カルバマゼピンとは?

 カルバマゼピンはてんかんや三叉神経痛の薬として使われていました。しかし、最近、躁うつ病患者にも使われます。カルバマゼピンが使用される患者は、炭酸リチウムなどの躁うつ病薬の効果がなかったり副作用のでた人です。

 カルバマゼピンは100mgまたは200mgの錠剤として経口投与されます。この薬の商品名はテグレトール、またはテレスミンです。

  躁うつ病とカルバマゼピン

カルバマゼピンは何に対して効くのでしょうか?

 てんかんや痛みの治療といった普通の使用法以外に、カルバマゼピンは気分変動を伴う種々な精神症状や情動障害に効果があります。このような状態は医学用語では、躁うつ病、両極性障害、単極性気分障害と呼ばれています。

 躁うつ病の人は躁病とうつ病の病相を繰り返します。このような病相が一回で終わる人はごくまれです。躁病相だけを繰り返し示す人も躁うつ病と考えられています。しかし、何度もうつ病相だけを繰り返す患者は大うつ病または単極性情動障害と呼ばれ、躁うつ病とは区別されています。

 躁病は気分が通常から逸脱し極端に活発になった状態です。気が大きくなり、気分が高揚し、世界中で一番偉くなったような多幸気分を示します。躁病相においては、睡眠は減少し、早口でいつまでも喋り続け、食事を余りとらず、がまんすることが難かしくなり、すぐ興奮し、考えが次々に浮かびます。病気が進むと物事の判断も怪しくなり、現実認識が困難となります。人が何をいっているかを理解することさえ難かしくなることがあります。時には、衝動的行為により自分自身も家族も大変な損害を被るような経済的、職業的、または法的な犠牲を引き起こすことがあります。そうすると入院治療が必要になります。軽躁状態は躁病と同じ状態ですがその程度が軽い状態をいいます。

 うつ病は普通の気分からから沈みこみ、憂うつで、悲しくて、不幸な気分に変化した状態です。うつ病では、睡眠パターンの変化、食欲の変化、性欲減退、気力の低下、悩みの増加、すべての興味減退、楽しむ能力の喪失、集中力及び記憶力減退が出現します。出勤したり学校へいくといった平常の日常活動が困難になります。うつ病になると自殺のことを考えたり、実際にやってしますこともあります。このような人は入院治療が必要です。

 上記のような、躁病やうつ病の現実的な状態を知っていると、このような状態は明らかに医学的な病気であって、普通の人が日常経験するような気分がよいとか悪いとかいった生理的な状態とは根本的に違っていることが理解できるはずです。

躁病やうつ病はよくある病気なのでしょうか?

 控えめに見積もっても少なくとも1000 人のうち 5 人(0.5%)は生涯に躁うつ病にかかります。うつ病は躁うつ病とは別もので、もっとポピュラーな病気です。重症のうつ病の生涯発生率は、1000 人に150人(15%)の割合です。

躁うつ病は遺伝しますか?

 家族調査、双子研究、および養子研究により躁うつ病には遺伝的な関与があることがわかっています。たとえば、躁うつ病の近親者には一般人口と比べて躁うつ病が多いことが明らかにされています。しかし、すべての躁うつ病において遺伝的な因子がはっきりしているわけではありませんし、それがあったとしても、その遺伝形式は十分によくわかっていません。結論をいうと、近親者に躁うつ病のある人の病気の発症危険率を算出することはできません。この病気の遺伝性に関しては、参考図書である”こころと遺伝子”という本に詳しく書かれています。

カルバマゼピンは躁うつ病を根治しますか?

 残念ながら根治ではなく、症状のコントロールにはたいへん有効な薬です。躁うつ病を、現在、根治する方法はなく、その原因も不明です。社会生活に支障を来すほど気分の揺れが大きい躁うつ病にかかっている人にとって、カルバマゼピン治療は次の二点において非常に意義があります。

急性エピソードの正常化-----カルバマゼピンは躁状態を普通の状態に戻します(一部の急性うつ病にも有効です)。
その後のエピソードの予防-----カルバマゼピンは躁病とうつ病の再発を予防します。

 カルバマゼピンが躁うつ病の根治薬ではなく、症状をコントロールする薬であるということは、大切なことです。すなわち、もしカルバマゼピンの服用をやめてしまうと、躁病またはうつ病が再発する可能性が強いことを意味しています。

