不安障害とうつ病に対するBZD+SSRI併用療法

基礎的および臨床的エビデンスからの考察

福 原  秀 浩 *1,*5
梅 影    正
*2,*5
山 中    学
*3,*5
土 田  英 人
*4,*5
貝 谷  久 宣
*5,**

*1:大阪市立大学神経精神科 *2:東京大学保健管理センター *3:東京女子医科大学附属第二病院内科 *4:京都府立医科大学精神医学教室 *5:医療法人和楽会パニック障害研究センター

新薬と臨休
J. New Rem. & Clin. Vol.52 No. 8 2003


要約

 ベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)は,その優れた効果と高い安全性から診療科を問わず広く処方されており,今では精神医療に必須の薬剤であるが,一方で常用量での依存形成,休薬あるいは中止によるリバウンド現象や退薬症候群の出現,加えて少数ながらも乱用者が存在するなどの問題点が欧米を中心に指摘されていた。1990年代初頭に開発された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が,その効果と安全性の高さから不安障害に対する第一選択薬として推奨されたことから,同疾患群に対する処方傾向に大きな変化が起こると予測されたが,BZDは今なお大きなウェートを占め続けている。ここでは,その意義を神経解剖学的基盤に立って検討し,不安障害とうつ病に対するBZDとSSRIの併用療法について,基礎と臨床双方のエビデンスからの考察を行った。


 T. はじめに

 ベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)は何れも効果と安全性が優れ,その処方は全診療科にわたり,精神医療に必須の薬剤となっている。しかし,常用量での依存形成,休薬あるいは中止によるリバウンド現象や退薬症候群,加えて少数ながらも乱用者が存在する( )などの問題が指摘されており,特に欧米では以前からBZDの安易な処方への警鐘が鳴らされていた。BZDに替わる薬剤として,1990年代初めに開発された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が注目され,今日では不安障害の第一選択薬として推奨されている。しかしながら,BZDの処方に対し厳しいガイドラインを有する米国においても,全般性不安障害に対する処方傾向を例にとると,処方順位10位(処方全体の78%)以内にBZDが4剤(38%)入っており,SSRIs(21%)をはじめとする抗うつ薬の5剤とほぼ拮抗していることから,依然として
BZDが高いウェートを占めていることがわかる
1)。Uhlenhuthら2)も,1992年からSSRI登場後の1997年までの間に,BZDが不安障害に対する第一選択薬とされた割合には大きな変動がなかったとしている( )。少数ながらも有害事象を有し,有力な代替薬の登場がありながら,今なお不安障害の第一選択薬であり続けるBZDについて,代表的な不安障害であるパニック障害を取りあげ再考するとともに,SSRIとの併用療法の意義を神経解剖学的見地から検討する。

U. 神経解剖学的基盤からみたパニック障害とその治療

 今日では,パニック障害の主な責任部位は扁桃体にあり,この扁桃体を中心としたネットワーク全体の失調がパニック障害の基盤
3)と考えられている。扁桃体への情報入力には,直接的なものに加え,前頭皮質,海馬を経由してきた間接的なものがあり,これらの情報が扁桃体において恐怖や不安と判断された場合,中脳中心灰白質,視床下部,脳幹,青斑核へ恐怖・不安として伝達され,パニック障害の精神症状および身体症状が発現すると説明されている( )4)

 一方,γアミノ酪酸(GABA)神経系とセロトニン(5-HT)神経系は,前頭前野や海馬,扁桃体などに神経終末を有しており(GABAはinterneuronが多い),これらの神経系が前頭前野や海馬を介した扁桃体への情報入力を抑制し( ),また,扁桃体の過剰興奮も直接
抑制する( )ことが知られている
4)

 このようなパニツク障害の神経解剖学的基盤に立って治療を考えたとき,扁桃体が恐怖や不安と判断する情報の脳内での伝達を遮断し,かつ扁桃体の過剰興奮を抑制することができれば,パニック発作や予期不安,回避行動が改善すると考えられる。BZDはGABA性神経伝達を促進し,SSRIは5-HT神経系を賦活化することから,BZDとSSRIを併用することは,パニック障害の神経解剖学的基盤において合理的な治療手段であることが説明付けられる
5)。したがって,BZDがパニック障害と共通した神経解剖学的基盤を有する各不安障害に対して,いまだに第一選択薬に位置づけられていることも理解できる。

V. BZDとSSRIの併用治療の臨床的意義

 パニック障害の治療を例に挙げて考えたとき,パニック障害のアルゴリズム
6)にしたがえば,当然のことながらSSRIが第一選択薬となる。しかしながら,SSRIが十分な効果を発現するまでには4〜6週間が必要であり,また投与開始時に不安感を増強するケースが存在することから,実際には低用量から開始し漸増していく投与方法が基本となる。したがって,SSRIが十分な効果を発現するまでの間,その作用をカバーする薬剤が必要となるが,そこで用いられるのが即効性でかつ強力な抗不安作用と抗パニック作用を有するBZDとなる。実際,SSRI投与開始初期にはBZDの併用が推奨されている6)7)。このパニック障害の例にみられるように,不安障害の治療におけるBZDとSSRIの併用は,多くの精神科医による臨床経験や臨床研究5)8)-10)に基づくコンセンサスに支持されている。

 第12回世界精神医学会横浜大会にてMotohashi
11)が発表した大うつ病の薬物アルゴリズム改訂版では,必要に応じてSSRIあるいはSNRIにBZDを2〜4週間併用することを推奨している。このように,BZDは今後も精神医療において重要な役割を果たし得る薬剤であるが,前述のごとくBZDの使用時には注意すべき問題点が幾つかあり,薬剤選択や適正使用に配慮すべきである。

W. 長時間作用型の選択によりBZDの有害事象回避が可能

 高力価でβ半減期が短中時間型の薬剤では,1日の血中濃度の変動が比較的大きいため服薬の合間にパニック発作やリバウンド現象が生じ
12),退薬時にも同様にリバウンド現象が現れたり退薬症状が生じやすい13)14)ため離脱しにくい( )。こうしたリバウンド現象や退薬症状あるいは依存形成は,薬剤の服用の合間にも血中濃度が有効域より低下しないロフラゼプ酸エチル(メイラックス)などの長時間作用型BZD( )を第一選択薬とすることにより回避できるものと考えられる15)

X. 結語

 パニック障害の治療ゴールは寛解であり,治療初期には十分量のBZDを用いてパニック発作を消失させることが重要である。その際,適正使用に配慮しながら長期間慢性使用は避け,退薬時には少なくとも2週間以上かけて漸減し,SSRI単独治療に切り替えることを推奨する。