パニック発作とパニック障害

 近頃は、パニック障害という診断も、随分普及されてきたように思いますが、最近、パニック発作すなわちパニック障害という誤解が少々あるように思います。

 実は、パニック発作というのは、パニック障害に限った症状ではなく、他の不安障害においても、起こりうる症状なのです。例えば、社会不安障害(極端なあがり症など)の方が大勢の人の前で話をしなければいけない状況であるとか、高所恐怖や閉所恐怖の方が恐れている状況におかれた場合などに起こりえます。さらに不安障害に該当しない方でも、恐ろしい場面や非常に緊張する場面に直面した時には、パニック発作が起こる可能性があります。

 このパニック発作が予期せぬ状況で突然、発作的に何回か起こり、それにより、再び発作が起こるのではないか、発作が起こると自分はどうにかなってしまうのではないかというような強い不安や恐怖を伴うようになった場合に、パニック障害と診断されます。つまり、パニック発作自体に対して強い恐怖感を抱くことがパニック障害の特徴といえます。ですから、極端な話し、パニック発作があっても、恐怖感が全くなければ、パニック障害との診断はなされないわけです。

 私が研修医時代のことですが、同僚の先生で、ごくまれに突然苦悶状の表情を呈し、胸を押さえながら、「ちょっとごめん、いつもの食道痙攣がきたみたいだ、冷たい水を飲んで少し休めば治るから・・・」と言って、しばらくあぶら汗をかきながら休んでいるのですが、快復するとけろっとした表情で仕事に戻るといった人がおりました。今、思えば、症状限定性のパニック発作と考えても良いかと思いますが、その人は、発作の頻度も年に数回ということで、どうにかなってしまうのではないかという恐怖感はありませんでした。特に治療を受けることもなく、今も、その先生はお元気に仕事をされています。

 パニック発作が起こっても、どうにかなってしまうということはない、安静にしておればじきおさまるのだということをしっかり頭と身体にしみこませることができれば、パニック障害の治療の半分は終わったと考えることができます。パニック発作が起こりそうになっても、恐怖感を抱かないようになれば、大きな発作に発展することなく、案外、予兆だけですんでしまうようになるものなのです。

 とはいうものの、発作の頻度が多かったり恐怖感がなかなか取れなかったりしている間は、大変つらいものです。その間は、しっかりと薬を服用して安心した毎日を過ごせるようになることが大事でしょう。そして良い状態を持続する中で、多少、発作が起こることがあっても大丈夫なのだという認識を頭と身体に覚えさせていき、パニック発作に対する恐怖心を払拭していきましょう。

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治


ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.40 2005 SPRING