医療法人 和楽会
心療内科・神経科 赤坂クリニック なごやメンタルクリニック 横浜クリニック

パニック障害と妊娠・出産

パニック障害と妊娠・出産 パニック障害ってナニ!という疑問に専門家が答える

パニック障害と妊娠・出産

心療内科・神経科 赤坂クリニック理事長
貝谷 久宣

マタニティ 2002;12:P83

不安とともに、めまいなどの症状が。不意に突然やってくる病気

 パニック障害とは、めまい、呼吸困難などの症状とともに、激しい不安が発作的に起こる病気です。具体的に言うと、ドキドキ、手足の震え、胸の痛み、息苦しさ、吐き気、息が詰まる、しびれほか数多いパニック発作の中で、四つ以上の症状が見られ、そこには必ず「どうして、こんなことが起こるんだろう」といった大きな不安が伴います。

 1日の中の一定の時間に激しく起こり、10分以内にピークに達して30分以内に発作が消える人が多く、症状の軽い人なら年に数回、多い人は1日に何回も繰り返すのです。ですから患者さんはみな、「いつ、また発作が起こるのだろう」という不安を常に抱えています。これを予期不安といって、パニック障害を診断する上で不可欠要素となっています。発作の症状が多いほど、治療は長引くことになり、パニック障害は、相当長い期間患う人がほとんどで、中には10年近く服薬する人も。しかし年齢を重ねるごとに、症状が軽くなる傾向にあります。

 この病気は、大きなショックを受けたときでなく、不意に突然理由なく発病します。家族性の要因も強く、親子やきょうだいでクリニックに足を運ぶ人もいますね。

 現在、日本では100人中平均3.4人、女性は5.1人で、女性は男性の3倍というデータがあります。中でも35歳前後に、発症率が最も高くなっています。

薬を飲みながらの妊娠。どんな児でも受け入れる覚悟があるか

 希望するなら、私は妊娠・出産に力を貸してあげたいと思っています。もっとも、望ましいのは病気を治してから妊娠計画をすること。しかし、パニック障害との付き合いが長期にわたることを考えると、完治を待てない方がほとんどです。

 ですからまず、夫や親などと同伴で診察を受けてもらうことが望ましいですね。飲んだ薬に関しては、絶対安全ということはありません。それに、健康な妊婦さんでも、障害児を出産することはあるわけです。そうしたことを理性的に理解してもらうためにも、家族の同伴が必要なのです。私が妊娠に賛成するときは、自分の子がどんな赤ちゃんでも、受け入れる気持ちを持てることが大前提です。

 そうしたことを理解してもらった上で妊娠した方は、発作が半年以上起きていない人の場合、ゆっくりと薬を減量し、様子を見ながら薬をやめるようにしていきます。断薬できない人には、胎児に対する影響が比較的安全な薬、SSRIとクロナゼパムなどを、妊娠前から飲むように指導します。症状を診ながら、断続的に服薬し、調子がよければ断薬します。

 薬への不安は、大きいと思います。パニック障害に最もよく使用される薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬アルプラゾラムですが、これは、ロ蓋裂やロ唇裂が生じる割合が、普通の出産よりかなり多くなることが分かっています。一方、同じ抗不安薬でもクロナゼパムなら、胎児の奇形には比較的影響しないことが報告されています。ちなみに、当クリニック の約150事例の患者さんの出産例から、重症の障害児が出たケースは現在のところひとりもいません。

妊娠中は安定、産後は悪化の傾向。家族の協力が、必須

 妊娠中の患者さんを見ていると、快方に向かう人が多い傾向にあります。陣痛や出産の恐怖から、パニック発作を起こすといった例も聞いたことがなく、陣痛が始まると、不安がっている余裕がないのかもしれません。

 むしろパニック障害は、産後に悪化する人が少なくありません。女性ホルモンの激変から、体調に変化が生じることが影響しているのでしょうし、十分な睡眠が得られぬまま子育てに追いまくられる生活は、ストレスもたまると思います。また、この病気にかかると、責任感が欠如してしまうことがあり、子どもを実母に預けて遊びほうけたり、計画なしに次の妊娠を望む人もいます。

 ママになった患者さんは、目の前の我が子への愛情をきちんと認識することが大事です。大変なことを1人で抱え込まず、周りと協力して子育てするようでなければ、生活はうまくいかないでしょう。夫や親たちも、パニック障害という病気をよく理解したうえで、助け合って子どもを育てるという強い気持ちが必要です。