漫画「ドラゴン桜」より ― 自己の客観視 ―

 時々、気分転換に漫画を読む事があります。普段は、単行本などをパラパラと立ち読みして、気にいったものがあると購入します。少し気分が滅入った時などは、楽しい漫画を読むとちょっと元気になります。読みすぎると疲れますが…。少年時代には「巨人の星」「あしたのジョー」「ブラックジャック」その他いろいろを愛読する漫画少年でした。

 1年ほど前になりますが、知人から「ドラゴン桜」という漫画を紹介されました。今、うちには、受験生の子どもがいるのですが、子どもの勉強の参考になるよと勧められて、面白そうでしたので読み始めたのですが、今や毎回、単行本を買って読んでいます。負債を抱えて経営破綻寸前の落ちこぼれ高校の再建計画に弁護士・桜木が乗り出し、東大合格者を出すべく奮闘する!という内容の漫画なんですが、これがなかなか、たかが漫画とはあなどれないです。人生全般のハウツーのような部分も、たくさん出てきて、本当に参考になります。思わず蛍光ペンでマーキングもしたりしています。

 以前、こちらのコーナーで「コーチングの技術」(講談社現代新書)という本のご紹介をしましたが、ちょうどその頃、「ドラゴン桜」でも全く同じ本の引用がされていて、びっくりしたこともあります。

 第10巻には、こんなのがありました。

「自分の身の回りにすべてマルをつけてみる…」「大概、人はものごとを否定的に考える時、自分自身ではなく周りのせいにしたがる。勉強に集中できないのは、部屋がないからとか…部活が忙しいからとか…心の中でバツをどんどんつけていって、だから自分はできないとネガティブに考える。そうではなく、それらをみんなマルに変えてみる。部屋がないのはマル、かえって自習室で集中できる。部活があるのはマル、生活にメリハリができて充実感を得られる…。一人で勉強して孤独だけどマル、そのほうが闘志がわいて気合十分!って感じだ。このように自分の周りの環境を一度、すべて肯定する。するとポジティブな思考ができるようになる(心の中にいつもマル)。」

 先日、16巻が新しく出ましたが、今回も、なかなかいいことが書いてありましたので、ちょっとそちらからも、引用してみたいと思います。

桜木「試験中に焦ってしまった場合の対処法を教えよう。」「焦ってるとき普通は『自分は焦っていない』と否定しようとしてしまうもの。しかしそれがいけない。焦る気持ちを打ち消そうとするとかえって焦りを増幅させてしまう。」
生徒A「じゃ、どうするの?」
桜木「思いっきり肯定する。『あ…俺、焦ってんなあ』と。」
生徒B「肯定する?」
桜木「ポイントは心の中でしつかり言葉に出して言うこと。すると不思議とスーッと落ち着く。なぜ肯定すると落ち着くのか。それは自分を客観視できるようになるから。」
生徒B「客観視…」
桜木「自分を客観視するとは自分の状態を冷静に把握すること。そのために必要なのは焦っている自分や緊張している自分とも、しっかり向き合うこと。」「自分の気持ちを言葉にすることは、自分を対象化してとらえるということだ。そうすることで自然と自分を客観視できるようになり、結果的に焦りや緊張を解きほぐせる。」
生徒A「自分を対象化して客観視する…か。」

 この客観視というのは、なかなか大事な視点です。パニック発作や感情不安定などの際も、症状のメカニズムをしっかりと理解して、その症状が身体の生理的な反応であることを客観的にとらえることができるようになれば、うまくコントロールができるようになるきっかけになるのではないかと思います。

 最後に、スピノザという哲学者の言葉で、この客観視とよく似た言葉がありましのたで、そちらもちょっと引用しておきたいと思います。
「感情はその原因が理解されれば、消滅しないまでも受動であることはやめる。たとえば後悔や嫉妬のような感情でも、悲しみを他人や自己のせいにするのでなく一個のメカニズムとして理解すれば猛威を減じるであろう。」

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治



ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.47 2007 WINTER