 薬により病気を治してしまうというより症状を抑えるということは実際の医学では普通のことです。たとえばよい例が糖尿病治療薬のインシュリンです。インシュリンは糖尿病の根本原因を治すことはありませんが、症状を抑え、糖尿病患者が普通の生活を送ることを可能にします。もしインシュリンを中断すると症状がまた出現します。インシュリンは糖尿病の症状を抑えその病気のいろいろな併発症も予防しますが、糖尿病そのものはなくなりません。高血圧、心不全、関節炎でも薬で症状をコントロ−ルしているだけです。

 躁うつ病の患者はカルバマゼピン治療を受ける前に躁病とうつ病の病相を何度も繰り返しています。もしカルバマゼピンをやめるとほぼ確実に躁うつ病のエピソードが頻回にまた出現してきます。躁うつ病は抑えられない状態になります。

 躁うつ病の患者で1年のうちに何回も躁病とうつ病の病相を繰り返す人があります。1年に4回以上エピソードのある人を”ラピッドサイクラー”と呼びます。このような患者には、炭酸リチウム単独治療は効きません。カルバマゼピンはこのような患者に特に有効です。

 躁病とうつ病の病相が頻回にはない躁うつ病患者がいます。ある人は数年に1回とか、生涯のうち1回か数回あるだけでその後は発症しない人もいます。このようなことがどうして起こるのかは、躁うつ病の原因が不明であることと同様に明らかにされていません。頻回にエピソードがない人はカルバマゼピンを続けて服用する必要はありません。しかし、病気の経過を予知することは困難ですから、カルバマゼピンを中断する前にこれから躁うつ病エピソードが起こる可能性を医師と充分に話し合うことが必要です。

カルバマゼピンは患者の生活をさかのぼって正常化することができるでしょうか?

   

 カルバマゼピンは躁うつ病の症状を予防するのに効果はありますが、完全に治してしまうことはありません。将来の気分変動には予防効果がありますが、服薬前にあった躁やうつのエピソードによるいろいろな問題を解決することはありません。躁うつ病とは関係ない生活上の問題を解決することもありません。このような問題は精神療法やその他のカウンセリングにより取り扱われるべきことです。

カルバマゼピンが効いていることはどうしてわかるのでしょうか?

 カルバマゼピンが気分の動揺を効果的にコントロールしているならば、副作用はほとんどありません。

カルバマゼピン服用中にまた躁うつエピソードが起こるならばこの薬物は作用していないのでしょうか?

 必ずしもそうではありません。カルバマゼピンは気分変動を予防する働きがありますが、部分的に効いていることも時々有ります。その後に起こるエピソードはあまり激しくなく、また頻回ではなく、更にカルバマゼピンを続けていけば完全にエピソードがなくなることがあります。それ故、カルバマゼピン治療を始めた後に気分変動が生じても、そんなにがっかりすることはありません。すべての人がカルバマゼピンに反応するとは限りませんが、最終的には、結局カルバマゼピンでよくなる人が多くいます。このため、この薬物の効果が出現するのを十分に見きわめないで治療をやめてしまわない、ことが大切です。

 カルバマゼピンを飲んでいてもまだ気分変動が起こるならば、直ちに医師に連絡をとるべきです。しばしば一時的にカルバマゼピンの服用量の調節を必要とする事があります。または、一時的にまたは続けて別の薬を併用する必要があることもあります。気分変動を抑えるのにカルバマゼピンでもリチウムでも単独使用では効果がでない患者がいます。一方だけでは十分に効かない場合でも、両者を併用することにより気分変動が完全に予防できることもあります。

躁うつ病の治療に対し患者は何を考えるのでしょうか?

 躁うつ病の治療は、多くの患者にとってその生活の秩序をとりもどさせ、より有意義な人生にするものです。しかし、この治療に戸惑いを感じる人もあります。生涯にわたる治療を続けなければならない慢性の病気にかかっていることが納得できない人もあります。また、自分の意志の力で他の人と同じ様にならなければならないと感ずる人もいます。薬を飲み続けることは他の人に自分が”きちがい”であるとか”慢性精神病”であるとわかってしまうのではないかと恐れる人もいます。患者が、自分の状態は医学的な病気であって誰かに罪があるのではない、ということを他人に説明することは、たいへん困難なことです。

 健康になると、自分が躁状態でいろいろ問題を起こしたことを忘れてしまって、薬を飲むことを嫌ったり、副作用のために飲まなくなってしまうことがります。

 このような問題を、家族、友人および主治医と話し合うことが必要です。他の病気と同じように躁うつ病でも、薬を飲むことがいちばん大切です。自分の病気とその治療法について十分理解すれば、より充実した人生を送ることができるのです。

カルバマゼピンはどの様に作用して効くのでしょうか?

