社会恐怖について

 人前で話をする際にあがってしまい言いたいことが十分に言えなくなる。

 初対面の人と接していて何を話したらよいのかわからず気まずい思いをする。

 目上の人の前に出たとたん緊張して言いたいことの半分くらいしか話せなくなる。

 誰でも多かれ少なかれこんな経験はあるのではないでしょうか。人前で話をしたり、初対面の人と接する時の緊張は社会不安と呼ばれ、特に治療を要することはありません。この社会不安が高じて、治療を要するほど本人が苦しくて生活上にも深刻な影響が現われるようになったものが社会恐怖です。

 例えば、人前で話をすることがあまりにも苦痛で会社をやめようかと悩んだり、人と接することを恐れてほとんど家に閉じこもった生活を送るようになったりします。社会恐怖の患者さんは、恥ずかしい思いをしたり、人前でどうしたらよいのかわからなくなってしまうことを恐れます。

 具体的にはどんな訴えがあるのでしょうか。クリニックに来院した105名の社会恐怖の方の悩みとその割合を図1にまとめました。

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 最も多い悩みが「対人緊張」、1対1で人と接する際の緊張です。次に多いのが、人前で字を書く時に手が震えたりこわばったりしてしまう、あるいはお客さんにお茶を出す際にカップを持つ手が震えてしまうといった「書痙、手の震え」です。「スピーチ・電話恐怖」(人前で話をしたり、電話をかけることを恐れる)より多く訴えがありました。人の視線を意識したとたんに赤面してしまったり、表情がこわばってくるという訴えや「視線恐怖」(自分の視線が人に嫌な感じをあたえてしまうという自己視線恐怖や他人の視線が気になって落ち着かないという他者視線恐怖)も9%ほど見られました。手のひらなどに汗をかいているのを知られるのが恥ずかしい、人前でお腹が鳴ったりおならが出そうになるのが恥ずかしい、会食時に緊張のあまり食事がとれなくなってしまう、公衆トイレなど誰か他に人がいると排尿できなくなってしまうといった訴えは少数派のようです。

 次に何歳くらいに社会恐怖が間題になって現われてくるのか見てみましょう。図2に祉会恐怖になった年令を10に分けて、それぞれの年令区分に何人の社会恐怖が含まれるかをまとめています。先の105名のうち73人が対象です。

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 図を見ると20代前半までに社会恐怖になった方が大半であることがわかります。平均年令を求めてみても21.7歳という若年でした。今回対象とした105名の方がクリニックに来院した際の平均年令は34.3歳でした。比較的若年で社会恐怖が問題になり、何年も悩んだ後にクリニックを訪れたことがうかがえます。

 これまでの研究でも社会恐怖が放っておいて良くなるものではなく、むしろ慢性化していくことが示されています。最近になって欧米ばかりでなく日本においても社会恐怖が研究者や臨床家の関心を集めるようになってきました。しかし、クリニックで例えばこんな声が聞かれます。「私の悩みを話していると何でもないことのような気がしてきて、それなのに時間をとってもらってすみません。」、「こんな悩み(社会恐怖)を抱いている人って私だけですか?」社会恐怖の悩みが取るに足らないものであるとか、自分一人だけ特別な悩みを抱いているというように考えられているようです。

 社会恐怖は薬物療法や行動療法で改善することが研究によってわかっています。適切な治療をするためにも、またとるに足らない悩みを悩んだり自分一人だけ特別な悩みを抱えているわけではないことを示すためにも、社会恐怖を社会恐怖としてきちんと診断することが求められているといえるでしよう。

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文責 宮前 義和(みやまえ よしかず)

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.12 1998 SPRING

 社会不安障害
http://www.shypeople.gr.jp/