人前に出ると緊張してうまくしゃべれません。

人前に出ると緊張のあまり、スムーズにしゃべれない、食事ができない、字が書けないなど、ふだんは当たり前にできることができなくなるのは、引っ込み思案のせいだと思っていませんか。
でもそれは、性格の問題ではなく、社会不安障害の症状かも。
赤坂クリニックの貝谷久宣先生に詳しくお話をお伺いしました。


 大勢の前でスピーチをしたり、初対面の人と会話をするなどの状況におかれれば、誰もが多かれ少なかれ、緊張するものです。しかし、そのことで苦痛を感じたり、深刻に悩んでしまうようなら、社会不安障害の可能性があります。
「昔は人見知りやあがり性、心配性などの性格だと思われていたことが、実は、社会不安障害の症状かもしれないと考えられるようになりました。
実際、性格か社会不安障害かの違いはとても微妙なもので、その判断は、社会生活に支障があるかどうかだけだといえるでしょう」と貝谷先生。
 人前で話す、職場で電話に出る、受付で字を書く、人と食事をするなど、苦手な状況は人さまざまですが、そのための緊張が度を越して、身体的な症状として表れることも、見逃せないポイントです。
「顔が赤くなる、動機や息切れがする、手足や声が震える、筋肉がこわばるほか、吐き気や下痢、便秘などの消化器系の不調、夜も眠れないなどの症状がみられます」
 そんな自分を恥ずかしく感じ、やがては人前に出ることを避けるようになり、日常生活にも支障が出始めます。ひどいときには、職場や学校に行けない、PTAの活動に参加できない、買い物に行けないなどの症状に陥ってしまうことも。これが、ニートや引きこもりの原因ではないか、という考え方もあるほど。
 ではなぜ、ここまで過剰に緊張してしまうのでしょうか。
「社会不安障害の人には、"強い思い込み"と"回避行動"という、2つの大きな特徴があるんです」
 周囲の視線や評価を意識しすぎるあまり、自分の発言や行動は笑われている、人に迷惑をかけていると、思い込んでしまうケースが多いようです。
その根底には、人前では完璧でありたいという思いがあり、自分で自分を身動きのとれない状況に追い込んでいるのです。
そのため、人前で失敗しないよう、苦手な状況を避けて通ろうと考えるようになります。
そんな自分に自信が持てなくなり、自分の存在そのものを否定的にとらえるようになっていきます。
「たったそれだけのことで・・・・・と思う方もいるかもしれませんが、周囲の人が想像する以上に、本人にとっては深刻な悩みになっていることがあるのです」
さらに、社会不安障害をそのままにしていると、パニック障害になったり、不安をまぎらわすためにアルコール依存症になるなど、別の病気を併発することもあるため、そうなる前に治療することが望まれます。

症状がやわらいだら緊張を体験する治療も
 具体的な治療としては、安定した感情調節を可能にするSSRIという薬や、過剰な不安をやわらげる抗不安薬、震えや動悸などの身体的症状を抑えるβ遮断薬を服用することで、まずは症状をやわらげます。
「薬を服用することで、過剰な不安や緊張がやわらぐため、普通に社会生活を送り、人との交流を楽しめるようになります。数か月で見違えるようによくなる人もいますが、1年以上は薬を服用するつもりで、気長に治療することが大切です」
 それと並行して、どんな場合に不安を感じ、どのような症状が出るのか、それが日常生活にどのような影響を与えているのかを認識。
そんな不安を引き起こしてしまう自分の間違った考え方や行動パターンを修正できるよう、「認知行動療法」を行います。
ときには「曝露療法(エクスポージャー)」といって、不安が生まれる状況にあえて飛び込み、緊張の中に身をさらすことで、症状を改善していく治療を行うことも。
「たとえばうちのクリニックでは、人前でのスピーチが苦手な人に、あえて大勢の前でスピーチしてもらうことで、恐怖や緊張と向き合い、それを克服してもらう体験型の治療をおこなっています」
 症状が落ち着き、誤った考え方や行動が修正できたら、第一印象を良くする方法や、上手な会話の仕方などの社交術を学ぶと、さらなる自信につながります。
「治療した結果、別人かと思うほど、自身に満ち溢れた人に変わることも多いですね」
 何が問題化わかっていても、自分で自分の考え方や行動は、なかなか改善できないものです。
人前での発言や行動、人との交流に強い不安や緊張を感じているなら、思い切って精神科や心療内科へ。
専門家の治療と指導を受けてみるとよいでしょう。


東大式社会不安障害評価尺度
過去1か月の状態についてチェックしてください。
【貝谷久宣先生作成】

第1部 恐怖・回避
下記の状況に対して、どれくらいの恐怖を持ち、その状況を避けましたか?
あてはまる点数を枠中に記入してください。
恐怖
 ない→0点  軽度→1点  中等度→2点  高度→3点  非常に高度→4点
回避の頻度
 ない→0点  稀に→1点  ときどき→2点  しばしば→3点  いつも→4点
項 目恐 怖回 避
1.多くの人の前で話す  
2.目上の人と話す  
3.見知らぬ人に話かける  
4.他人の視線を浴びる  
5.人に叱られる  
6.人前で字や絵を描いたり、演奏をする  
7.他人と飲み食いをする  
8.電話に出る  
9.新年会、クラス会、飲み会などの社交的な集まりに出る  

第2部 身体的反応
ほかの人々と接触したときや、そのような状況を思い浮かべたときに、次のような症状を経験しましたか?
身体的反応
 ない→0点  軽度→1点  中等度→2点  高度→3点  非常に高度→4点
項 目身体的反応
10.赤面または顔面蒼白になる 
11.動悸 
12.ふるえ(手足、全身、声) 
13.発汗 
14.筋肉のこわばり、力み 
15.吐き気、腹部不快感 
16.口の乾き 
17.息苦しい 
18.尿が近い、尿が出ない 
19.頭が真っ白になる、めまい 

第3部 日常生活での支障度
あてはまるところに○をつけてください。
A.日常生活にほとんど支障はない0点
B.日常生活に多少支障がある10点
C.日常生活にかなり支障がある20点
D.日常生活にたいへん支障がある30点

診断結果
すべての点数をたした総合点で診断します。
総合点診断
0〜40点誰にでも見られる通常レベルです。
41〜60点不安や恐怖の程度がやや大きい。治療を考えてもよいレベルです。
61〜142点治療を始めた方がよいと考えられるレベルです。

3分クッキング 2008年08月号 
健康3分シリーズ メンタルヘルス
医療法人 和楽会
理事長 貝谷久宣