イメージの変換

 初回は、人の心に焼き付くイメージについて考えてみたいと思います。パニック障害の方の不安のイメージにつながるものですね。

 私は、平成15年の8月末に東京に引っ越してきまして、9月から地下鉄で赤坂まで通勤しているのですが、最初に、駅の入り口で都心の方向と郊外の方向を全く逆方向に認識してしまい、そのイメージを払拭するのに約3ヶ月、かかってしまいました(頭が老化していると言われそうですが…)。

 生まれたばかりの雛が最初に見た動くものを親鳥と認識して、訂正が困難になるという現象があって、これを“刷り込み”といいますが、私の場合も、一種の刷り込みですね。最初の印象が頭にインプットされてしまい、なかなか修正がきかない状態になってしまったわけです。

 毎朝、出勤の際、都心の方向が逆のような気がしてならず、違和感がなかなか拭い去れませんでした。この道路をあちらに行くと都心であるから、地下鉄電車もこちらからあちらに行くのだと、毎朝、頭の中で繰り返し、また、地下鉄の出入口が4つあるのですが、日によって、あちらの出入口から入ってみたり、こちらの出入口から入ってみたり、その都度、あの建物があるのは都心の方向、あの看板があるのは郊外の方向という具合に方向を確認し、頭にイージを焼き付けるようにして、3ヶ月経ってようやく正しい方向のイメージがついてきました。それでもいまだに、ちょっと意識していないと、都心の方向を錯覚してしまうこがあります。最初の間違ったイメージの痕跡が残っているわけですね。

 単なる方向のイメージからして、このように頑固なわけですから、パニック障害の方の不安のイメージというのは、かなりやっかいなわけです。発作はそうそう起こるものではない、発作が起こったからといってどうにかなってしまうわけではない、具合が悪くなっても休めばじきによくなる、と頭でわかっていても、不安・恐怖のイメージはなかなか拭い去れず、本当に大丈夫だろうかと不安になってしまうわけですね。

 お薬でパニック発作を予防し、過剰な不安感を軽減した状態で、あとはこの不安のイメージの払拭をはかって下さい。というよりも、不安のイメージの塗り替えでしょうか。その場合、いろいろな方向からイメージの転換を図っていきましょう。私が方向感覚のイメージを切り替えるのに、地下鉄の4つの入り口のそれぞれで、毎日方向の確認をして、3ヶ月かかってやっとイメージの塗り替え、払拭をした様にですね。

 きっと、不安のイメージにつながる道がいくつもあるのだろうと思います。その道を一つ一つ根気よく塗りつぶしていってください。

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治


ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.36 2004 SPRING