フクロウblog | 睡眠障害とうつ病の話 ①睡眠時無呼吸症候群(ケセラセラvol.73)

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睡眠障害とうつ病の話 ①睡眠時無呼吸症候群(ケセラセラvol.73)

医療法人和楽会 横浜クリニック院長 工藤 耕太郎

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome; 以下SAS)というと、精神科一般の臨床ではあまり話題になることは少ない。しかし、すでに2000年には疫学調査でSASとうつ病が互いに18%合併することが明らかになっています。SASというと、重度に肥満の人がかかる病気という認識がありますが、少なくとも日本人の場合はそうでもありません。日本人のSAS患者さんの3割は肥満にはあたりません。これはモンゴリアンの骨格に依存する問題とされています。したがって、肥満がなくてもSASがあるかないかということに気を配らなければなりません。

それではSASの臨床症状とはどんなものであるのでしょうか。よく知られているのは眠気です。しかし、眠気があまり自覚されない場合もあります。またしばしばSASは入眠困難や中途覚醒を訴えるため、患者さんは不眠を訴える場合もあります。また、SASの眠気は起きた直後と夕方に強く、夜8時を超えると弱まる場合が多いため、患者さんは睡眠の状況を主治医に尋ねられた時、夜間のことのみ訴えることが多く、主治医はこの部分を慎重に聞き取る必要があります。また日中は集中力とやる気がでなくなります。食欲はむしろ増える場合が多いと思います。つまり、うつ病と似通った部分が多いのです。また睡眠に関しては、適切な問診が行われないと、逆の判断につながることがあります。

睡眠障害に限らず、不眠を訴える患者さんに対して、問診しなければならないいくつかのポイントがあります。

総臥床時間はもっとも重要な情報です。年齢ごとの必須睡眠時間を大幅に超える総臥床時間は、患者さんによってしばしば寝つきの悪さとして感じられます。しかし、これは入眠困難ではありません。また総臥床時間の延長は中途覚醒の回数と浅眠を増やすことが知られています。したがって、総臥床時間が明確に延長している場合、睡眠の評価は患者さんの訴えとは異なっていくことがあります。つまり、患者さんは眠れないという風に考えているけれども、実はそうではないことがしばしばありうるということです。

次に、睡眠時間の延長も問題です。必須睡眠時間より大幅な延長がある場合は、自然に睡眠は浅くなり中途覚醒が増え、かえって疲れた感じがでてきます。8時間以上、睡眠をとることが必要だと信じている方もいますが、実際には年齢に応じて必須睡眠時間は減少するものです。このことを正確に説明するのも日常の臨床では大事なポイントになります。

さらに、ベッドでの習慣です。ベッドの中では睡眠をとることだけにしないとなりません。ベッドの中で本を読む習慣がある人は多いかもしれませんが、この習慣は確実に睡眠の質を低下させます。

アルコール、カフェインの摂取が睡眠を妨げることも強調する必要があります。特にアルコールは入眠を誘導する場合もありますが、睡眠深度を浅くするため、飲酒後の睡眠は正常な睡眠と言い難いものです。

これらの睡眠に対する十分な問診と睡眠衛生指導を行うことにより、睡眠時無呼吸症候群を疑うことが可能になります。

さて、なぜ睡眠時無呼吸症候群の診断が精神科や心療内科で重要かというと、前記のように疫学的にうつ病と睡眠時無呼吸症候群は18%合併することがあげられます。しかし、それだけではありません。2012のAnnelieke M.R.の報告によれば、SAS未治療の場合、抗うつ薬の一種であるSSRI(この研究ではSertralineが用いられている)の効果が減少するとのことです。つまりうつ病患者さんの5人に1人は、抗うつ薬が十分に効果を出す身体状況ではない可能性があります。また、うつ病とSASの症状も似通っているので、適切に診断されない場合は、無駄な治療を行ってしまう可能性があります。もちろんSAS単独でも高血圧、心筋梗塞、脳梗塞の発症の危険性を増大させることから、重要な疾患であることは間違いありません。

横浜クリニックに赴任以来、問診上SASが疑われる患者さんに自宅でできるSASの簡易検査をお勧めしています。問診上、SASが疑われる患者さんが実際にSASと診断されるのは、現在のところ7割から8割の間というところです。治療した方の多くは日中の眠気や集中力の低下などが減少しております。今後もうつ病臨床においてSASの鑑別は重要になっていくものと思います。

次回は周期性四肢運動障害とムズムズ脚症候群について書く予定です。