誰もが一度は思う
「ヤベェ、このまま死ぬかも」

症状の研究

SPA! 2003年8月26日号:p36-43

精神的な原因でも、「死ぬかも』症状は出る

動悸、呼吸困難、めまい、頭痛など「死ぬかもしれない」で上位に挙がった症状は、すべて精神的な原因、すなわち心因性で起こりやすい症状でもあるのだ

心療内科・神経科 赤坂クリニック理事長
貝谷 久宣

 人が意識しなくても呼吸や食べ物を消化しているのは、自律神経の働きによる。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、それぞれ反対の働きをしながら体のバランスを保っている。

 例えば、交感神経は心臓の動きを速くしたり、胃腸の活動を抑制する、血管を収縮させるなど、体を緊張状態にし、活発に活動できる状態にする。

 副交感神経は、心臓の動きをゆっくりにし、胃腸に血液を送って消化作用を促進するなど、体をリラックスした状態にする。

 どの器官をとっても自律神経の支配を受けないものはない。しかし、精神的ストレスがかかるとデリケートな自律神経がバランスを崩してしまう。そして、さまざまな身体的症状が出てくるのだ。

 前ぺージまでに見てきたような症状は、すべて自律神経のバランスの乱れによっても起こることがある。何も体に機能的な異常がなくても症状が出るのだ。そのメカニズムを、赤坂クリニック理事長・貝谷久宣氏に聞いてみた。

CASE 通勤電車で突然動悸に襲われ救急車で運ばれた

 「通勤途中の電車で突然視界が揺らぎ、冷や汗や悪寒、動悸で気が遠くなりました。心臓発作だと思って、ようやく車掌さんのところへ行き、救急車を呼んでもらったのですが、脳外科、外科、胃腸内科を受診しても、どこにも異常がありませんでした」(化学メーカー・30歳・男)

 「ストレス状態が続くと、交感神経が常に緊張し、心臓が速く脈打つので動悸が起こります。また、血管が収縮するので、冷や汗が出たり悪寒を感じたりする。胃がギューッと痛くなるのもこのせいです。心臓や胃は交感神経や迷走神経(副交感神経)がたくさん走っているので、ストレスや心因性の症状が最も出やすい。でも、心と体は切り離せませんから、頭から足の先まで、心因性で症状が出ないところはないんですよ」

CASE 睡眠中に呼吸困難、動悸、めまいでパニックに

 「会社の先輩とそりが合わず、ストレスが溜まって胃痛に悩まされていた頃、睡眠中に突然、呼吸困難になって目が覚めました」と言うのは公務員の女性(32歳)。
 「息が苦しくて、手足がしびれてきて、動悸やめまいが起こり、『死ぬ』と思いました。病院で検査を受けたら体に異常はないが、『過換気症候群』だと言われました」

 「過換気症候群はストレスや疲労などにより交感神経が活発化し、発作的に速い呼吸をしてしまうんです。血液のガス濃度が上がって、苦しいのでますます呼吸が速くなる。本人は非常に苦しいですが、死ぬことはありません」

 呼吸困難、めまい、動悸はパニック障害の典型的な症状。日本人の3.4%がパニック障害といわれ、発作はその10倍が起こしているのだとか。10倍とすれば、3人に1人の割合だ。どのようにストレスが、パニック障害へと繋がっていくのか?

 「うつ病の場合は、荷下ろしうつ病といわれ、負荷から逃れ、ほっとしたときになりやすいのですが、パニック障害の場合は、負荷の頂点で突然症状が出ます。ただし、ストレスが大きいから発症するわけではなく、もともとの体質や遺伝的要素も大きく影響します。一般的には自我を抑える自己犠牲タイプの、若い女性に多い」

 ストレスが蓄積して、ある日突然、死ぬかと思うような経験……。回避する方法はないのだろうか?

 「自律訓練法というものがあります。これは心身相関をもとにして、体のリラックスから入る訓練。基本的には調息と脱力です。呼吸を静かに深くして、腹式呼吸をする。これだけでも自律神経が安定し、過剰な緊張が緩むんですよ」

 心身相関。ちょっとした心がけで、自分の体がリラックスできるなら、「深呼吸」を常に頭の片隅に入れておきましょうよ、ね。