恐怖症とパニック

恐怖症状の現れかた

 種々なタイプの恐怖症がある。犬であればかわいい子犬でも恐れる人がいるし、また、人前で話すことを想像するだけで、おびえて身体を硬くする人もいる。飛行機に全く乗れない人、雷鳴を聞き震えて隠れる人、また、エスカレ−タ−に乗れない人もいる。明かな理由なしにパニック発作に襲われ、自宅から一歩も外に出られない人もいる。

 このように恐怖症は珍しいものではない。何百万という人が恐怖症やパニックに苦しんでいる。彼らは恐怖から逃れるために、恐怖を引き起こす物、場所、および状況からあらゆる手段を使って逃れようとする。エレベ−タ−に乗れないために仕事を変え、社会生活を犠牲にしてしまう人もいる。患者の甘えにはきりがなく、家族は疲れ果ててしまうことがある。そして、人生を無駄に過ごす結果になってしまう。

 多くの人は恐怖症にともなう身体症状のためにいろいろな診療科を訪れる。しかし、恐怖症患者が訴える胃の痛み、高血圧、心悸亢進、などのいろいろな症状は、激しい恐怖によるものだということは一般医には殆ど知られていない。患者は、自から自分の恐怖症状を他人に告げようとしない。そして、多くの医者はそのようなことについての質問はしない。そして、病院の勘定書は貯まっていく一方なのに、病状はなかなか良くなりません。

 恐怖症を持つ人は自分の状態をバカげているとか、子供じみているとか、とるに足らないものだと思いこんで、それを隠そうとします。恐怖から逃げ、それを他人に知られまいとすると、日常生活で行動を制限しなくてはならなくなります。

 誰かに打ち明けたほうがいいのです。多くの苦痛や生活上の支障の大部分は、多分、取り除くことができます。恐怖症に対する新しい治療法は大変効果があります。しかし、医者も含めてほとんどの人がそのことを知りません。

 もしあなた自身またはあなたの知人が、その理由に比して法外に何かを恐れているならば、このパンフレットからこの問題を理解することができるでしょう。専門家が恐怖症やパニックについて現在どの様に考えているかを示しました。あなたの助けになれば幸いです。

恐怖症とパニック……不安障害

 もしあなたにとってある人やものや状況やある行動が危険と感じられたら、その情動を不安と呼びます。もしあなたが道を横切ろうとしたとき、車がスピードを上げて自分に向かって走ってくるのを知ったら、それにひかれることを心配して道を急いで横切るでしょう。この恐怖感と行動はあなたの命を救うことになります。もしあなたが上司にうんざりして彼をなぐりたいと思ったなら、あなたはみぞおちの辺りに胃の痛みを感ずるでしょう。これはあなたが上司を殴ってしまったときの結果を予想したときに感じる不安のためです。この不安があなたの衝動を抑えるように働いているのです。この不安と自分の行動をコントロールする力が、多分、あなたの仕事を守ってくれているのです。

 ”正常”な不安はあなたを社会に適応させ、社会生活を耐え抜かせ、実り多いものにしますが、不安が強すぎると支障を起こします。不安と関係する症状や兆候を持つ人は専門的には不安障害と考えられます。恐怖症やパニックはこの不安障害にはいる病気です。不安障害にはそのほかに、全般性不安障害、強迫性障害、外傷後ストレス障害,および、非定型性不安障害があります。

 恐怖症もパニックも、不安とさほど関係しない状況で著名な不安が出現し、不快なものを避けようと大変な努力をします。これは病気のタイプにより、ある人は高層の全面ガラス張りの部屋へ入れなかったり、教会において人前で話すことができずに招待を断ったり、繁華街で買い物ができないといった症状を示します。このような病気がある人は、自分が恐れているものに直面することは実際にはさほど多くありません。

 まもなく自分がその恐ろしい状況に直面するのだと予期し想像するだけで、このような患者の不安は激しく高まります。

 子供の時から恐怖症を持つ場合もありますし、成人してからのこともあります。何年もやっていたことが、ある日突然恐ろしくなることがあります。たとえば、パイロットが500回目の飛行で突然パニック発作を起こすことがあります。

 自分が恐れるものを特別大きな支障なく避けることのできる人もいます。成人になると上手に隠し恐怖症を表面に出さない人が多くなります。自分の恐怖症を生活に適応させている人でも、時に恐怖に直面することがあります。すると戦いが始まります。子供では成長とともに恐怖症が消失していく場合がありますが、成人は治療を受けるまでその苦しみを取り除くことはできません。

 恐怖症やパニックは太古の昔からどの文化圏にもありました。最も新しい米国の研究によれば、恐怖症が精神障害の中でいちばん多いことがわかっています。100名の中7人が恐怖症を持っています。1000名の中8名がパニック障害を持っています。男性よりも女性の方が恐怖症やパニックにかかり易いようです。

 恐怖症やパニックが女性に多い理由はわかっていません。アルコール中毒は女性より男性に多いので、男性はアルコールで恐怖を強く抑え込むからではないかと推定されています。しかし、これはたくさんの説明の中の1つに過ぎません。体質の違いや社会的および心理学的な経験の仕方の違いも関係があるかも知れません。たとえば、私たちの社会では女の子は男の子に比べすぐ恐がったり、自主性が少ない方が好ましいように育てられる傾向にあります。

