Discussion 2

(2009年11月11日、大阪講演)

Stephen M.Stahl

武田 雅俊
(司会 大阪大学大学院医学系研究科
未来医療開発専攻ポストゲノム疾患解析学講座)


討論参加

吉村 玲児 (産業医科大学)
貝谷 久宣 (医療法人 和楽会)
加藤 正樹 (関西医科大学)
田中 稔久 (大阪大学)

臨床精神薬理 Vol,13 No.6, P168-174, 2010

武田:会場からご質問を受けたいと思います。
A:Mirtazapineとmianserinは化学構造的には同じ四環系抗うつ薬ですが、どのような違いがあるのでしょうか。
Stahl:四環系抗うつ薬は何種類もあります。もちろんmianserinもその1つです。Mianserinとmirtazapineの主な違いは、mianserinにはα1拮抗作用があるという点です。α1拮抗作用があるため、mianserinは5-HT神経を増強することができません。よって、mianserinは根本的にnoradrenergicです。しかし、mirtazapineとの類似点は多数あり、それはmianserinがH1拮抗薬であり、5-HT2A拮抗薬であり、α2拮抗薬であるためです。この点については触れませんでしたが、α1受容体を阻害すると5-HTの放出を阻害します。ですから、α1阻害作用があると5-HTへの効果は無効になります。Mirtazapineの作用の仕組みはα1阻害作用がないことですが、そうすると5-HTの放出も起こります。よって、mirtazapineのほうが強力な抗うつ薬ですが、副作用については類似点がいくつかあります。
 もう1つの四環系抗うつ薬amoxapineは5-HT2A拮抗薬ですので、mirtazapineといくつか類似点がありますが、amoxapineは概してノルエピネフリン再取り込み阻害薬です。したがってamoxapineは良い薬ですが、serotonergic drugではありません。Amoxapineとmirtazapineを併用することはできますし、amoxapineをSSRIと併用して5-HTを増やすこともできます。
武田:Mirtazapineとmianserinの抗うつ作用の違いを説明していただけますか。
Stahl:Mirtazapineのほうが効果は高いです。MianserinはNE作動性でしかありませんが、mirtazapineは5-HT作動性でもありNE作動性でもあるからです。Mianserinは睡眠薬としては優れていてマイルドな抗うつ薬ですが、症状の重い患者には効果は強くありません。
B:H1拮抗作用をmirtazapineから排除すると、口渇、睡眠、依存などH1拮抗作用による主な副作用が改善されます。それについてどう思われますか。
Stahl:H1拮抗作用には良い面と悪い面の両方があります。睡眠にとっては効果的ですが、鎮静作用がありすぎて、どんなH1拮抗薬でも過剰な鎮静症状を示す患者がいます。服用2〜3回で耐性が出る場合もあります。ですから、H1拮抗作用を取り除けばそれほど鎮静作用はないかもしれません。しかし、H1の特性により、mirtazapineには三環系抗うつ薬のように1日目の夜から睡眠障害改善効果があります。ですからH1拮抗作用をキープすれば、不眠を早く治療することができますが、同時に、特に5-HT2C拮抗作用により体重増加を引き起こす場合もあります。ただし、これはどちらかというと米国的食習慣との組合せで起こると考えられ、日本ではそれほどではないでしょう。私からのアドバイスは、mirtazapineを処方する前にファーストフードなどハイカロリーな食事の摂取を禁止することです。
B:それはこの薬にとって良いことだと思われますか。
Stahl:不眠、興奮、不安を抱える患者には向いていますが、疲労を抱える患者には向いていません。疲れていたり過眠症の患者で、H1拮抗薬をすでに服用している場合には、気に入ってもらえないからです。つまり、症例によるということ、そして患者の状態を少し確認する必要があるということです。興奮、不安、不眠のある患者にmirtazapineは最適ですが、精神運動抑制、無関心、過眠症の患者にはあまりよくないかもしれません。
武田:では、討論者にそれぞれ質問していただきます。
