似ているようで内容が大分違う言葉というものがあります。例えば、今回の題名にあげました「ほっておく」と「そっとしておく」です。

 患者さんのご家族から、具合の悪い時はどう対応したらいいのでしょうかと尋ねられることがありますが、治療の初期の段階や、症状が重い時期は、あれしろ、これしろとあまり言わないで、そっとしておいてあげてくださいといった助言をすることがあります。

 そうすると、患者さんのことを「ほっておけばいいのですか?」とおっしゃるご家族がまれにおられます。

 実は、ほっておくとそっとしておくというのでは、大分違います。どこがどう違うのだと叱られそうですが、見守る側の気持ちの持ちようが違うのです。

 行動的には、どちらも、あまり本人に干渉せず遠めに見ておくということで、非常に似ているのですが、どうしようもないからほっておくというのと、きっと良くなると信じて今はそっとしておいてあげるというのとでは、見守る側の気持ちの持ちようが否定的なのと肯定的なのとで180度違うのです。

 見守る側の気持ちの持ちようが違うと、それが自然と相手に伝わります。相手のことを見つめる視線であるとか、表情であるとか、ちょっとした言葉のニュアンスにその違いが出てくるのでしょう。自分のことが否定的に見られているか、あるいは肯定的に思われているのかが自然と患者さんにもわかるものなのです。

 ご家族も疲れてしまう場合があります。いったいいつになったらよくなってくれるのだ、と嘆きたくなってしまう時もあるでしょう。しかし、患者さん自身も何とか良くなりたいと一生懸命なのです。ご家族は、その気持ちをしっかりとくんであげて、一緒になって、良くなる道を探っていこうという気持ちで見守ってあげてください。

 気持ちをこめるということは、一般的な人間関係でも言えることです。同じような言動でも、そこにどういった気持ちをこめるかで、相手に与える印象が全く違ってきます。

 しばらく前に、本屋をぶらぶらしておりましたら、「すごいやり方」(大橋禅太郎、倉園桂三共著、扶桑社)という真っ赤な表紙の書籍が目にとまりまして購入したのですが、その中に、自分の言葉、相手の言葉の後ろに「Fuck you(この野郎!)」か「Love(親愛の情)」のどちらがついていたかに注意してみようという提言がありました。

 相手に苦言を呈する時にも、その裏に「親愛の情」がこめられておれば、こちらの気持ちは伝わるものです。ところが、人間というものは感情の生き物ですから、時には、言葉の裏に「この野郎!」が付いてしまう場合があります。そうすると相手は反発してきます。

 相手に少し言いすぎてしまったかなと思った時は、今の言葉の裏にちゃんと「Love(親愛の情)」が付いていたかどうかを振り返ってみてください。これを繰り返していけば、人間関係というものは、より一層暖かいものになっていくと思います。
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長 吉田 栄治
ケ セラ セラ<こころの季刊誌> VOL.38 2004 AUTUMN