恐怖症やパニックの種類

 門家は、現在、恐怖症を3種類に分けています。それは

単一恐怖
社会恐怖(対人恐怖症)
広場恐怖(パニック発作を伴うタイプと伴わないタイプがある)

 重症のパニック発作を頻回に経験する患者には別に診断がくだされます。

単一恐怖

 単一恐怖は最もよくある恐怖症です。これはある特定の物や状況を意味もなく恐れるのです。単一恐怖の恐怖の対象として、たとえば、蜂、ばい菌、高いところ、におい、病気、あらしなどです。

 単一恐怖は、危険な状況を実際に体験し不安感に襲われてから始まります。たとえば、泳げない人が深いところに連れていかれれば、激しい恐怖を感じるのは当たり前です。しかし、プ−ルの脇でも同じような恐怖を感ずるならば、その不安は過剰であり恐怖症に属します。

 単一恐怖、特に動物を対象としたものは子供によくみられますが、どの年代でも見られます。全人口の5〜12%は一生の内6ヶ月間以上恐怖症にかかっていたという調査があります。

 多くの恐怖症の患者は自分の恐怖が理に反していることを知っていますが、それにより不安が減ずることはありません。単一恐怖の患者は他の不安障害の患者ほど日常生活に支障をきたしたり、不快を感ずることはありません。

社会恐怖(対人恐怖症)

 社会恐怖を持つ人は他人に何らかの判断をされることを極度に恐れます。たくさんの人の中にいても、自分だけじろじろ見られ欠点を探されていると考えてしまいます。社会恐怖を持つ人は、このような懸念を持って社交の場を余儀なく避けたくなります。

 社会恐怖を持つ人はパーテイに行くことが不安になります。なぜならば、そのような人は自分の服装を人に笑われているのだとか、自分が人前で上手に話せない間抜けだと思われているのだと恐れるからです。単一恐怖を持つ人と同じように、不安が起こりそうな状況を避けることに大変な努力を払います。

 社会恐怖を持つ人は、人前で恥をかいたりきまりが悪い思いをすることを極度に恐れます。皮肉なことに、はっきり考えたり、ある事柄を思い出したり、自分の意見を表明するのがたいへん困難になることを恐れてしばしば何もできなくなってしまいます。客観的にはたいへんよい状態でも、なかなか自信がもてません。この次は完全に失敗をしてしまうだろうという考えを持ってしまうからです。

 社会恐怖の発生頻度についての研究は十分なものはまだありませんが、単一恐怖ほど多くはないと考えられています。しかし、社会恐怖を持つ人の苦痛はかなり激しいので、単一恐怖の人より多く受診します。社会恐怖は15ー20歳に発症することが多く、治療されないままですと、人生の後半までずっと続きます。社会恐怖のある人はうつ病やアルコール中毒になる人も多いようです。

パニック障害

 不安が強い患者の別の1群は、不意に理由なくパニックのエピソードに襲われる患者です。この突発する発作は破滅するという切迫感と幾多の身体症状で特徴づけられます。心臓の動悸は高鳴り、呼吸は早くなり、空気を渇望します。冷や汗、全身から力が抜ける、めまい、夢か幻かといった非現実感がよくでます。パニック発作のある人は自分が死ぬのではないかとか、狂ってしまうとか、または、どうしようもない状態になってしまうといった恐れを抱きます。

 繰り返してこのような発作があるとパニック障害の診断がつきます。単一恐怖や社会恐怖の人は自分の恐れるものを目の前にしたりそのような状況を想像して不安状態になります。パニック障害ではこのようなことはなく、一見何も心配をするようなことのない状況で恐怖に襲われます。

 単一恐怖や社会恐怖の人は自分が恐れているもの、たとえば、猫、高い建物の屋根、その他彼らが恐れるすべてのものに近づいたときに常に感じる恐怖感を予測できますが、パニックを持つ人は突然の発作に襲われる時を予想することができません。たとえば逃げることのできないような状況は危険なように考えられますが、このような状況でも発作は常に起こるとは限りません。

 パニック障害は家族性に起こることがあり、日本国中で約50〜60万人の人がかかっていると予想されます。15〜19歳に初めて発作が起きる人が多いようです。

広場恐怖

 パニック発作のある人のうちかなり多くの人々は広場恐怖症にかかっています。この病気の犠牲者は、友人や家族といった安心できる人と一緒でなければ外出できず、生活にひどく支障を来すことがあります。最初のパニック発作はひどいストレス状態や親しい人の死に引き続いて起こることが多いですが、広場恐怖はこれらの事柄とは全く関係がありません。次に起こる発作を恐れて常に不安状態になります。そしてもしパニック発作が起こったとき、対処できない状況を避けようとします。このような行動はパニック障害とは区別され広場恐怖と呼ばれます。広場恐怖には2種類の不安があります。パニック自体の不安とパニックが起こるのではないかという予期不安です。

