出版社
日本評論社

定価2800円+税

出版日
2001年5月31日


パニック障害
セミナー2001

貝谷 久宣
不安・抑うつ臨床研究会
【編】

藤井 薫
佐藤 啓二
上島 国利
渡辺 壮一郎
大野 裕
宗 未来
上松 正幸
尾中 祐二
【著】

  はじめに

 この本は,不安・抑うつ臨床研究会が患者自助会「日本パニック障害の会」の要請で行なっている第3回パニック障害セミナー(2000年8月27日開催)の講演内容に即した論文集である。全国4000人の成人男女に対して最近行なった私たちの健康調査で,パニック障害の有病率は3.4%にも達し,その大部分はまだ診断をされていない人々である。パニック障害を取り上げるマスコミの視聴率や購読率は驚くほど高く,そのたびごとに,日本パニック障害の会は質問電話の洪水にパニックに陥る。自分の近くにあるパニック障害を診られる専門医や医療施設を紹介してほしいとの問い合わせがその大部分を占める。患者会の悩みの種は,紹介できる医療機関が少ないということである。このようなことから,このセミナーはパニック障害を診断・治療できる医師を増やそうという意図のもとに行なわれている。こうした意図を汲み入れていただける受講者,そして日本パニック障害の会への登録医の数も年々増加の一途をたどり,日本パニック障害の会は着々と所期の目的を達しようとしている。

 さて,パニック障害はその生まれ故郷の米国でおいてさえ, underdiagnosed and undertreated であるといわれている。パニック障害は不安の病であり,症状が少しでも残れば不安をぬぐい去ることができない。10回のパニック発作が1回になれば,治療者は,たいへんよくなったと満足する。しかし,患者の不安は相変わらず消失することはなく,不満が残り,QOLは向上しない。パニック障害の治療は患者の立場に立たないと順調に進まない。また,半数以上のパニック障害患者はcomorbidityをもつ。comorbidityをもったパニック障害は難治で予後も難しくなることが多いようである。診断基準でうかがい知るよりも,パニック障害はたいへんな病気である。米国の研究では,パニック障害はうつ病よりも障害度が高い慢性疾患であるとされている。このようなことから,この病気が第一線の臨床家に広くしかも深く知られることが急務であると考える。この点に関し,2000年11月17日はパニック障害の患者にとって記念すべき日である。なぜならば,この日よりパロキセチンという薬が日本で初めて「パニック障害」を適応として上市されたからである。日本の保険医療において「パニック障害」という病気が公に認められたのである。

 今回のセミナーの講師陣には,パニック障害の研究および臨床では本邦で第一線に立つ方々においでいただくことができた。それゆえ,編者は,本書がパニック障害の理解を深め,日常の臨床においてよりよい診療がなされる助けとなるとかたく信じて,本書を上梓する。そして,本書がパニック障害に悩む患者さんの頑固な病苦が少しでも軽減される結果を招くならば,編者の望外の幸せとなるであろう。

 終わりにあたり,本セミナーで司会,講演をいただいた先生方に御礼を申し上げるとともに,受講者にも心より感謝する。

平成13年辛巳 弥生吉日
岐阜 加納 清水川の畔で
編者 貝谷久宣


  目次

パニック障害:疾病概念の変遷 ◎ 藤井 薫
T.Westphalの“Agoraphobie”(1885)
U.ヒルサイド病院でのKlinの業績
V.新クレペリン主義運動とDSM−V以後

パニック障害の診断 ◎ 佐藤啓二
T.パニック障害の診断
  
1.特徴的な臨床的病像
  
2.診断に際しての特別な注意事項
U.他の疾患との鑑別診断
  
1.他の精神疾患との鑑別診断
  
2.内科疾患や薬剤使用による障害との鑑別診断
  
3.Comorbidity(併発症)の問題

パニック障害の薬物療法 ◎ 上島国利・渡辺壮一郎
T.薬物療法の目的
U.個々の薬剤の効果と副作用
  
1.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
  
2.三環系抗うつ薬(TCA)
  
