食べられない やめられない

摂食障害

出版日:2002年2月15日

久保木富房/不安・抑うつ臨床研究会編

発行所:日本評論社

 定価:1700円+税

はじめに

 食欲はわれわれの生命を維持するために不可欠のものであり、通常は意識的に考えることなく機能しているものと思われています。

 しかし、実際には、意識して食事をとめたり、食べたりすることがあります。この「意識的に考える」という部分は、大脳の役割なのですが、そのうち、食欲に関係するところは、認知調節系といわれている部分が担っていることがわかってきています。たとえば、若い女性がやせたいと考えてダイエットをしたり、満腹感を感じているのに「ケーキは別腹よ」と言って食べてしまうときには、この認知調節系の部分がはたらいているのです。

 ちなみに、意識的に考えがなくとも機能している部分は代謝調節系といわれる部分が担っており、この調節系の中心は視床下部というところにあって、通常は意図的に操作できません。

 つまり、食欲は意図的に操作できる部分と、そうでない部分によって成り立っているのです。

 食欲に関係している、もうひとつの大事な要素は、こころへの影響です。みなさんも、特別おいしい食事でなくても食べているとき、どこかホッとしているのではないでしょうか。食べるという行為には、安心感や抗ストレス効果があるのです。

 一方、逆に、意図的にダイエットをしたり、数日以上断食をすると、精神的に爽快になったり、ときに変に元気になったりすることもわかっています。毎日摂取している食物(エネルギーやいろいろな栄養素〉が体内に入ってこないことによって、代謝に変化が生じ、この変化が身体面、精神面(主に情動面)に影響をおよぼすのだろう、と推測されています。宗教的な断食などは昔から、修行や悟りを得るために利用されてきていました。

 このように、食欲については、脳機能の側面と、こころの情動部分の側面、この二つの側面が絡み合っていることがわかるでしょう。摂食障害はこの二つの絡み合いの中から生まれている病気なのです。

 これまで摂食障害は思春期の女性に限定された病態として、どこか軽く考えられてきました。しかし、最近ではいろいろなことがわかってきています。

 たとえば、25%から30%ぐらいの患者さんは、10年から20年という長い期間、この病気と戦っています。また、食べられない「不食型」と、やめられない「過食型」があるのですが、たがいにその症状を行き来することがあるのです。さらに、不食→無月経→極端なやせのために死亡する場合や、過食→嘔吐→二次的うつ病となり自殺する場合など、深刻なケースが存在することもわかってきています。

 発症の原因には、最初に述べた認知調節系(大脳)や代謝調節系(視床下部)が関与しているのですが、その他に、女性ホルモンによる影響(とくに思春期には、食欲は旺盛となり、皮下脂肪が増加し、体重が増えます)や、受験や友人関係といったストレスの増加、家族内の問題など多くの要因が複合的に関係しているようです。また、真面目で頑張り屋が多いなど、本人の性格も関係しているといわれています。

 治療については、くわしくは本文をみていただきたいのですが、基本的には代謝調節機能(視床下部)を安定化させることにあります。

 以上のような、摂食障害に関する最新の知見を集め、第一線で活躍する先生方に原稿をお願いして、一冊の本にまとめてみました。第一部では、,おもに症状の理解と治療について、第二部では、さまざまな事例について、解説してあります。

 本書が摂食障害の正しい理解の一助となり、患者さん、家族をはじめ、一般の方々に役立つものとなれば幸いです。

久保木富房

目 次


第1部 摂食障害とはどういう病気か

摂食障害とは

末松弘行


摂食障害の生理学−精神科からのアプローチ

山下達久・岡本明子・福居顯二

摂食障害の身体症状−心療内科からのアプローチ

山中 学

摂食障害の再養育療法

山岡昌之

摂食障害の行動療法

切池信夫


第2部 さまざまな摂食障害のかたち

彼女たちをとりまく世界−摂食障害とこころの環境

岡本百合

育児中にみられる摂食障害

西園マーハ文

外来治療で拒食症を治す

野崎剛弘・久保千春

入院をくり返した女性

黒木延隆・中山孝史・野添新一

考え方や人間関係を
軌道修正して症状が改善する

宗 未来・大野 裕

健康食品依存症が引き起こした拒食症

寺下謙三

小児摂食障害とのあゆみ

高宮静男

治療に頑強に抵抗した女の子

平野浩一・大関武彦

摂食障害の男の子

小牧 元

限界への挑戦−摂食障害の男性例

鶴ヶ野しのぶ

筆者(執筆順)

久保木富房(くぼき・とみふさ/心身医学)=編者
東京大学医学部心療内科教授

末松弘行(すえまつ・ひろゆき/心身医学)
川村学園女子大学大学院人文科学研究科教授

山下達久(やました・たつひさ/精神医学)
京都府立医科大学精神医学教室講師

岡本明子(おかもと・あきこ/精神医学)
京都府立医科大学精神医学教室

福居顯二(ふくい・けんじ/精神医学)
京都府立医科大学精神医学教室教授

山中学(やまなか・がく/心身医学)
東京女子医科大学附属第二病院内科

山岡昌之(やまおか・まさゆき/心身医学)
九段坂病院心療内科部長

切池信夫(きりいけ・のぶお/精神医学)
大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学教授

岡本百合(おかもと・ゆり/精神医学)
広島大学保健管理センター助教授

西園マー八文(にしぞの・マーハ・あや/精神医学)
東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所

野崎剛弘(のざき・たけひろ/心身医学)
九州大学医学部心療内科講師

久保千春(くぼ・ちはる/心身医学)
九州大学医学部心療内科教授

黒木延隆(くろき・のぶたか/心身医学)
鹿児島大学医学部心身医療科

中山孝史(なかやま・たかし/心身医学)
鹿児島大学医学部心身医療科

野添新一(のぞえ・しんいち/心身医学)
鹿児島大学医学部心身医療科教授

宗未来(そう・みらい/精神医学)
国立病院東京医療センター

大野裕(おおの・ゆたか/精神医学)
慶鷹大学医学部精神神経科講師

寺下謙三(てらした・けんぞう/内科・心身医学)
寺下謙三クリニック院長

高宮静男(たかみや・しずお/精神医学)
西神戸医療センター神経科

平野浩一(ひらの・こういち/小児科学)
浜松医科大学小児科学講座助手

大関武彦(おおぜき・たけひこ/小児科学)
浜松医科大学小児科学講座教授

小牧元(こまき・げん/心身医学)
国立精神・神経センター精神保健研究所心身医学研究部長

鶴ヶ野しのぶ(つるがの・しのぶ/心身医学)
東京大学医学部心療内科