 広場恐怖は次のような具合に起こってきます:普通の日にいつもの家事をしたり、散歩をしたり、ドライブをしたり、すなわち、いつもやるようなことをしているときに、突然、激しい恐怖の嵐に襲われます。胸が高鳴り、体が震え、じっとりと汗をかき、息ができなくなります。何か自分にとてつもなく恐ろしいことが起こると思いこみます。このまま狂ってしまうとか、心臓発作に襲われているのだとか、このまま死んでしまうのではないかと恐れます。必死になって安全を求めようとします。家族に安全を確認したり、医者の治療を受けたり救急車を呼んだりします。医者はどこも悪いところはないといいます。それで、次のパニック発作が起こるまでまた仕事にでます。発作が頻回になるにしたがって、そのことばかりを考えるようになっていきます。心配になり危険なものはないか探し、次の発作が起こるのを恐怖しながら待つようになります。

 発作があった状況を避けるようになります。そして、逃げ出したり助けを求めることができないような場所を避けるようになります。そしていつもの生活とは少しずつ違った生活態度を取るようになります。たとえば、スーパーマーケットにいくことにしても、込んでいる仕事帰りにいくよりも空いている真夜中にいくようになるのです。

他の病気と間違えられやすい恐怖症

 恐怖症やパニック障害の劇的な症状があっても本人はもちろん医者にさえもそれは時に見落とされることがあります。特に単一恐怖の場合にはハンデイキャップとして隠し通します。広場恐怖も患者にとっても医者にとってもその主な関心は身体症状であるので発見されないことがたびたびあります。胃潰瘍、高血圧、皮膚発赤、チック、歯ぎしり、痔、頭痛、筋肉痛、心臓病はしばしば不安障害と共にでます。

 恐怖症は他の問題も覆い隠します。学童期の子供が登校を拒否する複雑な状況、すなわち、学校恐怖症がよい例です。その恐怖症の裏にはしばしば親からの分離不安が隠れています。精神保健の専門家は学校恐怖症と他の理由で学校へいかない状態とを容易に区別します。

 パニック障害や恐怖症が他の病気と間違えられるように、身体的な病気が不安障害と間違えられることもあります。たとえば、頭部外傷、アルコールの禁断症状、また肺炎といった内科的疾患の結果、不安状態となることもあります。このような場合には、身体的な病気がよくなればパニック症状は通常消失します。恐怖症とは診断されない恐怖行動があります。たとえば、セックスそのものに問題がある人が恐怖症のようにセックスを避けることがあります。

 アドレナリンや他のホルモンの代償的変化による血糖値の急激な低下、すなわち、反応性低血糖は発汗、心悸亢進、振戦といったパニック症状を引き起こします。この病気が最もパニックに似た症状を示します。

 パニックと恐怖症またはうつ病の関係は複雑です。パニックの約半数の人は恐怖症がありますし、パニック患者は普通の人より多くうつになります。広場恐怖を持つ患者さんの多くはうつ病の誘因にもなる離別や喪失体験をしてから間もなく発病します。また、本人にうつ病の既往歴があったり、家族にうつ病の人がいることがよくあります。

 恐怖症がうつを起こすのか、うつが恐怖症を起こすのかは不明です。パニックや不安はうつになるまで続きます。言葉を変えて言えば、恐怖症もパニックもうつ病とその症状ー不眠、食欲低下、集中力低下、全身倦怠、楽しくない、そして無価値の感情−の結果なのかもしれないのです。

 不安と抑うつが互いに因果関係無しに、単に同時に存在しているという可能性も考えられます。このような病気の根底にある生物学的な因子、すなわち、家族性の脆弱性は抑うつにも不安にも通常見られます。

恐怖症とパニックの原因

 他の不安障害と同じように恐怖症もパニックもいろいろな分野で患者の社会的活動の障害を起こします。広場恐怖の女性を例にとりましょう。彼女はバスに乗ることができないと思いこんでしまうので会社を辞めてしまいます。彼女は自分が直面する危険について判断を下すときに誤った考えをしてしまいます。バスに乗っているときに体験したパニックの恐怖、すなわち、自分は死んでしまうに違いないとの思いみの記憶が彼女の身体の働きに変化を及ぼします。そして、胸が高鳴り、めまいがし、手に汗を握るようになります。彼女の行動、考え方、感情、そして身体の生理的な反応すべてが広場恐怖症と関係しています。

 研究者はこのような事実から不安障害の原因を理解しようとしました。患者を観察し、患者が言うことに耳を傾け、研究室でいろいろな測定をする事により学説が作られました。研究者は次にこの学説を臨床の場と実験室で検討しようとしています。以下に最も可能性の高い学説について説明しましょう。

精神力動学的理論

 不安の原因として可能性の高いのは情動と衝動から無意識に起こる心理的葛藤です。この葛藤は専門家以外の人にはほとんど気づかれません。今世紀初頭にジグモンド・フロイドにより提案された学説によれば、このような無意識のうちに生ずる力は子供の時に出来上がり、大人になってこのような不安状態を引き起こすというものです。このような考え方の大部分は、長期間十分な治療を受けた患者の記憶や連想から推定されたものです。過去20〜30年間、フロイドと彼の学説を修正した精神分析学者たちが、不安状態の説明と治療に多大なる影響を持ってきました。精神分析は現在では科学と認められておりません。しかし、精神分析学派の考え方は一般社会とりわけ精神保健に関する問題を取り扱うクリニックではまだ影響力を持っています。

