書評

貝谷久宣 著

気まぐれ「うつ」病 −誤解される非定型うつ病−

久保木 富房

(東京大学名誉教授,楽山病院院長)

心身医学 Vol.47 No.11, 2007 P,938

 最近、改めてうつ病(気分障害)の多様性が注目を集めている。来年に開催される第5回日本うつ病学会(会長:神庭重信九州大学教授)のメインテーマがこの「うつ病の多様性」と予定されている。まさにタイムリーな上梓といえる。非定型うつ病に関する一般向けの解説書は大変少ない。夕方から生じる抑うつ気分、出来事や人間関係への過敏性、過食、過眠、そして激しい疲労感があり、従来のうつ病と異なる。このような反応を示す「非定型うつ病」が今、都市部を中心に拡がりつつある。きわめて現代的な病でありながら、周囲から「お天気屋」「気まぐれ」と誤解を受けやすいものである。本書において初めて包括的にその特徴と症例、治療法が解説されている。非定型うつ病は、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)が著効したうつ病の一群として歴史が始まっている。

 著者の貝谷久宣氏は岐阜大学助教授、自衛隊中央病院神経科部長を経て、現在なごやメンタルクリニック・赤坂クリニックなどで理事長として活躍されている。筆者は1990年ジュネーブで開催された世界パニック障害会議に日本代表として御一緒してから親しく御指導を受けている。貝谷氏のすばらしいところは、臨床、研究、教育のすべてにおいて実績を残されている点であり、バランスが取れているということにつきる。臨床については述べる必要もないと思うが、研究面では毎年、WPA(アメリカ精神医学会)をはじめ多くの学会に出席し、世界的に活躍している研究者と懇意な関係にある。筆者の知っている名を挙げてみると、D.H.Barlow, J.M.Gorman, S.M.Stahl, J.R.Davidson, B.Bandelow, M.Mavissakalian, G.Parker. D.Sheehan, T.W.Uhde, M.Liebowitz, M.M.Weissman などきりがない。

 教育面では現在もいくつかの大学で講師として仕事をされている。筆者の大学でも5年間講師として学生の教育に貢献してくれた。教育熱心で学生の評価は大変高く、今もその影響を受けた研究者や臨床家が活躍している。
 本書の中でも不安・抑うつ発作について詳しく述べているが、貝谷氏は不安・抑うつ臨床研究会という組織を作り、さらにその組織をNPO法人とし、毎年パニック障害セミナー、八ヶ岳シンポジウム、東京認知行動療法アカデミー、都民公開講座などを主催しているオーガナイザーでもある。

(新書判/208頁/定価714円/2007年/筑摩書房)