吉村:臨床実践でmirtazapineと併用できる薬をいくつか教えていただけますか。
Stahl:MAO阻害薬以外はほとんどすべて併用可能です。 Mirtazapineは他の薬の代謝に影響を及ぼしません。腎臓によって排出されますが、CYP2D6と3A4によって代謝されます。ですから、mirtazapineは薬の相互作用は非常に少なく、追加するのに適した薬です。
吉村:大半のSSRIとSNRIには有効血中濃度の幅(範囲)“therapeutic window”がありますが、mirtazapineの場合はいかがですか。
Stahl:ありません。日本のmirtazapineの承認用量で良いことの1つは、45mg/日まで承認されている点です。そこで経験からアドバイスしますと、私たちは通常、他の薬をすでに服用している患者にも15mg/日からスタートします。SSRIを最初に投与して結果が思わしくないことが多く、その場合15mg/日を追加します。これが効かなければ30mg/日に増量するか、あるいは最初のSSRIを少し減らすこともできます。それでも効かなければ45mg/日に増量します。治験での治療効果では45mg/日と15mg/日の間に差は見られませんでしたが、通常、患者を治療する医者なら誰でも、15mg/日には反応しなくても30mg/日に増量すれば反応する患者、30mg/日には反応しなくても45mg/日には反応する患者がいるということを知っています。ですから一般的には、therapeutic windowはないとされていますが、服用量が多ければ多いほど効果も高い、と考えられています。ただし、服用量が増えれば副作用が多くなるのも事実です。ですから、良い臨床医であるためには、リスクとベネフィットを判断することが重要です。
吉村:Mirtazapineに対する反応を予測するための生物学的マーカーあるいは遺伝的マーカーをご存じですか。
Stahl:ぜひ知りたいですね。知っていればノーベル賞をもらえます。皆さんが教えてくださるかもしれませんが、ヨーロッパのpharmacogenomicsの研究者は皆、回答を待ち望んでいます。Schatzbergが5-HT2A受容体の研究をいくつか行いましたが、結果は再現されていません。米国のSTAR*Dスタディがさまざまなマーカーを調べましたが、再現されたものもあれば、されていないものもあります。Pharmacogenomicsは21世紀のゴールドラッシュです。誰もが答えを見つけようと必死になっていますが、mirtazapineの答えはまだありません。まだ承認されていないvilazodoneという抗うつ薬があり、これについては、5-HT2A受容体の遺伝子型が効果と関連していることを示唆する文献もあります。また米国で承認されたばかりの抗精神病薬iloperidoneはCNTF(ciliary neurotrophic factor)と呼ばれるpharmacogenomicsのマーカーがありますが、これも結果は再現されていません。よって遺伝的マーカーの問題は、基本的にまだ十分に検証されていないということです。今後非常に楽しみな分野です。
武田:事実はまだ何もわかっていないわけですが、反応性を予想するバイオマーカーはありますか。そしてmirtazapineに対して反応性の患者の一般的な割合はどの程度でしょうか。
Stahl:STAR*Dスタディは、どの薬でも寛解に入るのは患者の3分の1程度と示唆しています。私たち精神科医は、最初の薬に反応しない患者を治療しています。つまり、反応の悪い3分の2の患者を治療しなければならないわけです。2番目のSSRIか3番目のSSRIを使ってみるか、三環系抗うつ薬を使ってみる方法がありますが、米国では効果を高めるためにより早期に組み合わせて使うようになってきています。一度失敗に終わると、何らかの組合せをしようとします。米国では、mirtazapine、trazodone、bupropion、aripiprazoleなどがよく使われます。効果を高めるために、これらのうちのどれかをSSRIに追加することがよくあります。
