成人女性の10人に1人はうつ?

心の風邪 『うつ』

だれでもがかかりうる病気として
知られるようになったうつ病。
もうあなたの隣にあるかもしれません。
つらい思いはひとりで抱えずに、
病気とのつきあい方を考えませんか?

 「今までと何か違う」と感じたらそれはうつ病の大きなサイン

 最近は、うつ病もよくある病気として認識されるようになりました。あなたのまわりにも、うつ病に悩まされている人がいるかもしれません。そしてあなた自身も、「これってうつ病の始まり?」と思ったことはありませんか?「何事もやる気が出ない」「物事を前向きにとらえられない」「すぐに落ち込む」などという気持ちになった覚えはないでしょうか。

 うつ病には特有のいくつかの症状があります。もちろん、それらの一つ一つはだれにでもある感情。何かに失敗したときに落ち込むのは当たり前です。子育てがうまくいかなくてイライラすることもあるでしょう。けれど、普通は時間がたてばその感情はなくなり、元気に前向きになるものです。

 ところが「そんな症状が2週間以上も続き、いつまでもよくならないという場合は、早めに病院で受診しましょう」貝谷久宣先生は言います。「特にルチェーレ!世代の女性は、子育てや親戚づきあい、仕事でのストレスが多い年齢でもあります。うつ病のことは常に頭に入れておくといいでしょう」

 もしもうつ病が気になるという人は、次の表でチェックしてください。「簡単に言うと、今までの生活と何か違うと感じたら、要注意です」

 うつ病の原因は脳にあります。「現在、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどという神経物質の減少により、うつ病になるといわれています。また、脳の前頭葉の血流も問題とされており、ここの血流が悪いと、うつ病をはじめとした心の病になるということがわかってきています」

 うつ病は性格とも関係が深く、「うつ病になりやすいという人がいます。きちょうめんでまじめ。物事をきっちりと片づけないと気がすまない、つまり責任感の強い人たちです。このような人たちはうつ病になりやすいのです」。

 うつ病になるきっかけは、人それぞれ。ささいなこともあれば、重大な事件が関わっていることもあります。「仕事や子育てがうまくいかない、親戚づきあいでトラブルがあった、引っ越しや出産、死別、離婚などを体験した、ご主人の浮気が発覚したなど、本当にさまざまです」

 
旱めの治療でラクになります

今は副作用の少ない薬も登場しています。
早く専門医に治療を受け、ラクになりましょう。
早期治療は確実に早期回復につながります。

重症者は精神科や神経科

 「メンタルクリニックや心療内科などさまざまな専門医があります。もちろんどこでもよいのですが、本当の専門は精神科か神経科です。重症だと考えられるなら、精神科や神経科をおすすめします」と先生。早ければ早いほど、治りも早く、何より自分自身がラクになります。

 なお、病院で治療を始めたら休養を取ることも必要。「最低3カ月はゆっくりすること。仕事は休み、家事は家の人に頼んで。とにかく、気を使わず、心の休養をすることです」

 治療の中心は薬物療法です。「抗うつ剤、抗不安薬、睡眠薬などを組み合わせて処方します」。薬はクセになるという声もありますが、「それより、早く体をラクにするのが大切。薬の処方は、医者が上手にコントロールしてくれます」。副作用の少ない薬も登場しており、のどが渇く、便秘しやすいなど、以前のうつ病にありがちだった副作用がつらいという声は少なくなってきています。

 補助的な治療として認知療法があります。自分の物事のとらえ方、思考や行動パターンなどを変えていく療法です。

 「なんでも悪くとらえたり、悲観的に考えたり、それが原因で落ち込んだり。そんなパターンを自分でで認識し、見直すことで、根本的な部分を変えていきます。一日の行動やそのときどう考えたか、それによってどんな気持ちになったかなどを日記に書き、適切なカウンセラーといっしょに検証します」。個人差はありますが、うつ病は早ければ半年ほどでよくなります。病気になるのには、時間がかかっています。治すときも時間をかけてゆっくりと。あせりは禁物です。