 カルバマゼピンは内服されるとゆっくり血液中に取り込まれ、脳をはじめとして全身の臓器に分布します。カルバマゼピンは肝臓で代謝され、胆汁中に排泄されます。その胆汁は腸を通って体外に排泄されます。肝臓はこの薬物を代謝する主なところですから、肝障害の時は薬の量を調節する必要があります。肝臓病の時は場合によってはカルバマゼピンの投与はやめた方がよいこともあります。カルバマゼピンと同じように代謝される薬を飲んでいるときは、カルバマゼピンの代謝が遅れることがあるのでこのようなときも投与量の調節が必要です。  

どれくらいでカルバマゼピンの効果が出てくるのでしょうか?

 カルバマゼピンに速効性があるのはたいへん稀です。カルバマゼピンを服用し始めてからすぐ調子がよくなる人もいますが、多くの人には効果はゆっくり出てきます。

 1週間から数週間後に改善の兆しがみられ、その後、ますます改善していきます。カルバマゼピンの効果が十分に出るまで、短期間、別の薬が同時に処方されることがあります。カルバマゼピンは効果発現は遅いので、その治療を始めてから効果が出てくるまで辛抱強く待たなければなりません。このことを知っていないと、落胆してあきらめるのが早すぎてしまう結果になります。

  カルバマゼピン治療の開始

医者はカルバマゼピン治療の前にあなたについてどんな情報が必要でしょうか?

 病歴:そのほかになにか病気はありませんか? たとえば、心臓病、肝臓病、てんかん、貧血やその他の血液疾患、緑内障、糖尿病等ありませんか? どんな病気でも大切ですから主治医に話しておきましょう。また薬に対するアレルギーの既往はありませんか? たとえばうつ病の薬に対するアレルギーはありませんか?特に躁病やうつ病のような精神障害が家族にあるかどうかは大切です。

 服用中の薬:心臓病や高血圧の薬、経口避妊薬、血液製剤、抗生物質、抗うつ薬は服用していませんか? 自分でドラッグストアーで買って飲んでいる薬を含めて、服用している薬はすべて主治医に言っておく必要があります。

 食餌と嗜好品:コーヒーや紅茶を大量に飲みませんか? アルコールの量はどれくらいですか? 特別なダイエットはしていませんか? または、これからそんな計画をしていませんか?

 職業と職種:危険な機械を扱ったり車の運転をしなければなりませんか?(カルバマゼピンは時に、一過性のことが多いですが、眠気やふらつきを催したりします。)

 女性特有な事項:妊娠していませんか? またはカルバマゼピン服用中にそのような可能性は起きませんか? そして、授乳することはありませんか?(カルバマゼピンは胎児や母乳栄養の乳児にはよくありません)。

 ここに述べてきただけでは十分ではありませんが、カルバマゼピン治療を受ける前に、主治医にどの様なことを言っておくべきか参考になるでしょう。あなたが別の医師に治療を受けていても、精神神経科の医師にも病名や服用中の薬については言っておくことが大切です。詳しく知らなくてもそれなりに主治医に伝え主治医の判断を待つべきでしょう。このような情報がないとあなたの主治医は安全且つ効果的な治療をする事ができません。 

カルバマゼピンを妊娠中に飲んではいけませんか?

 妊娠中にカルバマゼピンを服用している母から生まれた子供とフェニトインやフェノバルビタールを服用している母から生まれた子供を比較した研究によると、どのくすりも同じくらい傷害を起こす危険性があります。

 ヒトに使用されるよりもずっと多い量のカルバマゼピンを妊娠しているラットに投与してその仔ラットを見ると傷害の頻度は高くなっています。

 妊娠前期3カ月間はカルバマゼピンは中断することが望ましいといえます。しかし、気分変動が激しくカルバマゼピン投与中止が出来ない症例もあります。一人ずつ状況が違うので、カルバマゼピン服用と出産については妊娠する前に主治医と相談する必要があります。

 もし自分が妊娠している可能性があるならば、そのことをすぐ主治医に言って生まれてくる赤ちゃんに対するカルバマゼピンの危険性について話し合う必要があります。

 カルバマゼピンは乳汁中にもでてくるので、カルバマゼピンを服用しているお母さんが母乳栄養をすることは好ましくありません。カルバマゼピンの含まれたミルクで栄養を受けると発育や外観に好ましくない影響がでます。妊娠中や授乳中にカルバマゼピンを服用するときの特別な危険性については遺伝相談で情報を得ることが出来ます。父がカルバマゼピンを服用している時に妊娠した子供や、妊娠する直前まで母がカルバマゼピンを服用していて生まれた子供には何も影響はありません。ヒトについては何も情報はありませんが、雄ラットに大量のカルバマゼピンを与えると精巣に傷害を起こします。しかし、このようなことがヒトにも起こることは考えられません。

カルバマゼピン治療を始める前に血液・尿検査は必要でしょうか?