 精神分析学者の見解によれば、不安は現実には存在しない危険を示すシグナルであり、小児期の記憶やイマジネーションによってもたらされるとされています。この危険はしばしば愛を喪失する空想(または愛するものから実際に別離すること)または罪とか性的な出来事を示す空想と関係しています。この空想が成人になって活発になり、それと関係する出来事が起こったとき、不安が発生するといわれています。その不安は意識されることも無意識のこともあります。いずれにしろ、この不安はその人を防衛的にします。すなわち、恐ろしいものを避けようとしたり、危険の感じを空想する願望を抑制したり調節したりします。この防衛的行動は不安をやわらげるので繰り返えされ、学習されてしまいます。

 精神的な葛藤に焦点をあてた現代の精神力動学研究は、それが実際に起こることもまたはそれを恐れるだけの場合も含めて、小児期の養育者からの分離にともなう不安を重視しています。小児期に、親から分離することに極度に不安を抱いた人は、大人になってから広場恐怖症になりやすいと考えられています。広場恐怖の患者の42%は小児期に分離不安の既往があります。この統計的データーによれば、広場恐怖は小児期に形成されるか、または小児期の分離不安が解決されないことによりで起こると考えられています。

 現代の精神力動モデルでは、広場恐怖の患者は愛する人からの別離を象徴したり、それを暗示し恐怖させるような状況を避けるといわれています。このような見解により広場恐怖の発症に死別とかその他の喪失体験が関わっている理由を説明しています。広場恐怖の患者が配偶者や子供や友人と一緒だと平気で行動できるのはこのようなためと考えられています。

学習理論

 フロイドから現在に至るまでの精神分析理論は、学習が病的な不安状態の発生に際して役割を果たしているとしています。学習を不安学説の中心においている学派もあります。最も単純化した学習理論では、たとえば、蛇にかまれるといった直接経験や、または他人の怪我を教えられたり、他人の驚愕反応を観察したり、危険物に注意を払うといった間接的な経験により恐怖を学習します。しかし、この反応はあるものや状況を後になって恐ろしいと感じるようにしただけです。1920年代の初頭、実験心理学者は、ある少年をおとなしい白ネズミを見ただけで恐怖感を感じるように訓練しました。近くに白ネズミがいるといつも大きな音を立てその少年を驚かすことによってそのようになりました。成人になってそのような昔のことを思い出すことは滅多にないので、恐怖症患者が白ネズミに恐 怖を感じることは理不尽に思えるのです。

 学習理論に関する知識は広場恐怖がどの様に起こってくるかという問題にも光を投げかけました。単一恐怖と同じように、たとえば群衆の中でただ一人いるときパニック発作を初めて経験すると、パニックの恐ろしい感じと群衆とが関係しているように学習されてしまいます。同じ経験をしたり、そのようなことを予想することが恐怖感をかき立てます。そして群衆を避けることによってその不快感を減らすことができきます。回避行動をする事によって不安は弱まるから、それから先ますます群衆を避けるようになります。回避行動はまた群衆の中で実際にパニックが起こるかどうかをテストする機会を減らします。このような悪循環を繰り返すことによって恐怖症がますます強化されるのです。

生物学的学説

 フロイトをはじめとする不安の研究者は、重症の不安障害を持つ患者の脳に機能異常がそのうちに見つかると考えていました。その時代には脳科学の知識も方法論も不十分であったので、彼らの学説は推論の域をでることはありませんでした。現在ではこの状況は全く変わっています。近年、技術の進歩はめざましいものがあり、不安とその関連障害の研究は大部分脳に焦点が向けられています。生物学的な研究者はヒトや実験動物に不安を実験的に引き起こすことによって不安障害を理解しようとしています。身体症状が恐怖症やパニックの原因として働いているかどうか明らかにするために、不安障害にみられる身体症状が調べられています。

脳と中枢神経系

 不安障害の脳で何が起こっているのかという研究が緒についたところです。1つの神経細胞から他の神経細胞に情報を伝える化学物質、すなわち、不安状態の神経伝達物質の明かな異常は見つかっておりません。しかし、ノルエピネフィリン、ギャバ、セロトニン、アデノシン、といった神経伝達物質に異常が存在する可能性が間接的に知られています。しかし、ある脳機能の障害、たとえば、遺伝子の欠陥が、不安の原因となっていると現在断定するところにはきていません。このような研究に関しては意見の一致がまだ見られていません。多くの研究は不安を減ずる薬物がどの様に脳に作用しているかに焦点を絞っています。このような研究によれば、まだ証明されてはいませんが、強い不安があるときの脳機能について多少わかってきました。実験動物でみられた研究結果が必ずしも人に当てはまるかどうかは確かではありません。神経科学におけるパズルの一端がやっと見つかったところで、本格的な研究はこれからです。

