家族問題のとらえ方

 家族は私たちにとって心の安らぎをもたらすかけがえのないものであります。しかしその一方で悩みやストレスの最大の源になり得るものでもあります。

 いかにも幸せそうに見える家庭が、実は周りの人には知られたくない家族問題を抱えているというのは、決して珍しいことではありません。

 今その家族が、“おかしくなってきている”といわれるのです。戦後50年を経てわが国は目覚ましい経済的発展を遂げ、世界で最も進んだ情報化社会を作り上げました。しかしながらかかる社会状況を背景に、現代の家族は様々な問題と直面させられることになってしまったようなのです。

 夫婦の不和や離婚の増加、子育てを代表とする家族機能の衰え、幼児虐待等親子間もしくは夫婦間の暴力、いじめ、不登校、そして摂食障害や心身症、非行を始めとする子どもの問題行動等々いずれも家族関係を抜きにしては語れないものばかりといってよいでしょう。

 このような一般的に家族問題と称されるもの以外でも、心理治療者は、心の悩みや不健康に関する相談にも応ずる場合、必ずといっていいほどその方と、その方のご家族との関係状況はどうなのか、十分配慮するよう努めるものであります。家族関係の有り様がクライエントの心身状態に大きく関与し、精神不健康や問題行動の改善に決定的な影響力をもつからであります。心理的治療に家族の協力参加には、不可欠と考えられるのです。そしてその治療への家族の強い心のきずなが先ず求められることになります。

 “家族”について、私どもの心理学コースの学生達は、数年までは先ず“絆(きずな)”をイメージしておりました。その絆が今年度のアンケートでは、家族のイメージの7位に後退しておりました。昨今指摘されております人と人との心の通いの希薄化が家族関係にまで及んできているのではと危惧されるのであります。

 今、有識者によって家族危機が、私には少しオーバー過ぎると思われるほど叫ばれ続けております。でもこの際ご自分の家族関係について見直しをしてみるのは、決して無意味なことではないと思うのです。

 二人の男女が結ばれることで誕生した家族は、その後当然のことながら様々な課題と取り組んでゆくことになります。夫婦を中心として取り組まなければならない課題は精神的にも物質的にも実に多様かつ複雑であり、時には予測を越えた突発的なものもあります。

 家族に課せられた一つの課題が解決されないために、別の課題と取り組めなかったり、新たな課題を生み出してしまうこともあります。夫婦や子供に関する家族問題の多くは、夫婦が中心となって家族全員が協力し合いながら解決すべき、どんな家族にも起こり得る課題だと私は考えます。

 家族メンバーの心の病のついても同様であります。家族心理学では、患者やクライエントとよばれる人(identified patient : IP)について、その人にだけ問題があるとするのではなく、その家族の抱える病理性のSOS発信者としてもとらえ、心理的援助の対象はクライエント(IP)個人を含む家族全体であると考えられております。ただしこの考え方を誤解し、クライエントが自ら治癒力を簡単に放棄してしまったり、すべて家族まかせになってしまうようなことがあってはならないのはいうまでもありません。少し理屈っぽく解りにくい内容になりましが、心の悩みや問題を抱える家族に対する心理的援助の基本的考え方について述べました。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
Que Sera, Sera Vol.6 1996 AUTUMN
岩館憲幸