3.抗不安薬の効果とその限界
  
4.パニック障害に効果が認められる薬剤
V.薬物療法の実際
  
1.急性期
  
2.安定化・継続期
  
3.維持療法期
  
4.中止期
W.症例
  
1.SSRIの効果がみられた症例
  
2.三環系抗うつ薬の効果がみられた症例
  
3.ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果がみられた症例

パニック障害の認知療法 ◎ 大野 裕・宗 未来
T.認知療法とは
U.認知の歪みと修正
V.パニック障害の認知療法の実際
  
1.パニック障害に特徴的な考え方
  
2.生活指導と注意をそらす技法
  
3.リラックス法
  
4.思考記録ノート
  
5.行動を利用する
W.最後に:服薬に対する認知療法

症例検討
1.広場恐怖にフルボキサミンが有効であった一例
  ◎ 上松正幸

2.過敏性腸症候群を伴ったパニック障害の一例
  ◎ 尾中祐二


  著者紹介

藤井 薫(ふじい・いさお)
1955年長崎大学医学部卒。1960年同大学大学院医学研究科修了後,同大学精神神経科助手・講師・助教授を歴任。1966〜1967年フランス政府招聘技術留学生としてパリ大学医学部・サルペトリエール病院に留学後,1981〜1997年大分医科大学精神神経医学教授。現在大分医科大学名誉教授,医療法人カメリア・大村共立病院院長。編著:『Panic Grand Round '95−パニック障害研究最前線』(ライフ・サイエンス)ほか。

佐藤啓二(さとう・けいじ)
1974年和歌山県立医科大学卒。大阪大学医学部助手,滋賀医科大学勤務の後、1981〜1985年カナダブリティッシュコロンビア大学精神科に留学。帰国後,滋賀医科大学精神科講師を経て1997年にメープル・クリニックを開設、院長として現在に至る。著・訳書:『パニック性不安とその治療』(監訳、先端医学社),『臨床精神医学講座』第5巻(分担執筆,中山書店)ほか。

上島国利(かみじま・くにとし)
1965年慶應義塾大学医学部卒。1990年より昭和大学医学部精神科教授,現在に至る。編著書:『パニックディスオーダー』(国際医書出版)ほか。

渡辺壮一郎(わたなべ・そういちろう)
1995年昭和大学医学部卒。1999年より昭和大学医学部精神科助手,現在に至る。

大野 裕(おおの・ゆたか)
1978年慶應義塾大学医学部卒。1985〜1988年コーネル大学visiting fellow,1988年フィラデルフィア大学clinical visit。現在慶応義塾大学医学部精神神経科講師。日本精神神経学会評議員、日本ストレス学会理事,アメリカ精神医学会distinguished fellow。著書:『「うつ」を治す』(PHP研究所)ほか。

宗 未来(そう・みらい)
1998年旭川医科大学医学部卒。現在慶應義塾大学医学部精神・神経科専修医,国立病院東京医療センター精神科レジデント。

上松正幸(うえまつ・まさゆき)
1990年岐阜大学大学院医学部博士課程卒。羽島市民病院精神科医長を経て1995年より名古屋大学精神医学教室の教室員として診療に従事。1996年旭労災病院精神神経科部長就任。1997年池下やすらぎクリニックを開設,院長として現在に至る。

尾中祐二(おなか・ゆうじ)
1986年佐賀医科大学卒,同年より同大学精神神経科勤務。1996年おなか心療クリニックを開設,院長として現在に至る。

  編者紹介

貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)
1943年生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。マックス・プランク精神医学研究所留学。岐阜大学医学部助教授,自衛隊中央病院精神科部長を経て,現在医療法人和楽会(なごやメンタルクリニック,心療内科・神経科赤坂クリニック)理事長。編著書に『不安・恐怖症−パニック障害の克服』(講談社),『パニック障害研究最前線』『パニック障害症例集』(以上,日本評論社)ほか。

不安・抑うつ臨床研究会(CRA)
不安障害と感情障害についての臨床研究を行ない,治療者・患者それぞれに最新の情報を提供し,この分野の医療水準を高めることを目的として設立された研究会。事務局は心療内科・神経科赤坂クリニック内(電話:03−5575−8198)。