ストレス講座 〜その23〜

ストレスと頭痛

早稲田大学人間科学部教授

野村 忍 

急性頭痛と慢性頭痛

 頭痛は、だれでもよく経験する身体的愁訴の一つです。困難な問題に直面すると「頭の痛い話だなー」というようにストレスと頭痛は密接な関連があります。頭痛には、大きく分けて急性頭痛と何回も繰り返しおこる慢性頭痛があります。急性頭痛とは、急激におこる頭痛で発熱や炎症による一時的なものと脳内血管障害や脳腫瘍などの器質的障害によるものがあります。この場合は、きちんと病院に行って検査・治療を受ける必要があります。慢性頭痛の大半は機能性の頭痛で、緊張型頭痛、片頭痛と両者の混合性頭痛です。その中には体質的素因(いわゆる頭痛もち)に加えて心理社会的要因(ストレス)が強く影響しているものがあります。患者さんは、「とにかく頭痛を止めてほしい」という願望と同時に脳出血や脳腫瘍などの重篤な疾患ではないかという不安をあわせもつものです。したがって、頭痛の診療においては、器質的疾患によるものか機能性頭痛なのかを鑑別し、その結果をきちんと説明することに加えて、心身両面からのアプローチが重要な意味を持ちます。ここでは、慢性頭痛の特徴と治療法について述べます。

緊張型頭痛

 緊張型頭痛は、頭痛の50%を占め、1年有病率が74%というように誰でも経験する頭痛です。頭痛の性質は、頭におわんをかぶったようにしめつけられるような持続的な痛みです。原因は、身体的、心理的に引き起こされる頭部筋群の過緊張によるもので肩こりと合併することが多いと考えられています。身体的な原因としては、直頸椎(頸椎の生理的彎曲がない)、うつむき姿勢、眼精疲労やVDT障害などによるものであり、心理的要因としては種々のストレスや不安・抑うつ状態によるものがあります。

片頭痛

 片頭痛の1年有病率は、欧米では20%、日本では7%くらいとされていて、人種差や生活習慣の違いなどが考えられています。頭痛の性質は、一側性(頭の半分)の拍動性のズキズキとした痛みが特徴的です。時に、光や音に対する過敏性が強く嘔吐することもあります。頭痛の前駆症状(前兆)として閃輝性暗点(キラキラした暗点が視野の中心から周囲に広がってゆくもの)が有名です。原因については不明ですが、脳血管の収縮〜拡張にともなっておこるとされています。また、うつ病やパニック障害と合併することも多く、セロトニンの代謝異常という説もあります。心理的要因については、神経質で緊張しやすく、不安、抑うつ傾向が認められる場合が多く、また過労や睡眠不足、大きなライフイベントとの関連が指摘されています。食事性の誘発因子として、チーズに含まれるチラミン、チョコレート中のフェニルチラミン、ホットドック中の硝酸ナトリウムが有名です。

混合型頭痛

 頭痛が慢性に経過すると両者の性質をあわせもったような頭痛となります。こうなるとストレスや過労、睡眠不足などですぐに頭痛があらわれやすくなります。したがって、早期に適切な治療を行い慢性化しないようにすることが重要です。
 頭痛の治療、治療法は、そのタイプによって大きく異なります。緊張型頭痛の治療は、鎮痛薬、筋弛緩薬、抗不安薬、抗うつ薬などの薬物療法に加えて、心理療法や自律訓練法などのリラックス法が用いられます。また、日常生活上での増悪因子が明らかな場合は、その改善が必要です。片頭痛には、鎮痛薬、酒石酸エルゴタミンや無水カフェイン、Ca拮抗薬などが用いられます。最近では、トリプタン系薬剤(スマトリプタン)が使用可能となり高い有効率(70%)といわれています。心理療法の効果については不明ですが、生活指導、認知行動療法、バイオフィードバック療法など薬物療法と併用して行われています。

生活上の注意

 生活上の注意・予防としては、どのタイプの頭痛にも共通して言えることは、暴飲暴食をつつしみ、刺激物は控え消化のよいものをとり、規則正しい生活リズムに心がけ、過労や睡眠不足をさけることなどしごく一般的な事柄です。片頭痛では、上にあげた食事性の誘発因子を控えることも重要です。また、心理的ストレスをためこまないように、日ごろから適度のストレス解消をすることや相談相手をもってくよくよ悩まないことが一番の予防法です。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.44 2006 SPRING