ストレス講座 〜その19〜

ストレスと高血圧

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

高血圧とは
 本態性高血圧というのは、はっきりした原因がなくて高血圧になるという意味で、高血圧の95%以上がこれにあたります。これに対して二次性高血圧は、腎臓病、心臓病、内分泌疾患などの原因疾患があって高血圧になるものを言います。これまでのWHO(世界保健機構)の高血圧の基準は、最高血圧140mmHg、最低血圧90mmHg以上とされていましたが、最近の報道によれば130/85に変更されたようです。この基準を使うと、成人の30〜40%が高血圧と判定されてしまうことになり、これはちょっと問題ではないかと思います。

本態性高血圧の原因は
 本態性高血圧の原因としては、遺伝的体質的素因に加え、食塩摂取量、肥満、寒冷、ストレスなどの環境因子が加わり発症するという多因子説が考えられています。ストレスにより血圧が上昇することはよく知られていますが、歴史的には 生理学者キャノンによるストレス緊急反応が有名です。すなわち、猫に獰猛な犬を吠えつかせた時には、かならず猫の血圧は上昇し、心拍数は増加します。このような反応は、動物が外敵に遭遇したときに、みずからの生命を守るために闘うか逃げるか(fight and flight)という緊急体制をとるためのきわめて合目的的な生理反応です。このような緊急事態で生じる情動は、怒り、恐怖であり、アドレナリン、ノルアドレナリンなどの伝達物質を介して交感神経系の活性化がおこるので、キャノンの説は情動ー交感神経系学説とも呼ばれています。また、精神医学者のアレキザンダーは、「表出されない敵対的感情は血管系の持続的な刺激の源となり、それはあたかも抑制された生体が、決して起こることのない戦いのための準備状態にあるかのようである」と述べています。このように、本来生体に備わった外敵に対する防衛反応ですが、怒りや恐怖や不安という情動が適切に処理されないで慢性的なストレス状態に陥った時に、高血圧という二次的な弊害をもたらすということです。

白衣高血圧症とは
 白衣高血圧症とは、自分で家庭で測った血圧は正常ですが、病院で白衣を着た人に測ってもらうと「高血圧」になることを言います。緊張やストレスで血圧が上がるということは良く知られていますが、それが条件づけされて病院に来ると高血圧になってしまうというわけです。病院では、緊張をとるためによく2、3回深呼吸をしてから血圧を測りなおしますが、それでも血圧が下がらなくて高血圧と診断されてしまうことがあります。こういう人に、やみくもに降圧剤を投与すると、血圧が下がり過ぎてかえっていろいろな症状(たちくらみ、めまい、疲れ、だるさなど)が出てしまいます。したがって、日常生活の中での血圧変動をよくつかんでから高血圧かどうかの判断を下す必要があります。

高血圧の治療
 高血圧の予防には、食塩を制限する、肥満を少なくする、タバコやアルコールを控えるなどの一般的な生活習慣を改善することはもちろんですが、それに加えてストレス対策に心がけることも必要です。ストレス解消法には、運動やスポーツをする、友人と話をする、気分転換をする、リラックスをするなどいろいろありますが、日頃から自分にあった方法を身につけておくことが大切です。イライラするからといって、八つ当たり、やけ酒、食べすぎ、タバコの吸いすぎだけはやめましょう。こういうライフスタイルを改善してもなお高血圧状態が続く場合は、やはり医療機関を受診し、器質的疾患の有無を見極めた上で降圧薬の服用など適切な治療を受けるようにしましょう。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 40 2005 SPRING