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PTSD PTSD-ちょうどエイズ(AIDS)と同じように、アメリカでの名称で、それもどちらかと言えば無味乾燥極まりない説明的名称の頭文字を連ねた略語ですが、最近はけっこうポピュラーになってきました。直訳すると「(心的)外傷後ストレス障害」になります。 生命に危険が及ぶようなショックを受けたとき、しばらく経ってからも、その当時のことがありありと思い出されて、苦しめられたり悩まされたりすることがあります。そうした症状に悩まされている人のうち、何人かは、PTSDと呼ばれる病気なのです。 この病気は、とくにベトナム戦争後の復員軍人にみられた、特徴ある症状群の研究を契機として、DSM(アメリカ精神医学会の診断基準)で確立した概念です。しかし、同様の症状は、歴史的にははるか以前から知られ、また診断基準そのものが社会的な事象と密接に結びついているために、その病像や疾患概念などについて、現在も議論が続いています。わが国でも、阪神大震災やサリン事件などの大事件を契機に、その名前が新聞をにぎわすようになり、最近では、その生物学的な基盤が注目されるようにもなってきています。 本書では、はじめにPTSDの概念と背景、診断と治療の試みを紹介し、後半で具体的なケースの数々を紹介するような構成をとりました。こういった具体的なケースに接していただくことで、自然に臨床的な特徴を理解していただけるとともに、病気が起こってくる背景に何があるかに目を向けていただければと期待したからです。 読者の中には、ご自身で類似の体験をもち、自分もそうではないかという不安をもっている方もおられるかと思います。そういった方にとっては、あるいは、治療としては何があるか、薬はどんなものがよいかなどの情報が不足していると思われるかもしれません。 実はそこが問題なのです。現在のところ、これはという確立した治療法がないという状況なのです。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類される薬が標準とされていますが、その成績もすばらしいとまでにはいきません。逆に言えば、だからこそ本書を企画したということもできます。 私たちは科学技術庁のプロジェクト研究として平成12年度から「ストレス性脳機能障害」をテーマに研究チームを発足させていますが、臨床研究としては、とくにPTSDに対象をほぼ絞っています。これは上記のような社会的要請を意識している他に、ストレスが脳に与える影響を研究するにあたって、その特徴ある症状群は、非常に多くの示唆を与えてくれると考えているからです。また、その診断と治療に対しても科学的な検討を可能にする機運がようやく整いつつあると考えているからでもあります。本文にも触れていますが、私たちはPTSDの発症機序を検討する一つの手立てとして、地下鉄サリン事件被害者の方のご協力によって貴重なデータをいただいています。本当にありがたいことです。そういったご協力に応えて、いっそう研究に邁進して、一日でも早く良い治療法の開発に結びつけなければと意を新たにしているところです。 本書が、PTSDの正しい理解に役立ち、さまざまな個人的体験を契機に、今もなおPTSD症状に悩んでおられる方にとって、多少なりとも問題解決に寄与することができれば何よりと考えています。 最後に本書の刊行に際して、編集の労をおとりいただいた日本評論社編集部小川敏明氏にこころから御礼申し上げます。 二〇〇一年ニ月 加藤進昌
PTSDとは何か ストレスと脳−PTSDの脳内メカ二ズム PTSDの生理学的所見と脳画像 PTSDと薬物療法 PTSDの認知行動療法 PTSDと新しい治療法−EMDR PTSDと損害賠償
自然災害におけるPTSD 被虐待児のこころのケアについて考える 性暴力被害におけるPTSD 国際テロ事件の人質におけるPTSDとその予防 パニック障害とPTSD EMDRを用いてトラウマを再構成する 臨床の現場から 多重人格(解離性同一性障害)の事例 大震災は精神症状にどのような影響を与えたか 交通事故被害とPTSD 児童虐待によるPTSD いじめによるPTSD 災害避難住民における心的外傷ストレス関連障害 ストレスで人は死ぬのか?
加藤進昌(かとう・のぶまさ/精神医学)=編者 不安・抑うつ臨床研究会 不安症(不安障害)の患者さんは多いのですが、社会におけるこれらの障害への理解はなお不十分で、患者さんはどこに助力を求めたらよいか迷っているのが現状です。不安・抑うつ臨床研究会は、不安障害と感情障害についての臨床研究を行ない、治療を提供する人々と治療を受ける人々に最新の情報を提供し、この分野の医療水準を高めることを目的として、精神神経科、心療内科の専門医、および臨床心理士の有志によって設立されました(代表:貝谷久宣)。研究会の事務局は、心療内科・神経科赤坂クリニック(東京都港区赤板3−9−18 B.I.C.赤坂ビル6階 phone03-5575-8198:fax03-3584-3433)にあります。 |