藤酒造の製造部門を取り仕切っています。藤本さんは吟醸酒のプロとして父が中途採用した醸造技術者でした。藤本さんが醸したお酒は平成25年度の全国新酒鑑評会でも金賞を受賞しました。これで14年間連続受賞で、記録を更新しました。すべては藤本さん自身の利き酒(ききざけ)の才能と醸造の工夫の成果なのですが、藤本さん自身はそれもこれも父が引き立ててくれたおかげと今も父を慕ってくれています。その息子である私は、父が亡くなった後も、藤本さんに頼って、外国人を齊藤酒造の工場に連れて行っては見学と試飲をさせていただくのでした。

ある日のこと
2013年3月、動機づけ面接の創始者の一人であるニューメキシコ大学のウィリアム・ミラー名誉教授を日本にお呼びしました。いつもどおりに京都の寺院観光と齊藤酒造の工場見学を日程に組み込みました。藤本さんが、「ここは四段仕込みで、原井先生(父のことを藤本さんはこう呼びます)が始めた」「この醪は協会酵母、これはアルプス酵母」などと説明するのを英語に翻訳しながら、工場内を回っていきます。最後に試飲会です。工場で製造過程を見たばかりの酒を味わい、酵母の違いも知りながら香りを見分けていくのは、にわかプロになった気分です。ミラー教授からはアメリカでも和食ブームとともに日本酒が流行っている、「英勲」はアメリカでは売っていないのか?などの質問がでました。齊藤酒造もアメリカでの販売経路の開拓を始めたところということでした。 藤本さんからおみやげの吟醸酒をいただき、感謝を伝え、階下に降り、受付の中に立っていた見知らぬ女性にも挨拶をして、会社の玄関を私が出るときでした。受付の女性と藤本さんが、黙って、じっーと私の顔を見ています。なんだか不思議な感じです。別れの挨拶は済ませたばかり。私も仕方なく、じっと相手を見ていると、「息子さん、原井先生とだんだんそっくりになってきて、本当に」と受付の女性がぼそっと呟くのが聞こえました。 このときの私の気分はなんと言い表していいのか分かりません。しかし、その時、私にはっきりと分かったことが一つあります。齊藤酒造の皆さんが50代になった私の顔に見ていたものは、ではなく、齊藤酒造で働いていたときの私の父だったのでした。父がフルに働いていた50代に私が到達した結果、私の様子が父が元気なときを彷彿とさせるようになったのです。私が工場にいる間、私の顔を見ては父と仕事をしていたときのことを皆さんが懐かしんでおられたのでした。
外国人をつれて工場見学を連れていただくたびに、藤本さんや齊藤透社長を始め齊藤酒造の皆さんにとてもよくしていただきます。藤本さんにとっては父への恩返しのつもりがあるのでしょう。他の皆さんにとっては昔を懐かしむためもあるのでしょう。父が齊藤酒造の皆さんに良い思い出を残してくれていて、そして私が父に似る、そのおかげで私は知り合いの外国人と特別な工場見学と試飲会ができるわけです。私にとっては父が残してくれた大きな贈り物に感謝するほかには何もいうことがない、そんな工場見学でした。
(参考)齊藤酒造 http://www.eikun.com/

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