ストレス講座 〜その2〜

いろいろなストレス解消法 

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

快ストレスと不快ストレス

 ストレス学説で有名なハンス・セリエ博士は、「ストレスとは生体の中に起こる生理的・心理的な歪みであり、このストレスを作るものが外から加えられたストレッサーである」と述べています。最近では、外部からの心理社会的ストレッサーと内的なストレス状態を区別することが難しいことから、両方をともにストレスと呼ぶようになっています。ストレスとはすべてネガティブなものかというとそうではなく、適度な刺激は交感神経系を活性化し抵抗力をつけるように働き、ハンス・セリエ自身も「ストレスは人生のスパイスである」と述べているようにポジティブな面もあります。これを快ストレス(eustress)と呼びます。これに対して不快ストレス(distress)とは、過剰なストレス、慢性的に長く続くストレスです。心身ともに健康で良好な社会生活を送るためのポイントは、快ストレスの状態にいることです。そして、不快ストレスになっていると気づいたら、積極的な休養をとってリフレッシュすることです。

いろいろなストレス解消法

 ストレスによる不快な情動を解消するためには、リラックスして情動を静める、より快感を追及する、あるいは気分を転換するなどさまざまな方法があります。ストレスの解消の仕方には個人差がありますので一概にどの方法がよいとは断定できませんが、以下のようなタイプに分けることができます。

休息型
 休養をとる、リラックスする、眠るといったような情動を沈静化し心身の疲れを癒そうとする方法です。リラックスする方法としては、ゆっくり風呂に入る、好きな音楽を聴く、自然の中でくつろぐなどが一般的です。系統だったものとしては、漸進的筋弛緩法、自律訓練法、ヨーガ、気功、禅、瞑想法などがあります。

運動型
 緊急事態においては、高まる緊張は闘うか逃げるかという闘争反応の準備状態をつくります。これは、身体的活動を十分行う(例えば、動物では走って逃げる)ことによって解消されます。すなわち、緊急反応によって過剰に分泌された交感神経系ホルモン(アドレナリン)を筋肉活動で消費するということです。運動は、基本的にはなるべく全身運動で、軽く汗をかく程度の有酸素運動がすすめられます。運動を長続きさせるためには、手軽に行えるもので好きな運動をすることと仲間と一緒に楽しく行うなどの工夫が必要です。

親交型
 同じストレッサーが加わっても、ソーシャル・サポート(相談相手)のある人とない人では、受けるストレスの程度には明らかに差があります。家族の団欒、友人と食事やスポーツをする、お茶を飲む、お酒を飲むなどいろいろな交流の仕方があります。最近では、インターネットを利用した友の会が盛んになりつつありますが、現代的な交流の仕方と言えます。

娯楽型
 快楽を追及することによる解消の仕方で、タバコや酒を飲む、おいしいものをお腹いっぱい食べる、ゲームやギャンブルを楽しむなどがあります。ここで注意すべきは、これらの方法は多くは一時的な効果しかなく、繰り返していくとだんだんエスカレートすることです。ヘビースモーカーになったり、アルコール依存になったり、過食で肥満になったり、ギャンブル狂になったりすると身体的障害や社会生活上の問題を生じることにもなりかねませんので、節度を持って楽しむことが必要です。

創作型
 これは、絵を画く、音楽を演奏する、庭いじりをする、料理をつくる、日曜大工をするなどなにかを作りだすという方法で、気分をリフレッシュするにはよい方法です。

転換型
 不快な気分を転換する方法で、旅行する、部屋の模様変えをする、カラオケで歌うなどがあります。あるアンケート調査では、ストレス解消法として女性では衝動買いが46%であったことが報告されていますが、女性にとっては高い買い物をすることはストレス解消として役立っているのでしょうか。

 仕事をしながらストレス解消できるというのは理想的ですが、多くの場合は生活のために我慢しながらストレスを抱え込みながら黙々と働くということでしょう。したがって、自由に使える余暇の時間は貴重です。漫然と過ごすのではなく、はっきりとした[目的意識をもって積極的なストレス解消に使いたいものですね。同時に、周りの人を見わたして、不快ストレス状態にある人がいたら、そっと援助の手を差し伸べましょう。

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 ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 23 2001 WINTER