不安神経症とパニック障害

 パニック発作はパニック障害の中核症状です。めまい、心悸亢進、呼吸困難、吐き気などの種々な身体症状と共に強い不安感が不意に襲ってきます。この発作を経験する大部分の人はこのまま死んでしまうという恐怖感を持ちます。ですから、ひとたびこの発作に襲われると次の発作のことが気にかかり、常にオドオドした状態になって、仕事どころではなくなってしまいます。

 この様なパニック障害を持つ患者に治療者はどのように対応すべきかが、「パニック障害研究最前線」という専門誌に最近載っていました。この著者は、「この病気はくせのようなものであるから、その本態を心得て、そのつどやり過ごすならば、程度も軽くなり、いつか忘れたように治るであろうなどと説得するのがよいと」と30年近く昔の不安神経症の精神療法を引用し、さらに「患者が病気として恐れている症状を、くせのようなものと扱い、治療によって取り除くべき異物とはみなさず、患者自身の責任において立ち向かい、乗り越えて行くべきものであると説得するのである」と述べています。ケセラセラの読者であるパニック障害の患者さんはこの様な精神療法を受け入れることが出来るでしょうか。

 この様な精神療法をしようとする専門医は、この病気をなお旧態依然として不安神経症ととらえています。不安神経症と呼ばれていた頃のこの病気の「本態」は身体の疾患ではなく心の持ち方で生じる病気と理解されていたのでしょう。「不安神経症」の症状は薬物療法によりたいへんよくコントロ−ルされることから「パニック障害」という病名が新しく与えられたのです。パニック発作を静める薬の脳内での効果発現機序がわかってきたことと、脳の画像診断技術により、パニック障害の本態は脳内の不安に関与する神経系の機能異常であることがはっきりしてきたのです。ですから、このようにパニック障害を理解して治療しようとする医師は、パニック発作をあくまでも”病気”としてとらえ、患者から取り除くべきものとして処置します。日本のこの分野の専門医は、前述の著者と似たり拠ったりの人がまだまだ多いようです。患者の苦しみを理解しない「パニック障害研究最前線」がまかり通っているのは残念です。

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文責

医療法人 和楽会
理事長 貝谷久宣