名医の相談室

回答者 貝谷 久宣

心療内科・神経科 赤坂クリニック理事長
医療法人和楽会 理事長

週刊現代,第53巻第22号,p142

読者からの相談

 毎朝、駅でめまいと動悸、呼吸困難が起きます

会社に向かう途中、乗り換えの駅で立っていると、激しいめまいと動悸がして、呼吸が苦しくなります。15分程度すると落ちつくのですが、毎日、同じ場所でこの症状が出ます。電車に乗るのが恐くなってしまいました。どうすればいいでしょうか。―――東京都・男性・40歳

回答

 相談者のお話をきくと「パニック障害」が考えられます。ある日突然、めまい、動悸、呼吸困難といった症状とともに、激しい不安が発作的に起こる病気です。

 これ以外にも、さまざまな症状がみられます。発汗、身体や手足の震え、胸の痛み、吐き気、しびれ、寒気やほてりなどです。「死ぬのではないか」と、常軌を逸した恐怖感を抱くことも多い。これらの症状の4つ以上がほぼ同時に出現し、10分以内にピークに達します。患者の約3分の1は症状がひどくなって救急車で運ばれます。

 発作が起こると、30分以内に症状が消え去ることが多いようですが、半日以上も症状が続く患者もいます。次の発作が起きるまでの時間はさまざまですが、発作が始まると次々と連続して起こることが多いようです。

 パニック障害の患者は、一般的には100人に3〜4人。親や兄弟など家族に患者がいる場合、5人に1人と割合が高くなります。

 病気の原因は明らかになっていませんが、ストレス、遺伝のほか、幼い頃に親と死別したというような環境的要因などが考えられています。カフェインを多量に摂取すると発作が起こる患者も多いことがわかっています。

 まずは薬を飲んで発作を止めないといけません。抗不安薬やうつ病の薬を使います。あとは臨床心理士による治療が大切です。パニック障害になると何でも不安に思ってしまうので、ものの受け取り方を変えていく認知療法が肝心なのです。たとえば相談者の場合、電車に乗るのは本来危険ではないのだけれど、危険だという思い込みをしてしまっている。これを消し去ります。実際に患者と一緒に行動して、体に覚えさせる行動療法を行うこともあります。

 薬を飲めば発作は止まりますが、「また発作が起こるのではないか」という不安感は頭から離れない。これはパニック障害の中心となる症状で、「予期不安」といいます。感情が常に不安定になり、仕事や日常生活にも支障が出てくるため、臨床心理士による認知行動療法が大切なのです。

 多くの場合、3ヵ月くらいで症状は安定してきます。けれど、急に不安感が増してきたりするので、継続して治療をする必要があります。良くなったあとで心がけることは、規則正しい生活、そして、毎日1時間以上歩いて汗をかくこと。私は掃除を勧めています。皆が喜んでくれるので、部屋だけでなく心もきれいになります。何かに集中することが症状の改善にはとてもいいのです。