実験的不安

 パニック発作のあった人に投与すると発作を起こす物質がいくつかここ数年見つかっている。しかし、パニックの既往のない人では発作は起こりません。このような事実からパニック発作のある人はない人と比べて生物学的な異常があると考えられるようになりました。この事実は健康な人と病気の人との違いを見つける糸口にもなっています。パニック発作を人為的に引き起こすことができることは、この病気を理解する上での有力な手段となっています。

 不安誘発物質で最もよく研究されているのは乳酸ソーダです。パニック発作の誘発にこの物質を使う理由は、不安発作をしばしば訴える人は運動後の乳酸が極度に増加することがわかっているからです。このような人では、運動そのものでも発作が起きます。パニック患者の80%は乳酸誘発で発作が起きます。正常人ではしかし20%以下です。乳酸注射によってどの人がパニック発作を起こしやすい体質か、そして薬が有効かがわかります。しかし、乳酸注射が一番確実な方法であるとはいえません。

 カフェインは乳酸ほど十分には研究されていませんが、素質のある人に発作を起こすことがわかっています。カフェインはもちろんコーヒー、紅茶、コーラ、その他のソフトドリンクやチョコレートに含まれています。パニック患者の半数はコーヒー4ー5杯分のカフェインを摂取すると発作を起こします。 正常の人も発作を起こす可能性はありますが、ずっと大量のカフェインをとらないと起こりません。カフェインは、天然の鎮静物質であると考えられている脳内のアデノシンの神経伝達を遮断して作用を発揮します。臨床医の研究によれば、パニック患者の多くはカフェインが発作の原因となることに自分で気づき、カフェイン摂取を制限しているということです。

その他の生物学的研究

 そのほかにも生物学的研究はなされている。最も古くからのものとして生理学的反応、すなわち、心博数、血圧、発汗、皮膚反応などについての研究がある。ホルモンについての研究もある。しかし、これらの研究成果と脳内の神経伝達物質との統合的な関係はあきらかではありません。

 広場恐怖やパニック発作のある患者は、正常人と比較して恐怖に対する反応の仕方が違うという研究もあります。この違いは出生時から存在し、不安障害になりやすい体質があることが示唆されています。

 数年前、広場恐怖のある患者では僧坊弁虚脱といった軽い心疾患が多いことが指摘された。この僧坊弁虚脱は広場恐怖と同じように家族性に起こります。僧坊弁虚脱は心悸亢進を引き起こし、それがパニック発作の引き金になると考える学者もいる。しかし、慢性の不安状態やパニック発作そのものが僧坊弁虚脱の原因となることも考えられる。また、パニック障害も僧坊弁虚脱もその根底にある神経系の障害の症状であるとも考えられる。一般人口と比較して、パニックの患者に明らかに僧坊弁虚脱が多いかどうかはまだ未定である。

 甲状腺機能異常もパニックになりやすい患者で報告されている。この甲状腺機能障害でも心悸亢進を起こしやすくパニックとの関係はまだ研究の途についたところです。

 呼吸困難もパニックの主だった症状であるが、呼吸回数が増加した状態である過呼吸が最近注目されている。その症状は風船を膨らませるときに似ている:めまい、注意集中困難、口や指のうずく感じ。

不安の世代伝播

 不安がどの様に世代伝播するか、たとえば遺伝子によるのか、我々のすむ文化に関係するのか、毎日生活する家族環境なのか、ということが現在研究中である。恐怖症やパニック障害の発症は先天的傾向が強いのか後天的傾向が強いのかが調べられています。恐怖症やパニック障害は一般人口よりも患者の親族に多発する傾向があるので家族研究がなされている。この傾向が遺伝的に伝播するのか、発育時に学習されるのかまたは単に不安傾向の強い人と暮らすからそうなるのかは不明である。しかし、少なくともその一部は遺伝的な関与があることはわかっている。

 不安障害の原因を知る糸口は、我々のとはまったく違った動物や人間社会の自然観察により得られる。恐怖症のようなものが多くの動物にみられる。愛撫ばかりされていた犬はちょっとした叱るだけでちじこまったり、こそこそ逃げ出したりする。ヒトがヘビを恐がるといった一般的な恐怖は進化論的に初期の発達段階にさかのぼります。人間社会においては文化様式の違いが不安障害の形を驚くほどさまざまに変えている。発症年齢、そのたどる経過、症状、社会階級、不安を引き起こすもの、情動の種類、患者の予後はさまざまである。

 ある種の恐怖は文化の違いを問わず共通している。このような恐怖は人類の発達史的観点から見ると生き残りのチャンスを高めている。大部分の恐怖症は比較的些細なものや事柄に向けられており、このようなことがそのほかのことと比べてより不愉快な気持ちをひき起こすとは考えられない。たとえば本当に危険な電気のコンセントが恐怖の対象となることは少なく、殆ど見ることのないヘビか無害な昆虫が恐怖の対象となることが多い。我々の文化圏ではヘビや昆虫にかまれるよりもコンセントからショックを受けることの方が多い。

 この矛盾を説明するために、人間にはあるものを恐れるという先天的な特質があると推論する学者もあります。暗闇とか動物に対するよくある恐怖症は原始時代に起源を発する対象や状況であり、そのような大昔においては深刻な危険であったという事実はいわゆる”危機防備”学説と矛盾することはない。