  夫など、周囲の人が病気になったら

ルチェーレ!世代の女性は、自分だけでなく、
夫や母親がうつ病に悩まされている場合も。
そんなときの対処法も知っておきたいものです。


大事なサインを見逃さないで

 周囲の人はどうでしょう?夫の世代はちょうど中間管理職など、厳しい立場にいる人も少なくないはず、母親世代も更年期を過ぎて、老いと向き合わなくてはならなくなっています。「ルチェーレ!世代の女性が、付き添って病院に来ることもよくあります」と先生。この場合も、少しでも早く病院で治療を受けさせたいものです。

 周囲の人がなったときは……

1・病院に付き添う
受診をイヤがるなら、いっしよに病院へ。本人は「見守られている」と安心し、医師に生活上の注意点を聞くこともできます。
2・「頑張って!」は禁句
よくいわれていますが、「頑張って!」と、言ってはいけません。頑張りすぎてこうなったのですから。反対に「もう頑張らなくていいよ」と言ってあげて。
3・休養をとらせる
仕事は休ませること、家事もできるだけ手伝いましょう。周囲の協力は欠かせません。睡眠もたっぷりとらせたいもの。
4・こちらで決める
物事の決断が鈍るときです。今日のネクタイは何がいいか、決めてあげるだけでずいぶんラクになります。
5・責めてはダメ
病気が長引くと「元気になっているはずなのに」「怠けているだけ?」などつらい言葉をかけがち。でも、元気になれないから病気なのです。責めないで。
6・話をよく聞く
話すだけでラクになったという人が少なくありません。話を聞いてあげましょう。ただし、「自分の意見を押しつけないこと。あくまでも聞き役に徹し、話にうなずいてあげてください」。

  プチうつ病も増えています

今までのうつ病とは明らかに違う“プチうつ病”が
増えています。症状も違えば対処法も別。
しかし、いずれも「早めに病院へ」は同じです


意外に重症になることも

 “プチうつ病”という言葉を聞いたことがありますか?「正式には非定型うつ病ですが、同じ“うつ病”という名前をつけてよいのかと思ってしまうほど、今まで説明してきたうつ病とは、症状がまったく違います」

 どちらかというと、ルチェーレ!世代よりも若い年代の人たちに多く見られるそうですが、関係ない病気だと言い切ることもできません。

 「以前、パニック障害(明らかな理由もなく、実際には危機でもないのに、脳が勝手に危機を感知し、パニックの発作が起きる病気)を患ったことがある人が、40代になって今度はプチうつ病になるという場合があるのです。もちろん、この年代になって初めて発症することもあります」

 具体的な症状は次の表を参考にしてもらうといいのですが、「プチうつ病の人は一日中憂うつな気分が続くというわけではなく、一日のうちで夕食後、ひとりになったときや、夕暮れ時など、一定の時間だけ、不安になり、気分が落ち込むのです。けれどこれを多くの患者さんは自分の性格のせいだと思いこみ、病院を受診しないことが少なくありません。けれどそのままにしておくと、今度は重症のうつ病に陥るケースがほとんどです」と先生は言います。

 そして症状が悪化して周囲の人が気づき、ようやく病院へというパターンです。

 「それからでは、治療にも時間がかかり、かなりやっかいな病気となります。早めに気づいてくれるといいのですが」

 プチうつ病の根底には母親との関係があることも。「幼児期、母親の仕事が忙しかったり、病気で長く入院していたなどで、母親との接触が少なかった人に多くみられるように思います。動物的愛情飢餓環境に育った子どもは、正常な自我が発育せず、それによって他人の顔色ばかりをうかがうようになってしまいます。そして自分を押し殺す生活が続き、それが破綻した結果、この病気になったのではないかと私は考えます」

 そのような原因だけに簡単に解決できる病気ではありませんが、「だからこそ、早めに専門医による治療を受けてほしいのです」

医療法人 和楽会

なごやメンタルクリニック
心療内科・神経科 赤坂クリニック
横浜クリニック

理事長 貝谷久宣

ルチェーレ! Vol.2, 2006, SUMMER, P128〜131