貝谷:私は専門がうつ病ではなく不安障害のため、そちらのほうからmirtazapineについてお聞きします。社交不安障害(SAD)における5-HT1A受容体の減少が、最近イギリスで報告されていますが、パニック障害における5-HT1A受容体減少も同様に報告されています。また文献では、パニック障害に対してmirtazapineの比較対照試験が1つだけあり、fluoxetineと同等、またはそれ以上の効果を示していました。なぜ米国ではパニック障害にmirtazapineを使わないのでしょうか。
Stahl:米国の優れた精神科医は、今先生が述べたことを承知しています。Mirtazapineは強迫性障害(OCD)や外傷後ストレス障害(PTSD)にはそれほど効果はないかもしれませんが、SAD、パニック障害、全般性不安障害にはとても優れた薬です。特にパニック型の不安で非常に重症なケースでは、通常mirtazapineを追加します。第一選択薬ではありません。米国でこれを開発した製薬会社が、特許時間に限りがあったために十分な試験を行えなかったからです。私は、これは科学的な失敗ではなく、完全に商業的な失敗だと思っています。ですから、先生は非常に大事な点をご指摘されました。日本では、重症のパニック障害の患者にoff labelで使えます。当然ながら、最初はmirtazapineかSSRIを選択するでしょうが、その後切り替えたり、併用してもいいのです。
貝谷:図14は、パニック障害におけるNIRSの結果です。Hypofrontalityが有意に認められます。一方、東京慈恵会医科大学の中山和彦先生が数年前に動物実験で、mirtazapineが前頭葉の遊離のDA濃度を非常に増加させることを報告されています。急性効果ですが、私は慢性でも効果があるのではないかと思います。このような薬理的な作用により、先ほど報告いたしましたhypofrontalityに効果があるとお考えでしょうか。

Stahl:あると思います。ここで起こっているのはDAのdisinhibitionです。DA、NE、5-HT神経の機能を高めることを支持するデータの1つで、私が先ほど述べたことを裏づける日本のすばらしいデータです。たいていの人がhypofrontalityではDAが特に重要な問題だと考えていますが、mirtazapineによりhypofrontalityが改善されます。DAをもとに戻すことができれば、不安だけでなく、うつや統合失調症を改善させることができます。統合失調症では、前頭葉皮質ではDAが少なすぎ、側坐核ではDAが多すぎます。DAを増やす薬が前頭葉のhypofrontalityに効果があるというのは、そのとおりです。
貝谷:私どもは不安障害にはベンゾジアゼピン系薬を同時に出します。そうしたときに、ベンゾジアゼピン系薬はGABAを活性化する薬ですから、mirtazapineの効果が弱められるのではないかと思うことがあります。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。
Stahl:5-HT2C受容体をinhibitすると、GABAを与えるということの逆になるわけですから、それ自体が無効になると思うかもしれません。しかし実際には、5-HT2C受容体はわずかな量のGABA介在ニューロンにしかありませんから、5-HT2Cで刺激されないGABA介在ニューロンが多数あるのです。薬理学では基本的に、作動薬と拮抗薬が競い合った場合、拮抗薬が勝つとされています。ですから、5-HT2C拮抗作用とGABA作用が競い合えば、5-HT2C拮抗作用が勝ちます。しかし、シナプスに5-HT2C拮抗作用がない場合にはGABAが勝ちます。つまり、mirtazapineはいくつか回路があるためDAとNEを増加させますが、他の回路にあるベンゾジアゼピンによっても増加されるため、重症の不安の症例にはこの2つを一緒に処方する場合があるのです。しかしその場合、鎮静作用が強く出る患者もいますから注意が必要です。強い興奮状態にある患者や躁病の患者には鎮静作用が必要ですが、あまりに鎮静作用が効きすぎると眠ってしまうので、これも注意が必要です。
加藤:5-HTニューロンにおける5-HT1A受容体は自己受容体かつ後シナプスにもあり、後シナプスの5-HT1A受容体の刺激により抗うつ・抗不安効果があると言われています。同様にα2受容体に関して、前シナプスにあるα2受容体は遮断すると抗うつ効果があるのはわかりますが、後シナプスにあるα2受容体は5-HT1A受容体と同じように刺激すべきなのでしょうか。それが遮断されることで何が起こるのでしょうか。