現在までの研究結果のまとめ

 ここ数年不安障害の研究が活発になり、多くの研究がなされた。いろいろな形で検討が加えられたが、どの学説も何が恐怖症やパニックを引き起こしているのかという答をまだ十分には出していない。しかし、説明することは全く不可能なことではないでしょう。現在提案されている不安障害の原因についてのいろいろな学説は、心理学的、社会学的、または生物学的な方面からのものとしてそれぞれ提出される傾向がある。単一恐怖は経験と学習理論から説明されることが普通であるし、一方、広場恐怖やパニックまた時には社会恐怖は、少なくともその一部は生物学的な原因であると理解されることが多くなってきている。すべての恐怖症もパニックもいろいろな原因が重なって起こってきていると考えるのがいちばん妥当である。ただ、その重なり具合は不安障害のタイプにより違うし患者個々の間にも違いはあると考えられる。多くの学説は、パニックや広場恐怖のような重篤な障害は、わずらわしいがそれほど生活には差し支えない単一恐怖に比較してより生物学的な原因をもっているということをそれとなく示している。

治療

 恐怖症やパニックの原因は十分にわかっていませんが、これらの治療は非常に効果があがることが多いようです。治療者はいろいろな技法を使います。その選択は治療者がその原因をどう考えているかで決まります。しかしこれらの技法はいろいろな意味で共通したところがあることが研究により明らかになってきました。それらはすべて患者を不愉快な源に直面させることを必要としているように見えます。ある治療者は患者に不愉快な状況を想像させ、それに直面させようとするし、別な治療者はそのような場面に実際に直面させます。恐怖の源は外界のものや状況にあると考える治療者があるし、それを患者の無意識とか思考の中や身体的な感覚の中に求める治療者もある。そのほかの違いとして、ある治療者は恐怖を感じるものや状況にはっきりと意識的に立ち向かわせる治療法をとるし、別の治療者は薬や精神療法を使って、恐怖を感ずる状況に日常的に立ち向かうことができるようにしていきます。

精神療法

 今世紀の前3分2の期間恐怖症やその他の情動障害に対して専ら精神分析かまたはそれに近い治療がなされてきました。精神分析では無意識の葛藤が不安の源とされていました。治療の目標は、その葛藤を明らかにし、それが患者にとってどの様な意味をもっているかを分析し、小児期に理解が不十分で不安の原因となっているものに対し現時点における現実的な評価を与えることです。精神分析の技法には自由連想法があります。これは患者に思い浮かんだことを自由に述べさせるようにするものです。その他の技法として夢分析や患者と治療者の人間関係の分析があります。もっと指示的な精神療法もあります。連想により患者の記憶やフィーリングから推理する代わりに、別の治療者は患者に宿題を与え葛藤の源を引き出したりまたは示唆し、患者を直接指導します。

 残念なことに、精神分析やそれに類似する精神療法は恐怖症には効果がないことがわかってきました。患者はこの治療を葛藤の解決、一般的な不安の軽減、パニック発作に関わるフィーリングや考えや回避行動をはっきり見定めることには有用であると感じます。しかし、恐怖症状そのものはなくならなりません。フロイド自身が恐怖症に対する純粋な精神分析の効用の限界を知っており、行動療法の発展を望んで、次のように述べています。”分析により恐怖症がなくなるのを待っていたらいつまでたっても克服することはできないだろう。分析の効果は一人で外出したりまた不安に立ち向かうことができるようすることだけだろう。”

 このようなアプロ−チは、恐怖症患者がその恐怖の対象を避けるのを止めるのに有効であることがわかりました(後述の暴露療法を参照)。この改善は、もし患者が精神療法を個人的にしろグル−プにおいてにしろ受けたならば長く続くことが多くの治療家によって確認されました。たとえばパニック発作が起こった状況を検討することによって、恐怖症患者は不快な感覚の原因を明らかにすることができます。そして治療者は患者に不快感の源を現実的に変えていくように行動をさせ、回避行動をやめさせるのです。そして人間関係の葛藤が生じたならば、もっと自信をもちその状況をうまく切り抜けていくように指導します。どのような治療においても治療者の長期にわたるサポ−トがその成功の鍵となります。

初期の行動療法

 恐怖症の治療の発展を示す画期的な出来事が1958年に発刊された本にあります。この本でヨセフ・ウオルペは系統的脱感作療法による成人の恐怖症患者のすばらしい治療効果を報告しています。脱感作療法は子供の動物恐怖に対して1920年代に考案されたものです。脱感作療法ではまず表面及び深部の筋を弛緩をさせます。恐怖症に関係する状況を不安の程度によって段階付けをさせます。たとえば、ヘビの恐い人にはヘビをもつことを不安の1番強い段階に、そして部屋の向こうからヘビがおりの中にはいっているのをみるのを1番低い不安の段階とします。

 次に患者は自分の不安段階表の1番低い不安を起こすシ−ンを空想します。同時に患者は前もって訓練された弛緩法を実施するように指導されます。恐怖の状況を空想する間もリラックスな感じを続けることによって、その状況と不安感との関係を弱めていくことができます。1番低い恐怖状況をリラックスしたままで過ごすことができるようになったら、次々に強い恐怖状況に移っていきます。

