抗うつ薬の効果と副作用

 パニック障害の二大治療薬であるペンゾジアゼピン系抗不安薬と抗うつ薬のうち、今回は抗うつ薬の効果と副作用についてお話しします。抗うつ薬はその名の通り、元来はうつ病、うつ状態のための治療薬です。これがパニック発作に有効なことがわかったのは、1962年クラインらの偶然の発見によるものですが、結局彼らの研究が後にパニック障害という疾患概念が生まれる端緒となりました。その時用いられた抗うつ薬がイミプラミンで、これは今日でもうつ病やパニック障害の治療に盛んに使われています。

 イミプラミンが所属する抗うつ薬の仲間を三環系抗うつ薬と言いますが、抗うつ薬の仲間にはそのほか、四環系抗うつ薬、近く発売される予定のSSRIなどがあります。パニック障害には三環系抗うつ薬の有効性が確かめられており、日本でパニック障害の治療に使われている抗うつ薬の大部分は三環系抗うつ薬ですので、以下これを念頭にお話しします。(この記事が発表される頃には、SSRIが既に発売されているかもしれません。SSRIについては稿を改めて解説があると思います。)

  発作抑制効果にすぐれ、うつにも効く抗うつ薬

 トフラニール(一般名イミプラミン)、アナフラニールなどの三環系抗うつ薬は、パニック発作を抑える効果にすぐれています。予期不安や広場恐怖の不安には直接的な効果はありませんが、パニック発作がよくなればこれらの症状も自然によくなるはずです。またパニック障害にはしばしばうつ病が合併しますが、抗うつ薬ですからうつ病にももちろん有効で、両方同時に治療できます。またアナフラニールは強迫性障害にも有効で、強迫性障害を合併するパニック障害の治療にも好適です。良いところがたくさんある抗うつ薬ですが、欠点も少なくありません。

  効果が出るまでに1〜2週間かかる

 三環系抗うつ薬の欠点の一つは、効果が出るまでに1〜2週間かかるということです。この点、のんですぐ効果の出るペンゾジアゼピン系抗不安薬とは対照的です。抗うつ薬が効果を発揮するためには、脳の代謝のバランスが変わってくる必要があり、それに時間がかかるためと考えられています。薬によってはもう少し早く効果が現われるものもありますが、少量から始めてだんだん増量していく方法をとると、有効量に達するまでの期間があるので、さらに時間がかかることになります。

 もう一つの欠点は、副作用の方はのんですぐ出てくるということです。従ってはじめの1〜2週間は、効果が出てこなくて副作用だけが出るということになります。困ったことですが、ここで薬をやめてしまっては元も子もありません。抗うつ薬療法でまず大切なことは、効果が出るまでじっと我慢することです。

 我慢を少なくするための対策はあります。治療開始時はペンゾジアゼピン系抗不安薬と併用する方法です“抗不安薬の方はすぐ効果が現われるので、抗うつ薬の効果が出るまでの間、ある程度症状に苦しめられないですみます。抗うつ薬の効果が出てきたら、抗不安薬を漸減中止すればよいのです。

  副作用は眠気、口渇、便秘など

 三環系抗うつ薬にはさまぎまな副作用がありますが、さいわいなことに、服薬開始当初が最も強く、2週間もするとかなり消腿してきます。その頃には効果も現われてきますから、抗うつ薬療法ではやはり初めのうちの辛抱が大切です。

 副作用で多いのは眠気、口渇、便秘などです。眠気は中枢神経抑制作用によるもので、鎮静、茫乎、注意・集中力低下なども起こるので、自動車の運転はひかえねばなりません。不眠がある場合は、夜寝る前に服用することで、睡眠薬のかわりになります。

 口渇、便秘などは抗コリン作用と言って、自律神経系に現われる副作用です。口渇は唾液の分泌が減るためで、飲水、チューインガムなどでしのぎます。便秘は腸の運動が抑制されるためで、繊維食などで対処し、下剤も用います。そのほか起立性低血圧、頻脈、目のかすみ、鼻閉などもときどき見られます。注意すべきは、前立腺肥大症や緑内障のある人で、排尿障害や眼圧上昇を来すことがあるので、医師に申し出なければなりません。

 副作用は初めのうちが強く、だんだん慣れて消腿して行きますが、念のため、服薬中は数 カ月ごとに血液検査や心電図検査を行って、異常の有無を確かめます。

 アルコールとの相互作用、胎児や乳児への影響などについては、ペンゾジアゼピン系抗不安薬と同様のことが言えます。飲酒はひかえ、妊娠・授乳中は服用しないようにすべきです。副作用でペンゾジアゼピンと異なる点は、抗うつ築には依存性がないことです。この点は抗うつ薬の長所と言えます。長期連用しても依存が形成されず、退薬症状も出にくいということです。しかしやはり服薬を急に中断することは避け、漸減すべきです。

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文責  竹内龍雄 

 帝京大学医学部精神神経科学教授(市原病院)

 ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.16 1999 SPRING