ストレス講座 〜その4〜

人間関係をよくするために 

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 厚生労働省の行った16,000人のアンケート調査では、働く人の約60%が強いストレスを感じており、中でも人間関係によるストレスが最も多いことを報告しています。今回は、人間関係をよくするにはどうしたらよいかを考えてみましょう。何かトラブルがあると、ついつい 「あの人が悪い」 と他人のせいにしがちですが、他人を非難していては解決には役立たず、かえってこじれるばかりです。非難するよりも相手を理解する努力をしたほうが実際的です。トラブルは、たいていコミュニケーションの行きちがいによる関係の悪さが原因となっていることが多いので、「悪人をつくらない。関係を改善する」という姿勢が大切です。

 人を理解する方法として図に示す「基本的な立場」 があります。横軸は、私はOKである(自分はよくやっている、すぐれているというプラスの評価)と、私はOKでない(自分は努力がたりない、人よりも劣っているというマイナスの評価)をあらわします。

 縦軸は、同じように他人はOKであると他人はOKでないをあらわします。すると、自分と他人に対する立場から図のように四分割されます。

 右上の立場は 「私はOKで、他人もOKである」 ということで、自分もよくやっているし相手もがんばっている、お互いになかよくやっていこうという共存・協調の関係が生まれます。こういう立場の人ばかりですとトラブルは発生しませんし、たとえトラブルが生じてもお互いを許しあって協力していけるようになります。

 右下の立場は、「私はOKである。ところが他人はOKでない」 ということで、自分だけがすぐれている、相手はバカだというように独善的排他的になります。こういう人は、えてしてトラブルメーカーになりがちで、まわりには寒々とした雰囲気がただよいがちです。しかし、当の本人はそのことを自覚していないで、正論を通していると思いこんでいます。

 左上の立場は、「私はOKでない。ところが他人はOKである」 ということで、相手のことがよく見えて自分だけが劣っているという劣等感が強く、人との接触を回避するようになります。一見すると内向的でおとなしそうにみえますが、うちにはだれもわかってくれないという不満をどんどんためて、ある時突然爆発して周囲を驚かすということににもなリかねません。

 左下の立場は、「私はOKでない。他人もOKでない」ということで、自分もだめだし、相手も社会もだめだということで悲観的絶望的になります。

 単純な図式ですが、人となりを非常にわかりやすく表現したものです。図の四分割のうち、自分はどこにいるかをふりかえってみる、できれば「私もOKで、あなたもOK」という立場になるように努力することが良好な社会生活を送る上では大切です。同時に、相手がどこにいるかがわかると、その人の言動の意味を理解することが可能になります。お互いに悪気をもっていなくても関係が気まずくなってしまう原因は、自分と相手の基本的な立場の違いを理解していないことから生じると言っても過言ではありません。

 それでは、自分がどこにいるかを作図してみましょう。まず、図の横軸の上に 「私はOKである〜私はOKでない」の間のどこにいるかをチェックします。次に、縦軸の上に「他人がOKである〜他人がOKでない」 の間のどこにいるかをチェックします。両軸から垂線をおろして交わったところがあなたの基本的な立場です。(例を参照)

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ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 25 2001 SUMMER