 何種類かの検査は必要です。それはカルバマゼピンを安全に使用できることを確認する意味と、カルバマゼピン使用前の体の調子を調べておいてカルバマゼピンを使いだしてからのその影響をチェックするために必要です。検査の項目は患者の医学的状態と主治医の判断によりますが、必ずしておかなければならない検査もあります。カルバマゼピンは肝臓で代謝されますし、また肝機能障害を起こすことがありますから、肝臓の検査は大切です。甲状腺機能のチェックも大切です。なぜならば、甲状腺の機能亢進または低下は躁病やうつ病と似た症状を引き起こすからです。赤血球(酸素運搬)、白血球(感染に対して抵抗する)および血小板(出血したとき血を固める)数を検査することも必要です。

カルバマゼピンはどのようにして服用したらいいのですか?

 カルバマゼピンの使用に熟達した医師はどれくらいの量を何回ぐらい飲んだら良いかを上手に決めます。適当な服用量は人によって異るので、処方箋の指示に従わなければなりません。疑問があれば遠慮せずに、医師や薬剤師に服薬について尋ねてください。副作用を最小にするため、期待できる効果がでてくるまで服薬量を少しずつ増量します。最小有効服薬量が見つかるまで服薬量は調節されます。

 カルバマゼピンは、普通、1日に3〜4回に分けて服薬します。指示通り規則正しく服薬することが大切ですから、飲み忘れたり飲み過ぎたりしないような方法を見つけださなければなりません。簡単に言えば、飲み忘れれば効果が不十分ですし、飲みすぎれば副作用がでるということです。1週間分の薬が入るようになった薬入れはこの問題を解決するでしょう。

 治療の中断を予防するために、薬がなくならないように受診する必要があります。患者は何も不都合なことがないと、カルバマゼピンを服薬している意義を無視してしまい、受診が遅れて薬がなくなったり、服薬を完全にやめてしまいます。カルバマゼピンは将来また起こる気分変調を予防しているので、”再発予防保険”を自ら捨てることになってしまいます。

 食後に服薬することが多いですが、これは服薬することを忘れないことと、空っぽになった胃に薬が入ると吐き気が起こることがあり、これを防ぐ意味があります。しかし、カルバマゼピンは必ずしも食後に服薬しなければならないということはありません。

なぜカルバマゼピンの血中濃度を調べる必要があるのですか?

 これで血液中のカルバマゼピンの量がわかり、全身にどれくらいの薬が入っているかという情報を医師に与える重要な検査です。カルバマゼピンが少なすぎれば、気分の変動を抑えるのに効果不十分ですし、多過ぎれば副作用がでます。それ故、カルバマゼピンの血液検査には2つの意義があります。すなわち、カルバマゼピンが有効で安全であることを保証するのです。

 有効で安全なカルバマゼピンの濃度を”治療”濃度といいます。これは個人差がありますが、一般には 4〜12 μg/ml です。この濃度はまた検査法の違いにより病院や検査室によっても変わります。治療濃度以上であればより有効であるということはなく、むしろ副作用が出現します。カルバマゼピンを服用している人は主治医に自分のカルバマゼピン濃度を聞き、それが適当量かどうかを尋ねると良いでしょう。

 カルバマゼピン血中濃度検査の目的は、適切なカルバマゼピンの投与量を決める1つの手段に過ぎません。適当量の目安はあくまでもカルバマゼピンを服用している人がどの様に感じどれくらい社会で活躍できるようになっているかということが重要なのです。

他の薬(アスピリン、ペニシリン、風邪薬など)では必要ないのにどうしてカルバマゼピンには血液検査が必要なのでしょうか?

 それにはいくつかの理由があります。まず、カルバマゼピンは血中濃度をはかることが出来る薬です。次に、服用されたカルバマゼピンは人によってその吸収のされ方、分布の仕方、及び肝臓からの排泄のされ方がさまざまです。ですから、同じ量のカルバマゼピンを服用しても人によって血液中の濃度が異なるわけです。血液中の濃度を知ることによってカルバマゼピンの中毒を予防しながらその治療的利点を保つことが出来るのです。

 普通には、治療開始後2〜6週間の間にカルバマゼピンの投与量を増加しなければなりません。これはカルバマゼピンが肝臓におけるカルバマゼピン自体をも含む薬物の代謝を早めるからです。カルバマゼピン治療中の患者が飲んでいるそのほかの薬物もこれと同じ理由で体内から早く排出されます。

どのくらいの頻度でカルバマゼピンの血液検査が必要でしょうか?

