【講談社健康ライブラリー】

対人恐怖(社会不安障害)

著者:貝谷久宣

出版社:講談社
出版日:2002年2月10日
定価:本体1300円(税別)



 だれでもみんな自分のことを照れ屋だと思っています。実に95%の人が照れを経験しています。異性に対して少し照れ屋であるとか、大勢の人の前で話すことが苦痛だということはとてもよく聞きます。このような状態がエスカレートして、自分のやりたいこと、すなわち、個人的な願望とか人生の目標を成就する機会を逸していることが多いものです。それが、社会不安障害(社会恐怖)の状態です。社会不安障害はどこにでもありすぎて、正当に評価し、それに対する解決をあたえる助力がこれまでほとんどなされていませんでした。

 社会不安障害は、最近、精神医学界でもやっと注目されるようになった障害です。1980年代から90年代にかけてはパニック障害や強迫性障害が注目をあびました。21世紀は、社会不安障害の時代です。

 社会不安障害は日常的な一般の不安の一部と考えられ、病気としては見すごされてきたきらいがあります。また、その程度が強い場合は性格と思われてきました。しかし、これははっきりした病気です。

 残念ながら社会不安障害をもつ人はなかなか助けを求めようとしません。また患者数は、精神医学の専門家が考えている全人口の数%〜16%より多いようです。それにいちじるしい技術の進歩とはげしい競争社会という現代的課題が増加に拍車をかけています。コンピュータ社会になりネクラ人間が増え、人との接触がへたな若者がますます増えています。また、核家族化した現代の家庭ではこのような患者さんをカバーできないという問題もあります。

 この病気は気づくことによってみんながよくなります。社会不安障害の克服は、その人の人生をより充実した前向きで生産的な人生に変えます。

 「対人恐怖症」は日本の文化に深く結びついた心の病気です。本書で述べる社会不安障害は対人恐怖症に含まれていますが、対人恐怖症は社会不安障害のほかにもより幅広い病態を含んでいます。それらの症状は社会不安障害に含まれるものよりもっと精神病的なものです。

 たとえば、関係妄想(自分のことを噂しているなど)や加害妄想(自分の視線が相手の心を傷つけたなど)などがある状態です(ここで妄想というのは訂正不能の確信を意味しています)。「対人恐怖症」 には、さらに、精神分裂病の前駆症状としての種々な症状を呈する状態が含まれます。本書ではこのような精神病的な症状は含まない純粋な恐怖症、すなわち社会不安障害だけを取りあつかいます。

 わが国におけるこのテーマに関する類書はないことはありません。とりわけ日本が世界に誇ることのできる森田療法から対人恐怖にアプローチしたものがあります。著者はこの治療法の日本における重要性と信頼度は評価するものですが、実際にこの療法を一人ですることは結構困難です。また、専門の治療施設もそれはど多くありません。社会不安障害に関するそのほかの紹介書では、ほとんどが社会不安障害を不安障害としてではなく神経症としてとらえた古いものしか見あたりません。または、精神主義一本槍のものもあります。

 本書は、最近の新しい精神医学の考え方にそって、脳の働き(機能)を中心に症状を理解し、薬物療法と認知行動療法のアプローチによって快復することを示すものです。

 本書が社会不安障害に悩む患者さんだけでなく、精神保健に携わるすべての人々にお役に立てることを著者は期待しています。

なごやメンタルクリニック・赤坂クリニック理事長
貝谷久宣

 

::::: 目次 :::::

社会不安障害のいろいろ
スピーチ恐怖.書痙.会食恐怖.視線恐怖.赤面恐怖.対人恐怖.振戦恐怖.排尿恐怖.発汗恐怖.腹鳴恐怖.電話恐怖.職業上の深刻な問題.ほかの病気とまぎらわしいケース.
社会不安障害とは
不安・恐れ・パニック・恐怖(症)とは.人はなぜ人を恐れるか.社会不安障害とは.社会不安障害は性格か病気か.社会不安障害とはどんな状態か.
診断の方法
診断はこのようにされる.社会不安障害の重症度を知るための尺度.どんな人がなるか(疫学).ほかの病気(状態)とのちがい(鑑別診断).
社会不安障害がおこる原因
心理的・環境的要因.遺伝的要因.社会不安障害患者にみられる身体の変化と心の関係.
社会不安障害によくみられるほかの病気
うつ病の併発.パニック障害の併発.
社会不安障害にしばしばみられる性格
回避性人格障害.社会不安障害患者の心模様.
治療はこのようにされる
薬物療法にはどのような効果があるのか.心理療法の特徴.薬物療法と心理療法の併用.社会不安障害の治療薬.薬物療法の疑問に答えるQ&A.社会不安障害の行動療法.認知療法.
ソーシャル・スキル・トレーニング
ソーシャル・スキル・トレーニング.身体が発する言語.著者から社会不安障害患者に贈る言葉.