インターネットによる医師教育

貝谷 久宣

日本心療内科学会誌 Vol.5 No.4:229-233, 2001

  要 旨:このシンポジウムでは私たちの研究会が昨年始めた「不安・抑うつフォーラム http:// www.anxietydepressionforum.gr.jp/」について紹介する。これは不安・抑うつ障害の治療に関する知識と技術の向上を目標とする。フォーラムの内容:Expert Connectionsでは診断・治療に関わる臨床的な種々な質問に専門医が回答する。回答は原則としてevidence-based medicineを基礎とする。各分野の専門家が約20名リストアップされている。Abstracts of just-arrived Journalsは、毎月到着する国際誌から担当者が不安障害または抑うつ障害についての臨床に役立つと考える論文を到着後1週間以内に抄訳してサイトに送ると自動的にアップされる。 Psychopharmacological Dataは薬物治療に必要な図表や記録が参照できる。Opinion Plazaはサイトヘの参加者の議論の場である。Topicsは新しい治療法や新薬の紹介などからなる。このサイトヘの参加は医師およびパラメディカルに限られ、パスワードが必要である。このサイトの出現は情報の伝達の速度を早くし、コミュニケーションが介在者なしですべて直接に進行することである。

 Continuous Medical Education Through Internet

 Hisanobu Kaiya

 Abstract:The advent of the internet is leading to a great revolution in the medical field. The use of the internet in this field has spread so much in the United States that many medical associations give credit for home learning through the internet. In this Symposium we introduced the website "Anxiety Depression Forum", which has been functioning from last year. The website is aiming for the state of the art in clinical treatments of affective and anxiety disorders. The content of the Forum includes the following: In Expert Connections, all kinds of questions in clinical treatments are answered along with evidence-based medicine by over 20 experts. In Abstract of Just-Arrived Journals users can reach the most recent informations from first-class international journals in this field. In Psychopharmacological Data clinicians can review the practical data about psychotrophic drugs in clinical use. In Opinion Plaza doctors can exchange their opinion freely. In Topics subscribers can become familiar with new treatments and hypothese. For access into the Forum, a password is needed which confirms medical and paramedical users. In conclusion, the emergence of the Forum accelerates rapid and direct communication and contributes to progress in clinical treatments.

http://www.anxietydepressionforum.gr.jp/

 インターネットの普及は医学と医療の分野でも大きな変革を引き起こそうとしている。米国においてはすでに多くの学会の専門医や認定医の生涯教育にインターネットが使用され,自宅学習で一定の点数が修得できるシステムができあがっている。このシンポジウムでは不安・抑うつ臨床研究会が昨年始めた「不安・抑うつフォーラム」http://www.anxietydepressionforum.gr.jp/  について紹介する。

T.インターネットの特性

 
1.At the site
 インターネットは設備があればどこにおいても情報交換が可能である。その点、診療に追われる医師にとって重宝である。日常診療中の疑問を診察室において解決することができる。

 
2.対話が可能
 双方向性の情報交換が可能である。質問に対する回答や掲示板における議論が可能となる。

 
3.Up-to-date
 情報交換の速度が速いため最新情報を得ることができる。

 
4.データの蓄積と索引
 サイトに掲載されたすべての情報は順次蓄積され,その情報を手早く取り出すことができる。

U.フォーラムの内容

 フォーラムは医学的専門知識についての情報交換の場であるため,一般の人々がアクセスすることは好ましくない。そのためパスワード・システムを採用し、医療関係者だけがアクセスできるようになっている。また、Opinion Plazaで書き込みができるようになっているので、会員規約をもうけ公徳性を保っている。次に各項目について解説する。

 
1.Expert Connections(専門医との質疑応答)
 不安・抑うつおよびその関連疾患の実地臨床上の問題点または疑問に各分野の専門家が答える  。E-mail  またはFAXにて質問を受け付ける。原則として、質問の受け取り1週間以内にエキスパートが回答またはサジェッションする  。過去の質疑応答について検索可能である。

 
2.Abstracts of just-arrived Journals(海外新着論文紹介)
 各専門誌の不安または抑うつに関する論文を日本到着1週間以内に抄訳し示される。なお,抄訳者は1年間その専門誌を担当し、抄訳者が実地臨床にもっとも役に立つ論文を適宜選ぶ。インデックスがあり項目、著者、日時別に検索が可能である  。

 
3.Link of Related-Sites(関連サイトリンク)
 不安・抑うつ障害に関連する専門誌および組織などのリンク集である。

 
4.Psychopharmalogical Data(治療薬重要関連データ)
 実地臨床上有益な精神薬理関係の資料を図表化して示す。

 
5.Opinion Plaza(意見交換広場)
 不安・抑うつ障害に関係する研究および臨床に関する意見・討議・提案など自由に書き込みができる  。

 
6.Topics(トピックス)
 実地臨床上有益な新しい仮説・理論・治療法についてのミニ・レビューを示す。投稿も受け付ける。

 
7.Clinical Guide Line for Practise(ガイドライン)
 不安・抑うつおよびその関連疾患の実地治療について現在日本で行われるもっとも望ましいと考えられる標準的な方法を示す。

 
8.海外学会速報
 アメリカ精神医学会における不安・抑うつ関連のシンポジウムの要約を掲載している。

V.今後の問題

 現在このサイトの経費は主に複数の製薬企業からの資金援助によっている。そのため、内容の公平性には充分な考慮を払っている。また、単一の企業だけとの関係を断ち、できるだけ多くの企業の援助を仰ぐよう努力している。

 アクセス数の増加に対しては内容を豊富にすること、自由闊達な意見をとり入れる体制をとっている。

 このようなサイトが将来、関連学会の専門医を保持していくための卒後研修の資料となり、このサイトの中でテストを受け、一定の点数が得られるよう活用されることが望まれる。