
不安・うつの力(]]Y)
― 漫画家細川貂々さんの夫・望月昭氏の場合 ―
医療法人 和楽会 横浜クリニック院長
山田 和夫
漫画家細川貂々さんは昭和44年9月16日、埼玉県の生まれで現在42歳、千葉県浦安市に住んでいます。セツ・モードセミナーを卒業後、様々な職業を経て、平成8年12月、『ぶ〜けDX』(集英社)で漫画家としてデビューします。うつ病を患った夫・望月昭氏との夫婦での闘病記を、イラストを交えて綴った『ツレがうつになりまして』(幻冬舎・略称「ツレうつ」)を平成18年に発表、大きな反響を呼びベストセラーになりました。続編の『その後のツレがうつになりまして』(幻冬舎)を平成19年11月に出版し、これも大ヒットしました。平成21年5月にはNHKでテレビドラマ化されました。貂々さんを藤原紀香さんが、ツレを原田泰造さんが演じ、私も見ましたがうつ病を発症するまでの状況や、うつ病を演じる原田さんの演技が大変リアルで、大きな話題になりました。その後、たけしの健康エンターテインメント「みんなの家庭医学」でも当時の状況が紹介されました。代表作『ツレうつ』の他、ペットとして飼育しているグリーンイグアナに関する著書(『イグアナの嫁1,2』幻冬舎)や、自分の結婚・妊娠・出産を描いた本(『びっくり妊娠なんとか出産』)、うつ病から寛解した夫が、専業主夫として家事・育児に携わる様子を描いた本(『ツレと私の「たいへんだ!」育児1,2』文芸春秋)、更には子育て専業パパとして育児をこなしていく様子を描いた本(『ツレはパパ1年生〜3年生』朝日新聞出版)などを出版しています。
夫望月昭氏は外資系IT企業に勤務していました。上司からきついノルマを課せられ、深夜まで残業をしているうちにその過重労働から平成16年1月、うつ病を発症します。『ツレうつ』ではある朝、妻に「死にたい」と真顔で言いだします。精神科受診、自殺未遂、改善、悪化などうつ病のあらゆる経過を体験し、妻の支えを受けながら最終的に回復していきます。非人間的な外資系会社をきっぱりと辞め、主夫として生きていく事を決心します。現在、家事、育児を一手に引き受けるほか、夫婦の個人事務所「てんてん企画」の社長を務めています。『ツレうつ』にちなみ、周囲からは「ツレさん」と呼ばれることも多いと言います。自身の体験をもとに『こんなツレでゴメンナサイ』他を出版しています。
平成23年9月10日最新刊として『7年目のツレがうつになりまして』(幻冬舎)が出版されました。貂々さんの漫画の途中に所々ツレさんのコメントが掲載されています。
「8年も前のことになる。僕は典型的な『都合よく使われる被雇用者』だった。またの名を『仕事のできるサラリーマン』と言い換えてもいい。もう21世紀になっていたけど、そんな実感はなくて、生ぬるく働いていた。毎日電車に乗って会社に通い、上司の言う通りに動いていれば何とかなると、思っていたのだ。
今思えば、無防備だった。
業界の動向は浮き沈みが激しく、あれよあれよという間に情勢が変わっていった。そんな中で、僕はリストラで辞めさせられた他の社員のぶんも仕事を背負い込み、ストレスをため、前途に希望がなくても自分を鼓舞し、そして空回りしていった。
空回りの行く先は、メンタルを失調して、うつ病という病気。
そんなのもよくありそうな話だ。
僕はたった一人で孤立して、世の中で一番不幸な自分と向き合っていた。
『ツレがうつになりまして』は、そんな不幸な僕を、それほど余裕もなかった漫画家の妻が観察して、うっとうしさを少し差し引いて、ユーモラスに描いた漫画だ。
その作品が完成して、それがすべての始まりだったんだ。」(P28)
「僕は自分に合わない勤め人を続けることを諦め、諦めても生活していけるようになり、目の前に自分のすべきことが続々と出現してきた。
転んだ僕は、相棒とその作品、作品を支えてくれた人に起き上がらせてもらえたのだ。」(P42)
「この病気(うつ病)は今世紀に入って急に増えたように見えるんだけど、たぶんテクノストレスやニューエコノミーにさらされた働き方の変化がうつ病的状態にある人を排除して病識を拡大したということもあるんだろう。昔だったら『ちょっとスランプで』と言ってみれば周りの人が助けてくれたような状況でも、今はそうはいかない。
そして、うつ病の人が増えたという事は、うつ病患者の家族を持つ人も増えたということ。相棒の本はそうした人たちに必要とされる本だったんだろう。」(P58)
大きな話題を呼んできた『ツレうつ』は遂に、映画化されました。今年10月8日に東映系で封切りされます。主演は宮崎あおいさんと堺雅人さんです。2年前のNHK大河ドラマ『篤姫』の名コンビの再現です。きっとまたこれも大きな話題となるでしょう。そして、一般社会のうつ病に対する理解がもっと広まると思います。有難いことです。是非見て下さい。うつ病は、その人を過労死させない防衛反応とも言えます。またうつ病を通過する事で、本来のその人に合ったライフスタイルに方向転換させます。それらがまさにうつの力です。
(参考文献)
細川貂々(てんてん企画)著「7年目のツレがうつになりまして。」(幻冬舎、2011年9月10日)

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.66 2011 AUTUMN
 
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