 治療が安定しているときに比べてカルバマゼピン治療を始めたときや投与量を変えたときは頻回に血液検査をする必要があります。

 カルバマゼピン治療開始時は比較的頻回に― 数週間は1週間に1回 ―血液検査をする必要があります。血中濃度がいったん安定すれば、1カ月に1回か、または医師の指示でそれは決定されます。

 治療開始時の調節と安定期の定期的血液検査以外に、カルバマゼピンの有効血液中レベルをはずれたと医師が判断したときには、血液検査の指示が更に出されます。これには次のような状況が考えられます。

  1.カルバマゼピン血液中レベルが低すぎて躁うつ病の症状がぶりかえしてきたと考えられるとき。

  2.カルバマゼピンレベルが高すぎて副作用が増加してきたと考えられるとき。

 状況によって、医師はカルバマゼピンの血中濃度の結果を知る前にその投与量を変えることがあります。もし投与量が変われば、それが有効血中濃度に達したと考えられるようになったときにまた血液検査をします。

 一般には、カルバマゼピンを服用後8〜12時間後、すなわち、早朝次の服薬直前に採血が行われます。服薬直後に採血すると誤った結果がでることがあります。血中濃度は患者が数日間同じ用量で規則正しく服薬し、血中濃度が安定期に入ったときに最も正確にでます。

 このような血液検査は不便と考えられるかもしれませんが、しかしこの検査はカルバマゼピン治療が有効且つ安全になされるためにはたいへん大切なものです。このようなために、カルバマゼピンを服用している患者は血液検査の予約をしっかりと守らなければなりません。

カルバマゼピン血液検査を受けるのにどの様な準備が必要でしょうか?

 検査前数日間はカルバマゼピン服用を規則正しくしなければなりません。これによって検査結果が信頼できるデ―タ―となります。食事をとっても検査結果に影響はありませんから、検査当日の朝食はとってもかまいません。もし検査前数日間の服薬が不規則ならば、それを医師に告げ再検査の予約をとる必要があります。そうしなければ検査結果は誤ったものとなり、服薬量の調節に誤りが生じてしまいます。

  カルバマゼピンの副作用

カルバマゼピンには副作用があるのですか?

 すべての薬物に副作用があるようにカルバマゼピンにも副作用はあります。どんな副作用か、そしてどうしたらよいかを知ることが大切なのです。少しわずらわしいだけで時間とともに消えていく副作用もありますし、たいへん重篤ですぐ医師に相談しなければならない副作用もあります。

カルバマゼピン治療を始めたときまずどの様な副作用が起こりますか?

 治療初期に数週間続く副作用として次のようなものがあります:

 よくある副作用;眠気、細かい動きが不器用になる、瞬間的な二重視、めまいや立ちくらみ、吐き気(時に食欲低下や胃痛みを伴う)

 まれな副作用;筋肉や関節の痛み、便秘や下痢、口の渇き、頭痛、太陽光線をまぶしく感じる、舌が赤くただれる、脱毛、性的問題、多汗、嘔吐、聴力障害(最近日本国内で報告されたが、いづれも一過性で重篤ではない)

 たくさん並んでいますが、これですべてだということはありません。しかし、多くの人は副作用があってもこのうちの1つか2つです。

 幸いにも、これらの副作用は医学的にみてそんなに危険なものではありません。これはカルバマゼピンに対する体の初期反応です。大部分は2〜3週間で消えてしまいます。

 主治医に副作用について伝えることは大切です。大部分の副作用は次の診察の時に言えばよいものですが、しかし、特に耐えられないものとか、心配になるものとか、日常生活に差し支えがあるようなものは、遠慮せずにすぐに主治医に相談してください。

 機械の操作や車の運転をするときには、カルバマゼピンが精神機能にどの様に作用するかをはっきりさせてからしたほうがよいでしょう。治療が始まると、立ちくらみや眠気、めまいが起きることがあります。食事中にカルバマゼピンを服用すると胃痛などの消化器の副作用を少なくすることが出来ます。

服薬してからすぐ起こらない副作用がありますか?

