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不安のない生活(25)ミュンヘンの思い出 その3(ケセラセラ vol.80)

医療法人 和楽会 理事長 貝谷 久宣

 

前回、狂気のバイエルン王ルードビッヒⅡ世について触れたが、このことについてもう少し書き綴ろう。

この王様は中世騎士道に憧れ、ワーグナーを寵愛し、彼のオペラの世界に酔いしれた。そして、ヴェルサイユ宮殿をはじめとするいくつかの城をワーグナーと共に巡った。ルードビィヒⅡ世は、自分の中世の浪漫の世界を再現する理想的な城を造ろうと考えた。その城がドイツ観光の目玉の一つとなっているロマンティック街道の終点フッセンの近くに位置するノイシュバンシュタイン城である。

この城がほぼ完成したのが1886年で、その8年前にはやはりミュンヘンの南西オーバーアマガウの近くにリンダーホーフ城を作っている。この城はノイシュバンシュタイン城に比べるとずっと小さく、独特で瀟洒なおもむきを持った美しい建物である。私はこれらの城が気に入りミュンヘン滞在中に何度も訪れた。

この建築物はまさに狂気の王が造ったと言える城である。

城の近くのヘーゼルベルグの高台には人工鍾乳洞で作った「洞窟」がある。中は、本当の鍾乳洞のように細工がしてあり、神秘的な感じをカプリ島の青の洞窟をモデルにして醸し出している。ルードビッヒⅡ 世はこの「ヴィーナスの洞窟」の中に作ってある小さな湖に浮かべた船に乗り、ワーグナーのタンホイザーに聞き入り幻想の世界に浸った。
彼は人を近づけず孤独を好んだ。宮殿の中の居室は華やかに彩られた豪華絢爛であった。

狂王を象徴する部屋は食堂だ。食卓はグリム童話の「魔法の食卓、金のロバ、袋の中の棍棒」に登場する“魔法の食卓”からヒントを得たものであった。この食卓の置かれた床は、巻き上げ装置になっており階下のキッチンまで下げることができる。厨房でつくられた食事が誰も部屋に入ることなしに食卓に並ぶように細工されていた。ルードビッヒⅡ世は自分の妄想の世界を誰にも邪魔されないようにするために一人で食事を摂っていたのだ。

王の料理人は王の奇行について次のように語っていたという。「王は食事の際、周囲に誰もいないことを望んだ。にもかかわらず夕食はいつも少なくとも3~4人分は用意しなければならなかった。王はいつも一人であったが、一人だという様子ではなかった。あたかも、ルイ14世とルイ15世やお連れのご夫人たち、マダム・ポンパドゥールやマダム・マノントンと一緒に食事をしているかのようであった。王は挨拶したり、会話をしたり、御客をもてなしている様子であった。晩年の王は、昼夜が逆転しており、朝食を夕方5時に出し、昼食は真夜中、夕食は早朝に用意した。」
宮殿には鏡の間があった。

私は鏡について中学生の時に恐ろしい経験をしている。それは理髪店でのことであった。私の行きつけの床屋は大きな鏡が前後にあった。調髪を受けていて自分の顔を見ると後ろの鏡に映った自分の顔があり、それがまた前の鏡に映っており、その連続で無限の数の自分がいるのを感じた。これを見続けると頭がどうかなってしまうと強い恐怖心に襲われたことは今になっても覚えている。これはまさに自我の分裂である(統合失調症は筆者が精神科医になったころは精神分裂病といっていた)。自我というのは、昔の自分と今の自分の一致、自分の行為が自分に属しているという観念、自分は一人であるという観念から成り立っている。自分がここにもあちらにもいるとなるとまさに自我の分裂である。

私は昔精神科病院に週に1回パート医として勤務していた。その頃、閉鎖病棟の洗面所の鏡の前から離れない男性患者がいた。自分の顔をしげしげと見つめ続けるありさまは異様であった。また、最近赤坂クリニックの外来で若いお母さんが相談に来院された。その内容は大学1年になる御嬢さんが学校へ行かず、鏡の前で自分の顔ばかり見ているというものであった。結局この患者さんは紹介した大学病院で統合失調症の治療を受け元気に通学されるようになられた。統合失調症と鏡の問題について論じた論文がイタリアから最近出されている(Caputoら、Schizophr Res 2012)。この論文によると、健常人でもうす暗がりの鏡の前で自分を数分間見つめていると、知らない人の顔にみえたり、鏡の中の他人“strangerface in the mirror”と名づけられている錯覚が起こるという。そして、歪曲した自分の顔、それは怪物であったり、死んだ親族の顔や動物の顔であったりするという。統合失調症ではこのような知覚の歪曲がより著明で怪訝なものが多いという。ルードビッヒⅡ世もただ一人鏡の間で自分の顔を凝視していたという。やはり統合失調症だったのだろう。
統合失調症の王様は、当時は財政危機を招き大変な状況を作ったが、今となれば世界遺産ともなった城を造りバイエルンの地に世界中から多くの観光客を集めている。やはり偉大な王であったのだ。

 

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