ストレス講座 〜その1〜

  ストレスと健康 

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 21世紀は「こころの時代」あるいは「ストレスの時代」とも言われています。高度に発達した文明の中でいろいろな弊害が噴出しており、誰しも「人間らしく生きる」ことの重要性を、そして「心を科学する」ことの必要性を感じているからでしょう。このシリーズでは、「ストレスと健康」をメインテーマに話をすすめていきたいと思います。

健康目標と健康努力

 「健康でありたい」という希望はだれしも持っていますが、えてして日頃はあまり頓着せずに意外と不健康な生活を送っているのではないでしょうか?健康のありがたさを実感するのは、何か病気やけがをして思うように活動できなくなったり、痛みに悩まされたりしたときに初めて気がつくことが多いでしょう。その時に、「ああしておけばよかった」「こういうことに気をつけていればよかった」と後悔するかもしれません。そうならないためには、まだ元気なうちに健康への努力をすることが大切なのです。ただし、やみくもに「健康のためにはジョギングをすればいい」というものではありません。努力する前に目標を明確にするということが重要なのです。

 健康については、古くから「快食、快眠、快便」という言葉があります。おいしく快く食べられる、ぐっすり気持ちよく眠れて朝すっきりと起きられる、毎日気持ちよく便が出る。実に、簡潔に、健康について表現している言葉だと思います。不健康な状態になると、まず食事が不規則になる、アルコールを飲みすぎる、食べ過ぎる、刺激物を好む、あるいは逆に食べられなくなるという食行動の変化としてあらわれます。また、心配事があったり、ストレスがたまると、寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが悪いなどの睡眠障害や、下痢をしたり、便秘をしたりという体調不良な状態になるというわけです。

 ちなみに、健康という言葉の語源をたどってみますと、中国の古典「易経」にある「健体康心」ということです。すなわち、体が健やかで心が安らかな状態を意味します。また、WHO(世界保健機構)の健康についての定義は、「単に体が病気ではないということだけではなく、精神的にも社会的にも良好な状態」となっていることは有名です。このように古今東西をとわず健康についての考え方には共通するところがあるようです。

 ともあれ、自分なりの健康観、健康目標を持つことは、日常の生活の中で具体的に健康への努力をするためには重要なことです。自分なりの目標を持って生活することと、もしそうでなかったら目標とする生活になるように努力するというようなメリハリのある毎日を過ごしたいものです。

ストレスのあらわれ方

 ストレスは、さまざまな形で人間に影響しています。若くて健康なときは、あまり健康には注意せずに無理が重なったりしても何とかやっていけますが、中高年になって成人病の心配をしたり、不規則な生活習慣を何とかしようと思ってもいかんともしようがないということが多いようです。また、自分にはまったくストレスがないという人でも、自分で気づいていないだけで実は多くのストレスを抱えているかも知れません。そこで、自分のストレス状態をチェックすることを考えてみましょう。

 ストレスの影響は、不快な危機的な心理的変化(不安、緊張、恐怖、怒り、あせり、混乱、落ち込みなど)とそれに引き続く身体反応(動悸、冷汗、ふるえ、息苦しさなど)とそれらを解消するための行動変化(せかせか行動する、八つ当たりする、タバコやアルコールを飲んで気分を紛らわすなど)としてあらわれます。これらの反応のあらわれ方には、個人の体質、性格、ストレスの認知の仕方の差によって一定の傾向があり、心理的にあらわれやすい人、身体的にあらわれやすい人、行動にあらわれやすい人などの特徴があります。大切なことは、自分はどの方向にあらわれやすいかを知っておいて、日頃から自己チェックし、ストレスがたまっているなと感じたら積極的にストレス解消に心がけるようにすることが大切です。

ani021.gif (18502 バイト)

 ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 22 2000 AUTUMN