 カルバマゼピン治療をしてまもなくまたはかなりしてから副作用が見つかることがあります。血液検査上の検査値の意味のない変動があったり、血球数や肝機能が著明に変化することがあります。

 血液検査:肝臓や甲状腺の機能を示す検査値やナトリウム量がちょっと変化を示すことがあります。このようなものは患者が気ずくことのない”副作用”で、医学的にも余り意味がありません。

 肝障害:カルバマゼピンはまれに肝臓のアレルギー反応を引き起こします。これはたいへん珍しいことで、何千人という患者は何も起こすことなく治療されています。この肝臓の障害は、しかし、たいへん重篤で生命の危険さえ生じることがあります。それ故、発熱、紅疹、腹部膨満感や腹痛があるならばすぐ医師にかからなければなりません。

 血球の変化:カルバマゼピン治療中に短期間だけ血球が変動することがあります。全く心配のないものです。たいへん稀にに、多分125,000人中1人以下の確率で、生命の危険性があるほど激しい血液細胞の異常が出ることがあります。発熱、喉や口の痛み、激しい疲労感、普通にはみられない内出血や出血に気がついたらすぐ診察を受けてください。このような症状が出たならば、すぐカルバマゼピンの服用をやめなければなりません。

 皮膚の変化:カルバマゼピンを服用している患者の一部には太陽光線に敏感となりすぐ日焼けする人があります。このような場合には、日焼け止めクリームを使用したり、日光を避けたりして、肌の調子を整えると良いでしょう。皮膚が赤くなったりヒリヒリしたりする症状はカルバマゼピンに対するアレルギー反応の徴候です。しかし、すべての皮膚症状がアレルギー反応とは限りませんので、医師の診断を要します。

医師にすぐ相談しなければならない副作用がありますか?

 あります。以下のような症状がでたらカルバマゼピンの服用を即座に中止し、主治医の診察を受ける必要があります。

口腔内の痛み
喉の痛み
発熱
尋常ではない疲れ
尋常ではない打ち傷や出血
褐色尿
白色便
皮膚や眼球の黄疸
下腿や足の痛み、圧痛、または青紫色に変色
皮疹または蕁麻疹
錯乱
そのほかに、本人が大変苦痛に感じたりいつもと様子が違っているとき


カルバマゼピン中毒(過剰服用)の徴候

激しいめまい
激しい眠気
持続する二重視
けいれん
不規則で、浅く緩徐な呼吸
激しい震え
心悸亢進または不規則は脈拍

 このような症状は他の原因によっても起こりますが、カルバマゼピンの血液中レベルが異常に高くなったときの徴候であったり、カルバマゼピンに対する特異体質の反応のことがあります。これは重篤な結果を招く可能性のあることですから、すぐ医師にかからなければなりません。もし患者自身または家族が早期にこれらの症状に気づいたら、重大な結果になる前に素早く処置がなされ無事に済むでしょう。

副作用が続く時どうしたらよいのですか?

 大部分の副作用は、カルバマゼピンを服み始めて数週間の内に消えてしまいますが、一部のものは持続します。そんなには危険ではないがわずらわしい副作用を上手に処理することを覚えてしまうと、カルバマゼピンの利点だけをずっと受けることが出来ます。

 口の渇き:甘味の少ないガムやアメを使うとさほど気にならなくなります。虫歯を予防するには、できるだけ甘味の少ないものが薦められます。

 いつまでも続く吐き気:食事の最中にカルバマゼピンを服用するか、または少量ずつ何回も服用する。

 副作用が特にやっかいであったりひどい状態ならば、そのほかの対処の仕方もありますから主治医に相談してみてください。

  カルバマゼピンについてよくされる質問

 カルバマゼピンについての質問にすべてこの小冊子で答えることは出来ませんが、しばしばなされる質問について述べます。

カルバマゼピンで治療される精神障害がまだ他にもありますか?

 多くの精神科医は、双極性障害(躁うつ病)と一部の単極性うつ病(うつ病だけで躁状態はない)はカルバマゼピンでよくなると考えています。そのほかの精神障害も”実験的に”カルバマゼピンで治療されることがあります。たとえば、気分循環症(より軽症の躁うつ病)、攻撃性の強いある種の病気、分裂病、薬物依存症、薬物の禁断症状に使われます。

躁うつ病の治療薬はリチウムが一番よいのですか?

 躁うつ病の患者にはリチウムが最もよく使われます。約75%の患者はリチウムでよくなります。躁うつ病の治療にリチウムを多く使えば使うほどそれが有効であることがわかってきました。カルバマゼピンはリチウムを使用できない患者に使われます。すなわち、リチウムの効き目がない人やリチウムの副作用に耐えることのできない人に使用されます。

 リチウムによって気分変動を充分にコントロールすることが出来ない場合があります。このような患者にはリチウムからカルバマゼピンに変更されるか、またはカルバマゼピンを併用することになります。

カルバマゼピンは神経系に長期的な作用を及ぼしますか?