Stahl:薬理学上の問題点の1つは、前シナプスに5-HT1Aが1個と後シナプスに5-HT1Aが1個あり、前シナプスにα2が2個と後シナプスにα2が1個あることです。どういうことかといいますと、α2拮抗薬を与えると前シナプスと後シナプスの受容体を遮断し、前シナプス受容体のブロックによりNAが増加することになりますが、後シナプスのα2受容体もブロックされています。5-HT1A受容体の場合、軸索端末の上にはなく細胞体上にあります。5-HT1A受容体は前シナプス側で刺激されると脱感作しますが、後シナプスでは脱感作されないようです。よってSSRIは部分的には、後シナプスではなく前シナプスに脱感作することで作用するわけです。前シナプス受容体に脱感作すると、5-HTがさらに放出され、それが5-HT1Aを後シナプス受容体で刺激します。少し複雑なのですが、要するに、抗うつ効果が出ているときは5-HTとNAの両方の神経伝達が増えている、ということなのだと思います。
加藤:双極性障害への抗うつ薬の使用は慎重にすべきだと言われています。エビデンスがまだ十分でないとは思いますが、これまでの抗うつ薬とは異なる薬理学的作用をもつmirtazapineは双極性障害に効果があるのでしょうか。また単剤あるいはコンビネーションによる使用法などについて、ご意見をお聞かせください。
Stahl:私は、双極性障害への治療として、mirtazapineだけでなくいかなる抗うつ薬も決して単剤では使いません。米国では大きな議論があり、ボストンの専門家は、たとえ他剤との併用であっても抗うつ薬は双極性障害には決して使うなと言っています。私たちは注意して、第二または第三選択薬として使っています。双極性障害の場合、第一選択薬に使うことが多いのはlamotrigineです。これは双極性障害の優れた薬です。それにlithiumや非定型抗精神病薬を併用したり、またはそれらを単独で使用したりします。もし患者がそれでも抑うつ的であれば、抗うつ薬を出します。ただし抗うつ作用があまり高くなりすぎないように、気分安定薬を併用します。気分安定薬が気分を抑え、抗うつ薬が気分を高めてくれるわけです。ですから、抗うつ薬の追加には大いに注意する必要があり、通常は第四選択薬だと思います。Mirtazapineを使うのは、他の保護策をとった後であり、双極性障害への単剤治療は考えられません。
田中:5-HTニューロンの増強により5-HT1Aの活性化を通じてグルタミン酸の放出が阻害される場合がある、という先生のスライドを以前に拝見したことがあります。一般にグルタミン酸神経の抑制によりDAの放出が促進されますが、このようなDAの増加は前頭葉だけに見られるのでしょうか。例えばDAがcorticolimbic pathwayなどで増えると、幻覚などの副作用が起こることも考えられます。Mirtazapineは特定の場所と方法でモノアミンに影響するのでしょうか。
Stahl:それは現在、大変大きな話題になっている、グルタミン酸に対するモノアミンの下流効果です。今おっしゃったように、前頭前皮質の錐体ニューロンがNA、DA、5-HTの入力を受けますが、錐体ニューロンの出力はすべてグルタミン酸です。グルタミン酸の出力が多すぎると、不安や悪い症状を引き起こすことがあるというのは事実です。一般的に言えば、グルタミン酸の出力を減らすために、モノアミンである神経伝達物質が欲しいわけです。あなたの質問にお答えしますが、5-HT1A受容体は錐体ニューロンを阻害し、5-HT2A受容体は錐体ニューロンを刺激します。ですから、グルタミン酸を減らしたい場合は、正反対のことをする5-HT2Aと5-HT1Aが競い合うのです。臨床医は5-HT1Aを刺激して5-HT2Aを阻害する必要がありますが、それによってグルタミン酸を最大限に減少させることができます。また、グルタミン酸のシステムに良い影響が出るのは、5-HT2A拮抗薬を他の5-HTの放出を増強する薬と組み合わせるからなのです。まさしく今ご指摘いただいたとおりです。これは非常に良いトピックです。というのは、新薬の中には、モノアミンではなくグルタミン酸に直接働きかける可能性が非常に高いものがあるからです。
