夜明けの富士

 及部 ナ寸保(仮名)

1998年11月 静岡県川根町八丁段からの撮影

 初心者の作品です。写真はK先生から、何か生きがいを持ちなさいと言われ続けてきました末に、見つけた趣味です。

 私が当クリニックにお世話になり始めたのは、1996年2月の頃でした。その前年の夏、前立腺炎を患い、その治療が進まないのが原因で、鬱病となり、K先生の治療を受けることになりました。薬物療法でしたが、老人性の鬱病は長期化するのお言葉通りに長くかかりました。「明けない夜はない」と信じてきましたが、耐えられたのも、K先生が優しく私の訴えを聞いて下さり、励まして下さったからです。豊橋から通うのを困難と思うこともありましたが、先生とお話するのが、唯一の楽しみとしてきたものです。

 回復し始めた頃から、先生は趣味を持つようにと繰り返し言われる様になりました。私は教師として生きてきましたので、幸い、教え子が一杯います。その一人にアマですが、写真の腕が相当なものがいまして、私を写真の道に誘ってくれました。ファインダーを覗いて見る自然の美しさの虜になり、又、今まで知らなかった高い山や遠い地域に車の中で寝泊まりして出かけるなどして、私は元気になれました。自然が私を蘇生させてくれましたが、先生のご指示があってのことです。深く感謝しています。

 70才に近くなって、この間も北アルプスの白馬岳(2932m)に登山してきましたが、こんな自己改革ができるとは思ってもみなかったことです。今の私は登山とカメラに生き生きした人生を送っています。「明けない夜はない」との言葉は本当でした。本当の自分を発見する旅を始めた私です。

 この写真はそんな旅の出発点になったものです。山犬段という山小屋に寝袋で寝て、翌日、真っ暗な山道を1時間登って、明けゆく中で、富士山を撮ったものです。黎明の富士は病んでいる方々の、希望となるかもしれないと思い、写真の拙さを顧みずに先生のお勧めに従い、皆様の目を汚すことにしました。ご容赦下さい。