怒りの気持ちの表現について

 今回もコミュニケーションに関する話題について述べたいと思います。

 日々の診療の場面で、イライラしてしまい家族といつも口論になってしまう、同僚に対して無性に腹が立ってしまい職場での人間関係がわるくなってしまうなど、怒りの気持ちをうまくコントロールできないと言う悩みを打ち明けられる方が結構おられます。このような時、冷静に対処する手段として、DESC(デスク)法という方法があることを時々お話しています。

 そもそも、怒りの気持ちは人間の自然な感情の一つであり、怒りの気持ちを表現するということは、れっきとしたコミュニケーションの手段です。たとえば相手の失礼な言動や腹立たしい行動をやめさせるなど状況を改善させるために効果を発揮する場合があります。ただし、この怒りによって相手の行動を変えさせる方法は、手っ取り早いですが、相手の強い反感を呼ぶ可能性が高く、本来、緊急時や他に手段のない時に実行されるべきものでしょう。ですから、もし、怒りを表出することによって、状況をさらに悪化させてしまうとしたら、それは、意味のないことをしていることになるわけで、状況をさらに悪くさせるような無意味な怒りの表出はやめたほうが良いわけです。怒りの気持ちを抱くこと自体は、人間として自然なことで悪いことではないのですが、その感情を衝動的に行動に移したり、その感情に一方的に自分が振り回されたりしないように、どこかに冷静な部分をもっていられるよう訓練することが大事になります。

 カチンとくることがあったら、「何について自分は怒っているのか?」「本当は相手に何を伝えたいのか?」「今の状況がどうなれば自分はとりあえず満足なのか?」といったことをちょっと振り返り、怒りを表出することが、果たして状況改善のために効果があるのかどうか考えてみるという習慣を作ることがいいでしよう。

 この冷静に対処するひとつの方法としてアサーション assertion という考え方があります。assertion という言葉を英和辞典で調べると「主張」「断言」と言う意味ですが、本来は、「自分も相手も大切にした自己表現」ということだそうです。自己表現には、「攻撃的(アグレッシブ)な自己表現」、「非主張的な(自分の考えや気持ちを表現しない)自己表現」「アサーティブな(自分も相手も大切にした)自己表現」の3つの種類があり、アサーティブな自己表現ができるようになっていこうというのが、アサーション・トレーニングということになります。

 このアサーティブな自己主張をする上での具体的な方法のひとつが、DESC法といわれるものです。具体的には、
@ まず、目の前で起こった客観的事実を述べ(Describe描写する)、
A 次にそれに対する自分の主観的な気持ちを述べる(Express表現する)、
B そして相手への提案をして(Specify明示する)、
C 相手の「イエス」や「ノー」の反応に対する対応を準備する(Consequences結果、Choose選択する)、

というものです。怒りの気持ちがわいたときに、即座にその感情を行動に移すのではなく、一呼吸おいて、この手続きを取ってみましょう。

 このDESC法について、小学校教諭の鈴木教夫先生が「かんいな」という分かりやすい語呂合わせによる方法を考案されていますので(現代のエスプリ450)、そちらを紹介しておきたいと思います。

・・・
「見たこと〈事実は何〉」

かん・・・
「感じたこと、思ったこと〈今の自分の気持ちは〉」

・・・「提案、お願い〈相手にとってほしい行動は〉」

・・・「いいです(はい)の時、分かってもらえた時の対応」

いな・・・「いな(否)(いいえ)の時、分かってもらえなかった時の対応」

 アサーション・トレーニングやデスク法について、もう少し詳しく知りたいという方は、左記の文献など参考にしてみてください。インターネットなどでも、「アサーション・トレーニング」で検索されると、参考になるサイトがいくつかあります。

(参考文献)
平木典子編集:現代のエスプリ450、アサーション・トレーニング―その現代的意味、至文堂、2005
平木典子:アサーション・トレーニング―さわやかな〈自己表現〉のために―、日本・精神技術研究所、1993

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治



ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.42 2005 AUTUMN