田中:Mirtazapineや他のchemical compoundで治療した動物モデルにおいて、DAやNEなどが脳の不適切な部位において増加するといったことは、現時点では証拠は何もないということですか。
Stahl:例えば、先ほどのmicrodialysisによる結果は、現在存在する唯一のDAに関する仕事の一部です。動物実験の大半は前頭前皮質でのみ行われていて、脳のすべての部分についてわかっているわけではありません。モノアミンの変化が脳のすべての部分で同じなのかはっきりしていないので、海馬、側坐核など他の脳部位でもさらに行う必要があります。
田中:なぜmirtazapineは他の抗うつ薬よりも抗うつ作用が早く現れるのですか。α2拮抗作用が主な理由かもしれませんが、私の知る限り、動物を抗うつ薬で治療するとシナプス間隙にあるモノアミンが急激に増加しますが、臨床では抗うつ作用は一般的に10日から2週間程度で見られます。これは何かの食い違いなのでしょうか。
Stahl:Mirtazapineについて、気分に対する抗うつ作用が早いということはありません。不安に対する作用、また睡眠、興奮に対しての作用は早いですが、悲しみ、罪悪感に対しては2〜3週間かかります。三環系抗うつ薬にやや似ています。三環系抗うつ薬で最初に効果が認められるのは睡眠と不安であるという患者もいます。
Paroxetineも少し効果があります。Mirtazapineも同じようなことなのです。うつの中核的な症状がない場合には集中力低下には早い効果は望めませんが、不安と不眠の症状がある場合には急速な効果があります。
武田:これは非常に微妙なところだと思います。なぜなら、製薬会社はmirtazapineはSSRIやSNRIよりも効果が早い可能性があると宣伝しようとしていますから。それともそのように宣伝すべきではないのでしょうか。
Stahl:製薬会社はどんな抗うつ薬の新薬についても、「旧薬よりも早く効く」と強調すると思います。もちろん効果があるという点は本当ですが、「早く効く」というのは睡眠と不安について当てはまるだけです。例えば、sertralineは不安を悪化させ、集中力低下も改善しません。ここにいる皆さんは患者をプロファイルできますが、ふさわしい患者には効果が早く出るように思えるでしょう。しかし私は、そのような即効性を示唆することはフェアではないと思いますし、世界中のどの規制当局も、他の薬と比べて即効性があるという主張を認めたことはありません。例外的に、確かに私も2回、3回の服用で良くなる患者を診たことはあります。
 私の臨床では普通、患者は6ヵ月後、4種類目の薬までは良くなりません。私は即効性よりも、効いてさえくれればいいと思っています。ですから、2週間なんて大きな問題ではありません。
 要するに、それはマーケティングのメッセージであって、臨床のメッセージではないということです。ここにいる皆さんは効果について心配しているわけで、優れた効果が得られれば、それが4週間後でも10週間後でもいいのです。私は2日で効果が出てほしいとは思っていません。しかし確かに、不安と不眠に対しての良い効果は早く現れます。私は今皆さんに正直なところをお話しして、実践でこの薬を使う際に何と言うか、効果についての期待値を示そうとしているのだと思います。しかし非常に良い点を指摘されたと思います。
C:Mirtazapineの即効性はあまり強調しないほうがいいとおっしゃいましたが、私は9月から使ってみて、非常に即効性もあるし切れ味もいいと思っています。SSRIと比べてはるかに抗うつ効果が強いような印象をもっています。
Stahl:私もあなたに賛成です。SSRIは一般的に症状の軽い患者にはいいのですが、高用量の三環系抗うつ薬やmirtazapine、venlafaxineと比べると一般的に効果は弱いです。Venlafaxineは日本では未発売なので、早期に処方される非常に強力な抗うつ薬の経験が皆さんにはないと思います。日本では、三環系抗うつ薬の投与量が少なすぎると思います。25〜50mg/日は三環系抗うつ薬では適切な用量ではありませんが、mirtazapineでは15mg/日が適切な用量です。Mirtazapineは強力な抗うつ薬ですから、非常に早期に良好な効果発現が得られるケースがいくつか出てくると思います。ただ、それがどの患者にも見られるとは思ってほしくないのです。
