ストレス講座 〜その22〜

ストレスと過換気症候群

早稲田大学人間科学部教授

野村 忍 

 過換気症候群は、急に息が苦しくなって、動悸、頻脈、めまい、手足のしびれ、時にはけいれんや意識消失などの発作を繰り返すもので、ストレスや不安が関係しています。特定の病気というよりも、ある状態像を意味し、いろいろな病気が原因で過換気発作(過呼吸発作)をおこします。夜間、救急車で搬送される人の約30%が、この過換気発作によるものと言われています。発作自体は、30分〜60分程度で自然に軽快しますが、「死ぬのではないか」という不安の強い人では数時間続くこともあります。発症のメカニズムは、不安、恐怖、疼痛などがきっかけとなって、過剰換気(息をハーハーする)をしますと、血液中の二酸化炭素が呼気中に多く排出され、血液のpHがアルカリ性に傾きます。これを呼吸性アルカローシスと言います。この状態になりますと、上記のような症状が出現します。若い女性に多く、パニック障害でも過換気の発作を合併することがあります。

 過換気症候群は、まず同様の症状を示す他の疾患を除外することと、次に示す診断基準を満たすことで診断されます。

過換気症候群の治療

 過換気発作は、たいてい30分くらいで自然に軽快しますので、救急車で病院につくころには発作はおさまっていることが多いものです。ただし、不安が強い時には長引くことがあり、治療が必要です。原因は二酸化炭素を多く排出しすぎることによるものですから、紙袋再呼吸法といって呼気を紙袋に入れそれをもう一度吸い込むことによって、呼吸性アルカローシスを改善するという方法があります。それでもおさまらない時には、抗不安薬を注射すると治ります。過換気発作が頻繁におこる人には、予防的に抗不安薬を毎日服用することが必要です。そして、腹式呼吸法や自律訓練法などのリラックス法を習得することも効果があります。また、心理的葛藤やストレスが原因となっている時には、これらを解決するような心理療法が必要です。

 日常生活上の注意としては、日頃から、ストレスがたまらないように自分なりのストレス解消法を身につけておきましょう。また、人間関係でのストレスが原因となることが多いので、自分の性格や人づきあいの仕方を振り返ることが大切です。

(私も過換気になった!)

 数年前に国際学会でアムステルダムヘ行った時のことでした。あるレストランで仲問とウナギの油揚げのようなものを食べていました。突然、お腹から背中へかけて激しい痛みが出現しました。食あたりかと思ってトイレに行きましたが、便は出ません。そのうち、めまいがしてふらふらしながらトイレからはい出て、ソファに横になった時、手がぴりぴりとしびれてきて、両手がつっぱるようになってきました。これが過換気症候群だ!と実感して、自律訓練法をして呼吸をゆっくりコントロールすると徐々におさまってきました。数分間だったので、なにくわぬ顔をして席にもどってことなきをえました。実は、尿管結石で激しい痛みのために過呼吸をしていた結果、過換気症候群を起こしてしまったのだと思います。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.43 2006 WINTER