 この方法の要点は、空想により恐怖状態に直面することと実際にそうすることと同じ効果があるということです。しかし、空想と現実との間にギャップがあることが認められています。言葉を変えれば、この脱感作療法を終了し現実に恐怖状態に直面すると、恐怖段階表を幾らか下がったレベルになってしまうようです。たとえば、空想ではヘビを落ちついて持つことができるようになっても、実際のヘビでは最初はさわることはできても持つことはできません。現実の状況をさらに練習することによって、しかし、恐怖を完全に克服することができるようになります。

 系統的脱感作療法は恐怖症の治療に利用されたもっとも古い行動療法の1つです。1960年代の後半に出現したもう1つの方法は"内的破砕療法"と呼ばれ、空想的フラッジングといわれる変更を加えられた方法が広く利用されるようになりました。

 脱感作のようにフラッジングは恐ろしい状況の空想を繰り返し経験するやり方です。ある意味で、フラッジングと脱感作は全く違ったものです。フラッジングでは患者ではなく治療者が空想する場面の内容やタイミングを指示します。患者は前もって恐怖の場面を十分に吟味しそれを書き記します。そして、リラックスするようには指示されていません。むしろこの目的は恐怖と不安を最大限に体験することにあります。この最悪の状況を耐えることを覚え、恐怖症にとらわれている力をゆるめることにあります。このような恐怖を空想する体験を長く続けることによってその恐怖に慣れ、不安が弱まります。

 内的破砕療法とフラッジングが行われ始めた頃、患者の恐怖症の裏に潜んでいるとみなされる無意識の葛藤の場面を治療者は使いました。しかし研究により、内的破砕療法の恐ろしがらせる場面は患者を混乱させる(時に夜恐症を起こす)だけでなく、フラッジングだけと比べて効果が上がることはないことがわかりました。このようなわけで内的破砕療法はもはや使われなくなりました。

 多くの研究者が脱感作療法とフラッジングとを比較しています。どちらの治療法も効果は同等であるという結果が出されています。単一恐怖では両治療法とも恐怖症の行動も不安も減少させます。しかし、広場恐怖に対しては脱感作療法は フラッジング ほど効果がありません。まだ十分には研究されていませんが、両療法とも社会恐怖には余り効果はないようです。

暴露療法

 行動療法家は、恐怖する状況に暴露することが脱感作療法やフラッジングに共通する構成要素であることを観察してから、より効果が上がるように別の方法を考案しました。古い方法は不安を減らすことにより行動変化が起こることを企てましたが(恐怖する状況にはいる)、新しい方法はまず行動を変えることをめざしました。行動が変化してしまうと、恐れる理由がなくなり不安は消失します。

 不安を起こすような状況を繰り返し避けていると恐怖症の不安は強化されるというのが根底にある仮説です。回避行動は、その状況と不安とが実際に関係がないことを学習するのを妨げます。他方、その状況に暴露することはそれに少しずつ慣れさせ、本当は危険がないことを学習させるのです。不安は少しずつ消滅していきます。暴露が早くなされればなされるほど、恐怖症は早く消失すると考えられています。

 実際の治療では、この理屈が説明され、これからなされる治療法の手順が示され、患者がどの様に変化するかを示します。患者は危険に対面する際にはいつでも治療者の手助けが保証されます。そして患者がその危険に耐えることができないときはいつでもそれを中断しても良いことが知らされます。

 そして患者は恐怖する状況に暴露されます。治療技法によってどの段階でそしてどのくらいの期間患者が恐怖する対象や状況に暴露されるかは異なっています。一般には、患者は不安が消失するまでその状況にとどまることが要請されます。訓練を繰り返す毎に恐怖する状況により密着し、より長く対面します。

 このような実生活で現実に暴露する代わりに危険性を想像させる方法もあります。単一恐怖にはどちらでもよいと考えられています。広場恐怖には薬物療法と併用するのが1番よいと考えられています。実生活上の恐怖する状況に対峙するのを助力するために空想で暴露を使う治療者もいます。現実に暴露させるとともに空想でもそのようにした方が効果が長く持続すると考えられています。実際に暴露する方法が単一恐怖の治療にも広場恐怖の治療にも主流であることには違いはありません。特別な社会適応訓練が併用されなければ、暴露療法は社会恐怖には効果はありません。

認知療法

 暴露療法とともに恐怖症患者の思考パタ−ンを変化させる試みが最近いくつかなされています。これらは、患者と恐怖とを結びつけていると思われる持続的な思考習慣を明らかにし、変化させる行動療法家の試みが発達したものです。認知ー行動療法の1つとして自己陳述訓練があります。これは患者に、それにさわったら気絶してしまうとか、それはすることができないといった否定的な思考内容に気づかせ、もちろん私はそれをする事ができますといった肯定的な陳述に置き換えさせます。このようなアプロ−チに患者が慣れてくると、これを使う行動療法のプログラムを進めることができます。