D:数年前から、SSRIは、抗不安作用は強いけれども抗うつ効果はあまり強くないのではないか、という印象をもっています。米国ではいかがでしょうか。
Stahl:そうですね、米国では、非常に重症のうつの症例にはSNRIを使います。日本ではmilnacipranも投与量が少ないと思います。Milnacipranは100〜150mg/日では効果はなく、200〜300mg/日は必要です。精神科ではSSRIよりもduloxetineかvenlafaxineのほうが好まれています。米国の精神科で最も多く処方されているのはvenlafaxine、またプライマリーケアで最も多く処方されているのはSSRIのどれかです。
 しかし、私もあなたと同じ意見です。SSRIは良い薬ですが、プライマリーケアに向いているのです。簡単なケースに向いていて、使いやすく、用量の調整がそれほど必要ではなく、1日1回の服用ですみます。薬の相互作用もあまりありません。しかし、非常に病状の悪い重症の患者の場合にはやや弱い薬だという点には同意します。STAR*Dスタディでは、citalopramがまさにその例でした。Citalopramを服用した患者で、12週で寛解に入ったのはわずか3分の1でした。
 私は『Journal of Clinical Psychiatry』誌の「Brainstorms」という連載コラムに「Combinations from the Beginning」というタイトルの記事を書きました。内容は米国とヨーロッパの新しい治療の流れについてです。日本でもそうなるかどうかはわかりませんが。
 例えば、AIDSや悪性の癌の場合、薬理学者は初日から薬を4種類出すでしょう。うつ病の場合、私たちはまず薬Aを出し、それで良くならなければ薬Bを出します。それでも良くならなければ薬Cを、あるいは薬Dも追加するかもしれません。STAR*Dスタディでは、「どの薬を出すか」は問題ではない、という結果が出ました。「いつ使うか」が問題なのです。薬を使うのが遅ければ、たとえ良い薬でも効かないということです。ですから、私たちが向かっているのは、例えばうつ病をAIDSのようにがんのように治療しよう、という方向です。最初の治療で寛解率がわずか3分の1では満足できません。これを改善するには、複数の機能を与えなければならないかもしれません。それが今日の講義の話、多機能作用機序です。それが1種類の薬なのか、2種類の薬なのかは、どうでもいいのです。最初から3つ、4つの機序を使うのです。Mirtazapineがおもしろいのは、すでに5つの機序をもっているということです。しかし、SSRIやSNRIの併用で6つ目の機序を追加してもいいのです。「現在私たちが得ている結果は非常に悪いので、もっと良好な結果を得たい、だから、うつに対して早い時期からより積極的な治療を行う方向に向かっている」という点では、あなたのお話に同意します。一部の患者に使う優れたツールとしてmirtazapineをツールボックスに入れておくと、大いに活用できると思います。
武田:本日Stahl先生が強調なさったことは、今の最後のお話に尽きると思います。SSRI、SNRIによって、副作用の心配のない抗うつ薬の使用が始まりました。しかし患者さんの3分の1くらいしか反応しないとなると、結局、第二選択、第三選択の薬が必要となるわけですから、最初から併用するということ。先生ははっきり言ってはいませんが、多くの精神科医が診るうつ病には、多機能抗うつ薬という考え方が必要なのではないか、ということです。Mirtazapineは、5-HT2Cのアンタゴニスト作用、あるいはα2のアンタゴニスト作用によって、それ自体がトランスポーターを阻害することなく、後シナプスの5-HT2Cあるいは前シナプスのα2を阻害して、その結果としてモノアミンを増加させるという従来と異なる作用があります。多彩な作用機序をもっていることがmirtazapineの特徴だということを教えていただきました。今日のお話が先生方の診療に役に立つことになれば幸いです。どうもありがとうございました。