 カルバマゼピンによる神経症状の副作用が幾つかありますが、体が薬に慣れるに従って消失します。服用量を減らすことでも副作用はなくなります。もし、服薬をやめればこれらの副作用は完全になくなります。カルバマゼピンが使用され始めてから25年になりますが、通常の服薬量で非可逆性または永久的な神経の副作用がでたことはありません。しかし、将来問題が起こる可能性は皆無とは言えませんから、服薬量は必要最小限にするのがよいでしょう。

カルバマゼピンは心臓に有害ではありませんか?

 心臓病のない人にカルバマゼピンが心臓を害したということはありません。しかし、既に何らかの心臓病を持つ人(特に老人)ではカルバマゼピンにより脈拍の早さやリズムに異常を来すことがあります。脈に異常が出るかどうかは薬の量によります。そして服薬量を減らすことによりこの問題はなくなります。心臓病の既往がある人やその危険性のある人はカルバマゼピンの治療開始前に心電図を含めた精密検査を受けることが必要です。治療期間中その検査データは常に保管されなければなりません。

老人患者特有な問題がありますか?

 老人ではどのような薬物でも副作用は出やすいものです。カルバマゼピンも例外ではありません。特に老人にでやすい副作用は、錯乱、焦燥感(じっとしておられなかったり非常に神経質になる)、そして脈拍の異常(特に除脈)です。家族はこのようなことに充分留意し、もし問題があればすぐに診察を受けるようにしなければなりません。

血液検査はどれくらいの頻度で受けたらよいのですか?

 重篤な血液疾患や肝障害の可能性はたいへんたいへん少ないのですか、薬物による致死性疾患が起こる可能性があるため、検査は頻回に受けることが望ましいのです。重篤な状態が起こる前に、早期に異常を見つけることが望ましいのです。それが可能なときもありますが、検査を頻回に繰り返しても早期に異常が見つからない場合もあります。何かおかしいことを示す最初の徴候は臨床症状である。たとえば、神経性の中毒の最初の徴候は歩行困難であり、白血球低下の初発徴候は喉の痛みか発熱で、肝障害の徴候は腹部痛です。

 頻回に血液検査をする事には限界があるので、血液検査の頻度をどうするかという問題は専門家の間でも意見が一致していない。1987年6月、アメリカ厚生省の承認の下に、製薬会社はカルバマゼピン服用前とその後適当な間隔をおいて完全な血球検査をする事を推奨している。

薬を切らかしたらどうしたらよいのでしょうか?

 もし薬がなくなりそうになったら、すぐ手に入るように主治医と連絡をとってください。カルバマゼピンを急にやめると禁断症状が出現することがあります。ゆっくりと薬をやめるならそのようなことはありません。

カルバマゼピンはどのように保存したら良いのですか?

 すぐ使用しないカルバマゼピンは熱いところを避けて、太陽光線に直接当たらないように包装したままにしておくのがよいでしょう。大量のカルバマゼピンは毒性が強いので、子供の手の届かないところに保管してください。浴室の近くに置くと熱と湿気でだめになってしまいます。

1回飲み忘れたらどうしたら良いのでしょうか?

 服用の仕方は人により違いがあるから、飲み忘れたときどうしたら良いのか主治医に聞いておきましょう。一般的には次のようなルールがあります:

 本来飲む時間から3時間以内に飲み忘れに気づいたらすぐ飲みましょう。3時間以上経っていたら忘れた分は服薬せずに次の分をきちんと服用しましょう。そうすれば、血液中のカルバマゼピンの有効濃度にまたすぐ戻ります。主治医の支持なしで忘れた分を余分に飲まないようにしましょう。量が多すぎると危険が生じます。

カルバマゼピンを服用しているとどんな気分になるのでしょうか?

 大部分の人はいつもと同じように仕事をしたり車を運転することが出来ます。考え方、感じ方、すべてが正常です。そうでなかったら服薬量の調節が必要です。

カルバマゼピンが効かなかったらどうするのですか?

 どんな薬でもそうですが、カルバマゼピンがすべての人に効果があるとは限りません。そのような時には、別の治療薬が使用されます。

どのくらいの期間カルバマゼピンを飲む必要がありますか?

 治療期間は人により異なります。躁うつ病相の頻度やカルバマゼピンの効果や耐容性によって決定されます。長期間服用したほうがよい人もありますし、そんな必要のない人もあります。治療の経過は患者一人ずつ主治医によって吟味されなければなりません。

特別なダイエット食をとっていたらどうしたら良いのでしょうか?

 食塩を特に制限していなければ、カルバマゼピン治療には特別な影響はありません。たとえば、バランスの良くとれた野菜食は悪くありません。低塩食は血液中のナトリウム濃度を下げます。糖尿病患者ではカルバマゼピンは尿糖を増加させます。このことについては主治医と良く話し合う必要があります。

カルバマゼピン服用中にお酒を飲んでも良いでしょうか?

