パニック障害

医療法人 和楽会 理事長

貝谷 久宣


毎日新聞 2007/12/25 くらしナビ


突然、不安に襲われ

動悸、震え、呼吸困難に。

発作を抑えるには。

死への恐怖感

 川崎市に住むホームヘルパーの女性(32)が、初めて発作に襲われたのは、中学2年の時だった。突然、「死に対する恐怖感」に襲われ、体がガタガタと震えた。逆に「死んだ方が良いのでは」との思いにとりつかれ、頭の中で「死ね、死ね」という声が響くこともあった。涙があふれ、気持ちが苦しくなって部屋中を転げ回った。カッターナイフで手首に傷をつけること(リストカット)もたびたびあった。

 恋人との関係に悩んでいた25歳前後に症状が悪化した。呼吸が乱れ、頭の中で響くほど動悸が激しくなり、泣きじゃくる発作が1日に何回も起きた。

 知人の勧めで、27歳の時に心療内科を受診した。医師に「あなたは重度のパニック障害ですよ。ちゃんと治療すれば治ります」と告げられ、初めて自分の病名を知った。

 女性は「驚いた半面、安心した。苦しくて、生きている心地もしなかったから。もっと早く受診すればよかった」と振り返る。朝晩の服薬で、発作は月1回程度に減り、リストカットも止まった。

20〜30代で発症

 パニック障害の治療を数多く手がけてきた医療法人和楽会の貝谷久宣理事長は「パニック障害は、病的な不安に繰り返し陥る『不安の病』の中でも最も重い病気」と説明する。20〜30代で発症することが多く、100人に3〜4人が、現在かかっているか過去に経験があると言われる。原因は分かっていない。

 中心的な症状は、突然、何の理由もなく、激しい不安感や動悸、呼吸困難、手足の震えなどの自律神経症状が出る「パニック発作」
だ。発作はほとんどの場合30分前後で治まるが、繰り返し起こる。発作と発作の間に、「また発作が起こるのでは」「深刻な病気なのでは」などの「予期不安」が生じ、高じると日常生活に支障を来す。

 予期不安のために、過去に発作が起きた場所や状況、発作が起きても逃げたり助けを求められない場所を恐れ、避けるようになることも多い。「広場恐怖」という症状で、パニック障害の患者の8割以上が持つと言われる。駅のコンコースなどの広い場所や、電車、バス、飛行機などの交通機関を利用すること、美容院や歯科の椅子などを恐れる人が多いという。

徐々に薬を減量

 治療法は、薬物療法と認知行動療法が一般的だ。

 主な薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬と、ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬。発作自体は通常、服薬開始からーカ月以内でほぼ完全に消える。ただし、予期不安や類似した症状が持続的に表れる残遺症状を克服するため、数年間かけて段階的に薬を減らしていく。途中で中断すると、再発したり、以前の薬の量で効かなくなることもある。医師の指示を守り、きちんと服薬することが大事だ。

 認知行動療法では、患者の生活状況や考え方、行動パターンを詳しく調べ、病気の原因となる部分を修正する。広場恐怖に有効なのが暴露療法。恐怖を感じる場面に身を置き、発作が起きず、不安も治まっていくのを体験することで、徐々に不安を克服していく。

 カウンセリングで思考パターンを楽観的な方向に導いたり、「大丈夫」と声に出すなどの対処法を学ぶ認知療法や、腹式呼吸と体の力を抜くことで心身の緊張を解く自律訓練法もある。

 たばこや酒、コーヒーは回復を遅らせ、発作を起こしやすくするため、やめた方が良い。

 貝谷さんが勧めるのは一日の行動計画表を作る早寝早起きを心がけ、生活にリズムを作る日に当たる労働や運動で汗をかく―――などだ。「過去の後悔や将来への不安にとらわれず、今を生きることを大切にしてほしい」と話す。【須田桃子】