 全く異なったやり方として、患者は逆説的思考を指導されます。すなわち、できる限り不安感を起こしパニック状態になることが指示されます。患者は、時にはユ−モア−も交えて、無理に症状が悪化したようにさせられます。たとえば、卒倒してしまうことを恐れている婦人にわざと卒倒するように指示を与え彼女にその危険が迫っていることを伝える。”私は倒れるからどいていてください。もう倒れそうだ。あなたが今まで見たうちでいちばん上手に倒れますように。”しばしばこのような方法で症状を見守っていくと症状はやわらいでいきます。事実、卒倒しようとか、冷や汗をかこうとか、震えようとしようとする患者はそうするのが困難であることに気づきます。

薬物療法

 いろいろな薬がむかしから恐怖症の患者に試みられてきました。バルビツレ−トはほとんど効果がありませんでした。不安全般に使用される新しいクラスの薬、ベンゾジアゼピン、は恐怖症とともにみられる予期不安を軽減しましたが、パニック発作を通常止めません。しかし、ベンゾジアゼピンの仲間のアルプラゾラムは例外で、中等から高用量では効果があります。しかし、長期間使用すると依存が生じる危険があります。1960年代のはじめ、ある種の抗うつ薬が恐怖症の特徴である不意に出現するパニック発作に有効であることが発見されました。患者がいったんパニック発作を恐がらなくなると、パニック発作がまた起こるのではないかという不安や回避行動も消失します。もっともよく検討された薬物はモノアミン阻害薬(フェネルジン)と三環系抗うつ薬(イミプラミン)です。これらの薬は普通はうつ病に使われますが、その抗うつ効果とは関係なく抗不安作用が認められます。パニック発作が消失すると予期不安もなくなります。低用量で反応する患者もありますが、大部分はうつ病と同じように高用量が必要です。モノアミン阻害薬も三環系抗うつ薬も望ましくない副作用があります。それは眠気ですが、服薬を続けると数週間後にはなくなっていきます。しかし、モノアミン阻害薬は特別な注意が必要です。この薬を服用中の患者はチ−ズ、ワイン、その他のある種の薬を制限しなければなりません。このようなものとモノアミン阻害薬が反応し、高血圧、激しい頭痛やまれには生命に危険がある症状がでます。このような合併症がありますが、慎重にモノアミン阻害薬が使われるとパニック発作のある患者を劇的に改善させることがあります。

 パニック発作に対する薬物療法は一般には6カ月間から1年間行われます。多くの患者はその後くすり無しでうまくいきますが、再発するとまた薬を使わなければなりません。どのくらい各治療法を続けたらよいかはまだ研究中です。

 前述したように、多くの抗不安薬はパニックには効果がありません。しかしそれらも非常に高用量を与えられると効果があることが最近の研究によりわかりました。セルシンのようなトランキライザ−は恐怖症にみられる不安全般に使用されます。

 前述したように、比較的新しいベンゾジアゼピン薬であるアルプラゾラム(ソラナックス)は服用後数日以内に劇的にパニック発作を止めます。他の特徴とともにこの速効性によりアルプラゾラムがパニックにとって有用な薬になりました。しかし、米国食品・薬物局はまだこれを適応薬として認可していません。アルプラゾラムは身体的依存や眠気といった副作用もあります。この薬を突然中断するとけいれん発作が起こることもあります。

 例えば、公衆の前で話すのが恐いといった社会恐怖の治療にはベ−タ−遮断薬がよく効くことがわかっています。この薬は普通には高血圧に使われますが、他の薬に反応しないときに用いられます。また、この薬は震えや心悸亢進のある患者にとくによいことが示唆されています。モノアミン阻害薬も社会恐怖にはよいことが示されています。

 恐怖症の問題解決のために栄養についても考慮されています。栄養不良はストレスに対する抵抗力を弱めることはよくわかっています。パニック患者はカフェインに特別に敏感なので、コーヒーは徐々にやめることが勧められています。そのほか、特に恐怖症に効果がある食餌はありません。

予後

 恐怖症患者の予後は過去20年間たいへん改善しました。単一恐怖は数週間で治癒することがしばしばあります。パニック発作は主に抗うつ薬で治療されます。薬物療法と暴露療法の併用で患者は自分が回避していた恐ろしく感じていた状況に思い切って対面することができるようになります。社会恐怖のある患者は社会生活訓練がなされ、暴露療法と薬物によりかなりよくなります。個人精神療法または家族精神療法を通じて全ての患者は恐怖をよく理解し、それ以上恐怖感を高めないことを学びます。もしあなたやあなたの知人が恐怖症をもっているならば、助かりチャンスを逃がしてはいけません。時に身体的な病気が恐怖症のような症状を呈しますから、その症状が重篤な身体疾患によるものでないことを内科医の診察でまず確かめ、それから恐怖症治療の専門家にかかってください。三分の二の人の治療は成功します。

Useful Information On Phobias And Panic National Institute of Mental Health Department of Health & Human Services Public Health Service Alcohol, Drug Abuse, and Mental Health Administration Rockville, MD 20857, U.S.A. DHHS Publication No. (ADM)88-1472 Printed 1986 Reprinted 1988

翻訳

医療法人 和楽会
理事長 貝谷久宣

 社会不安障害
http://www.shypeople.gr.jp/