 それは主治医に質問するのが一番良いでしょう。好きな人は少量だけ飲んでいます。しかし、車の運転や危険な機械を扱う能力は、アルコールとカルバマゼピンを併用すると著しく障害され危険です。

カルバマゼピン服用中に他の薬を飲むのは危険ですか?

 大部分の薬はカルバマゼピンと併用しても差し支えありません。カルバマゼピンはある種の薬剤の血中濃度に影響を及ぼします。ですから、あなたが治療を受けている医師全部に今自分がカルバマゼピンを飲んでいることを話した方がよいでしょう。医師から処方された薬も薬局から買ってくる薬も、薬剤師なり医師にその薬がカルバマゼピンと相互作用があるかどうか尋ねてみてください。

カルバマゼピンにより血中濃度が下がる薬:
抗てんかん薬:フェニトイン(アレビアチン)、バルプロ酸(デパケン)、フェノバルビタール、
抗生物質:エリスロマイシン、トリアセチルレアドマイシン、イソニアジド(INH)
抗潰瘍薬:シメチジン(タガメット)
鎮痛薬:プロポキシフェン
抗凝固剤:ワーファリン
カルシウムチャンネルブロッカー(心臓薬):デリチアゼム、ベラパミール
経口避妊薬:ピル
鎮静剤:睡眠導入剤、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、ハロペリドールの血中濃度はカルバマゼピンにより著明に低下します。ここにあげたものがすべてではありません。そしてここにあげた薬とカルバマゼピンを併用することが臨床的に良好な結果を得る場合もあります。そのような場合には主治医に説明を求めてください。
カルバマゼピンと併用しても差し支えない薬:
アスピリン、アセトアミノフェン(鎮痛薬)、大部分の抗生物質、咳止めや風邪薬。

 

カルバマゼピンは習慣性のある薬ですか?

 そんなことは全くありません。

カルバマゼピンは腫瘍の原因になりますか?

 ラットにカルバマゼピンを極めて大量に投与すると実験的に腫瘍を引き起こすことが出来ますが、カルバマゼピンは25年以上使用されていますが、ヒトの腫瘍の原因になるという証拠はありません。その他の哺乳類を使った動物実験でもカルバマゼピンが腫瘍の原因となる証拠はありません。

別の科の医師の診察を受けたり手術を受けるときはどうしたら良いのでしょうか?

 別の医師の薬をもらったり手術を受ける時は、自分がカルバマゼピンを服用していることをきちんと話してください。そうするとカルバマゼピンの服用が安全にまた効果がそのまま続くように配慮されます。カルバマゼピンを服用していることはそれを処方している医師だけではなくあなたの治療に関わるすべての医師にとって重要なことなのです。

カルバマゼピンの服用量が少な目だと軽く躁になるのですか?

 処方より少ない量のカルバマゼピンを飲むことによって軽躁状態となることはありません。また、ひとたび躁の徴候が現れると大部分の患者では完全な躁病状態になる危険性が非常に強いものです。軽躁状態になるように服薬量を変更することによって、躁病に対してもうつ病に対してもカルバマゼピンの予防効果を無にする危険性が強いのです。

カルバマゼピンを服用中にピルを使っても良いのですか?

 カルバマゼピンはピルの効果を減じますから、避妊の信頼性は低くなります。ホルモン性ではない経口避妊薬を使った方がよいでしょう。プロジェステロンだけを含むものやエストロジェンを大量に含む経口避妊薬があります。このことについては主治医と充分に話し合ってください。

ビタミンやミネラルの摂取はしても良いでしょうか?

 ビタミンやミネラルの補充療法が躁うつ病に効果があるという証拠はありません。食餌の補充として複合ビタミンを服用したとしても、カルバマゼピンとの総互作用はありません。しかし、一日必要量を超えるビタミンB類をとると、まだ充分に証明はされていませんが、カルバマゼピンの毒性を引き起こす可能性があります。

カルバマゼピン服用中に運動をしても良いのですか?

 中等度の規則的な運動はすべての年代の人々にとって健康保持に必要ですし、気分転換にとっても大切です。カルバマゼピンは運動に特別な影響は与えません。しかし、運動後の水分摂取、特に塩類の補充は大切です。

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Carbamazepine & Manic Depression: A Guide Lithium Information Center University of Wisconsin Board of Regents of the University of Wisconsin System. Revised Feb.1990

翻訳

医療法人 和楽会
理事長 貝谷久宣