すこやかファミリークリニック
2003年夏号

::: ひとりで外出できずに悩む :::

 買い物中にめまい・動悸がおき、冷や汗もでて、病院へ行きましたが、検査では異常なし。その後もめまいや動悸で病院に3度運ばれたものの、異常はないといわれ、今では、人ごみがこわくてひとりで外出できなくなり、困っています。(29歳の女性)

〜回答者〜

赤坂クリニック(心療内科・神経科)
なごやメンタルクリニック院長

貝谷 久宣


:外出できない原因としてなにか病気が考えられますか?
:広場恐怖を伴うパニック障害と思われます

 質問では、病院に4回受診し、症状に見合った異常検査所見がみつからなかったことから、心身医学的な病気が原因と考えられます。めまい・動悸・冷や汗の発作がくり返し生じていること、この発作がまたおこることを恐れて人ごみに外出できなくなっている点から、広場恐怖を伴うパニック障害がもっとも疑われます。

 パニック障害とは、パニック発作、予期不安、それに引きつづく広場恐怖、およびうつ状態を伴うこともある病気です。広場恐怖とは、パニック発作時に、すぐ逃げだすことが困難な場所、または助けを求めることができないような状況にいることに著明な苦痛を感じ、同様の状況を避ける状態をいいます。

 パニック障害の約4分の3には、程度の差はあれ広場恐怖があります。対象となるのは、特急電車、高速道路、トンネル、橋などの場所や、歯科医、会議、人ごみ、列に並ぶといった状況です。パニック障害の半数はいずれかの時期にうつ病を併発します。


:診断にはどんな検査が行われますか?
:検査でからだに異常がないことがわかれば、症状の問診が中心になります

 パニック障害は、血液検査、心電図、脳波、MRI、CT検査などで異常がないことを確認すれば、問診で診断がほぼ確定します。

 パニック発作とは、ある一定の時間内に激しい恐怖感や不安感とともに  のグラフのような症状の中の4つ以上が突然出現し、10分以内にピ−クに達する状態です。このような発作が、不意に、くり返しおこるのがパニック障害の特徴です。

 さらに、また発作がおこるのではないかという心配(予期不安)し、発作により死んでしまったり狂ってしまうのではないかと恐れたり(心気症)、発作を経験したことで、その人の日常の行動が変化してしまいます。


:どんな治療が行われますか? 
:薬を一定期間のみつづけることが大切です

 治療では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、とりわけ、長期作用性のロフラゼブ酸エチルと、SSRIと呼ばれる抗うつ薬の併用療法が基本です。抗不安薬によりすみやかにパニック発作が減弱または消失し、不安が和らぎます。抗うつ薬では恐怖症が軽快し、うつ病を予防・治療することにもつながります。

 パニック障害は慢性の病気なので、症状があるときだけでなく、なくなっても一定の期間は規則正しく服薬しなければなりません。再発しやすいため、多くの場合、最低1年間は服薬が必要です。服薬量は少量から始め、症状が消失するまで増量し、症状がない状態が半年間つづいたら、徐々に減らします。


:薬以外の治療法はありますか?
:プラス思考に変えていく認知療法や、広場恐怖には行動療法も行われます

 パニック障害の心理療法は、病状を正しく理解し、現実の問題点に対する直接的な対処法を身につけることを目的に行います。パニック障害の患者は、考え方や受けとり方が総じてマイナス思考に傾きやすく過敏なので、認知療法で客観性を持ったプラス思考に変えていきます。

 広場恐怖に対しては行動療法の1つである暴露療法を行います。具体的には、パニック発作を経験した場所に行くと、また発作が起きてしまうという誤った学習は、その場所へ実際に行って発作が起こらないことを確認すれば、消去されていきます。また、からだのリラックス方法を学び、そこから心のリラックス感を得て恐怖場面にのぞむと、不安があまり高まらないこともわかっています。


患者の家族へアドバイス

病気を理解し、患者のつらさへの配慮を

 まず、この病気になったのは患者が悪いからではないことを理解してください。故意に病気の症状を示して、嫌な状況や義務から解放されたいためにおこすものでもありません。「気のもちようだからしっかりしなさい」といっても、不安を捨て去ることができない病気なのです。また、全身の筋肉が重く、疲れやすくなります。
 この病気のために、性格は多少なりとも変化します。ひと口にいえば依存的で、過敏となります。情動の起伏が激しくても、病気が原因と理解して対応してください。