「夢が叶った虹の橋 お台場集団行動療法」

足立 良子(仮名)

 ある日、「クリニックで、お台場へゆりかもめに乗って行く集団行動療法がありますよ。」と聞き、前から集団行動療法を望んでいた私は、よしきたとばかりに参加の意向を即答しました。で、あったのにもかかわらず、当日が近くなって来ると何をしていても、レインボウブリッジを前にして、そそくさと戻ってしまった記憶が蘇り不安になりはじめました。と言うのも、数年前、レインボウブリッジを渡ろうと決心し、自分に頑張れ、と応援歌を心の中で歌う気持ちで向かいましたが、眼前に建つ橋の高度、長さは想像を超える物で緊張と不安が最高潮に達し、そして発作になってしまったという経験があったからです。数ヶ月前にも意を決して新たな気持ちで挑戦しましたが、前回と同じ結果に終わってしまいました。

 さて、当日、顔はにこにこ、心は不安、バッグの中を見てみれば、お菓子に飲み物、雑誌にウォークマン、これで段ボールを用意すれば、さながら駅でのホームレス。万全の支度に勢いをつけて、負けるものかと家を出ました。クリニックに着くとK先生、M看護婦さんをはじめ以前の集団行動療法で一緒に頑張った人達の顔に心が和み、負けるもんかという気持ちが、とにかく行けそうだと言う気持ちに変化しました。きっと戦場に向かう兵士たちは、このような気持ちなのかな(一人でがんばるよりも同じ境遇に在る仲間と共に、心を高揚させて戦場にのぞめば、怖さも勇気に変わる)という事が頭をよぎりました。

 ゆりかもめへの乗換駅である新橋まで、赤坂見附から地下鉄に乗りました。普段だったら、緊張でいっぱいの地下鉄が、今度ばかりは、次のレインボウブリッジがひかえているためか、全く不安を感じることなく乗る事ができました。「いよいよ、ゆりかもめに乗り込み、そして、レインボウブリッジを渡る。」と考えると少し緊張し始めましたが、「先生も看護婦さんもいるんだ。みんなも同じ気持ちなんだ。平気、平気」と自分に言い聞かせて、不安を取り除かせながら乗り込みました。ゆりかもめは、けっこう混雑していて、空席がなく座れませんでしたが、かえってそのために外が見えず、ゆりかもめに乗っているといった事を意識せずにすみ、安心しました。これなら大丈夫と思っていたのですが、ブリッジに登るループにさしかかると予期不安がおこってきました。一瞬、どうしようと思いましたが、一人の参加者の方があめを下さいました。それを口にすると、少し気分が落ち着いてきましたので、エイ楽しくのりきっちゃえと思い、得意のものまねのバスガイドを披露、さっそく「みなさま、右手をご覧下さいませ。(その時に、同行している人たちにも、ここはレインボウブリッジだと意識することがないように窓外の景色には、ふれず)これが有名な吊革でございます。」そうこうしているうちにゆりかもめは、ブリッジの真ん中まで来ていました。想像の中では、ものすごくこわいと思っていたレインボウブリッジが、実際走ってみるとそうおでもないと感じました。つまり、こわいこわいと実際よりも大きな恐怖をいだくと、事実はその恐怖よりはるかに小さく、なんだこんな普通の事かと思える体験をしました。そして、もう一つ、電車は確実に駅に来れば止まるもの、その間は走り続けるもので、信頼できる乗り物だ、これにさえ乗っていれば安心して目的地に到達できる便利なものであるという事をつくづく感じました。

 そして、お台場に着きました。やった、遂にやった。お台場だ。私の中では、ニュースで耳にしたフランスからやってきた自由の女神の事も、今まではお台場には行けないのだから私には無縁の事だ、と思っていた事も現実の実際の世界のものとなり、諦める事がどんなに人生を無意味なものにしてしまうかという事を強く感じました。常に諦めないで行動するのは、精神的にも肉体的にも疲労を伴います。ましてや、一人で行うにはそれは何倍にもなります。しかし、今回の体験を通して、楽しみながら行動することや、目的先をうんと楽しいものにしておく事は、そこに行くまでの間の恐怖を軽減できる事がわかりました。また、勇気を持ってチャレンジすれば、返ってくるものは何事にも代え難い喜びになる事もわかりました。同行して下さり、その勇気を出すきっかけを担って下さったK先生、M看護婦さんには人生の新しい道を開いていただきました。さて、話はもどってお台場では、ランチタイムにレストランで食事を用意していただきました。自由の女神も見ることもできました。また、2回にわたる行動療法の中で、同じ病気を持った仲間と同じ苦しみを分かち合える絆を持てたという事は、自分が孤立感から飛び出せ、また励みにもなり、明るく生きていこうと思う原動力になっています。それから、今では自分のペースよりもちょっと冒険をして、以前にも増していろいろな事を楽しめるようになりました。最後に、このきっかけを作って下さったK先生とM看護婦さん、またいっしょにがんばった仲間たちに感謝の気持ちでいっぱいです。