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臨床精神薬理 Vol.3,No.3:275-283,2000

[ 座 談 会 ]

Fluvoxamine の臨床経験

−Fluvoxamine は使いやすい薬か?−

1999年11月12日東京都内にて収録

丹羽 真一
(司会,福島県立医科大学医学部神経精神医学教室)

貝谷 久宣
(医療法人和楽会心療内科神経科赤坂クリニック)

井上 雄一
(順天堂大学医学部精神医学教室)

染矢 俊幸
(新潟大学医学部精神医学教室)

Fluvoxamine の全般的な印象

 丹羽 今日はお忙しいところお集まりいただきどうもありがとうございます。SSRIの1つの fluvoxamine (ルボックス)が日本でも使えるようになり、時間が少したちました。先生方も使用経験等、いろいろお持ちになっていると思いますので、今日はその使用経験に基づきながら現時点で fluvoxamine という薬について、先生方がどんな印象をお持ちかということを少しまとめてみたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず最初に、 fluvoxamine を使われた印象についてお話しいただければと思います。いろいろな症例について実際使われていると思いますから、なるべく幅広い症例についてのお話が出れば理解が進むと思います。

 最初に貝谷先生からご意見をお聞かせいただければと思います。貝谷先生はご承知のようにパニック障害等、不安障害に関して、大変たくさんの症例の治療経験をお持ちです。それに基づきながらお話を聞かせていただければと思います。

 貝谷 診察室に患者さんが入った瞬間の第一印象で言いまして、 fluvoxamine の今までの抗うつ薬になかったよい点というのは、非常に表情が明るくなるんです。入室された瞬間に額が輝いている患者をよく見るようになりました。

 しかし、患者さんの自覚的な感想というのは、半分以上の人は、自分でなかなか初めからよくなったと言わない。しかし、よくなっているんです。例えばパニックの患者さんでは、知らぬ間に電車に乗ってしまったとかね。前はとても乗らなかったのがいつの間にか乗ってしまっている。そういうことが結構多いんですね。だから1つずつ聞くとよくなっているんだけれど、本人はよくなりましたとあまり言わない、感覚的には。それが私の fluvoxamine の効果に関する最初の印象です。

 丹羽 先生は、今のお話にも出てきましたパニック障害のどの程度のケースで効いた感じがありますか。

 貝谷 私自身、単剤で薬を出すことはほとんどあり得ません。今はほとんどのパニックの患者さんはベンゾジアゼピン系の抗不安薬と一緒にファーストチョイスで fluvoxamine を使います。パニック発作を止めるのはやはりベンゾジアゼピンです。しかしパニック障害の患者の半分以上は多かれ少なかれうつ状態を伴っていますから、はじめから抗うつ薬を併用します。 Imipramine を使っているときは少し様子を見てから出していましたけれど、今は初めから処方します。ただ、パニックの患者さんが一番副作用を出す頻度が高いですね。

 井上 私もその意見には賛成です。

 貝谷 急性期副作用は一番多いですね。それも胃腸障害が非常に多いです。ですから、私は初めから患者さん本人に、5人に1人ぐらいは胃部不快感が出ますよということで、 teprenone (セルベックス)を同時に飲ませます。それがどうも一番効いているみたいで、実際にそれを投与してさらにまだ副作用を出す人は、はじめそれに気づかないで処方していた時に比べて、胃部不快感の副作用は10分の1以下になりました。

 丹羽 最初からインフォームしておいて、かつ実際に副作用対策の薬物も使用して用いれば、仮に副作用があったとしても対処しやすいと。

 貝谷 軽くすみます。

 丹羽 その他、例えば強迫性障害のケースについてはいかがでしょうか。

 貝谷 そうですね。私自身、 fluvoxamine はうつ病、パニック、強迫性障害、社会恐怖に主に処方しています。一番副作用の少ない、はじめからほとんど胃薬の要らない患者は社会恐怖と強迫性障害です。私は精神科の薬というのは副作用を出す場合は効果がないと基本的には考えていますから、この2つの疾患が一番適応があると思います。うつ病はその次だと思います。パニックは一番副作用が起きやすいというのが、今の私の印象です。

 丹羽 そうすると、先ほどおっしゃったように、副作用があるようなケースにはどうも効かないようだが、社会恐怖の患者さんの場合には実際に副作用もないし効く人が多い、というのが先生の印象ですね。強迫性障害が一番この薬の使用のターゲットになりやすいし、その次にうつ、最後にパニックがくると。

 井上先生の場合にはうつの患者さんにしばしば使われると承っているのですけれど、先生のご意見ではいかがでしょうか。

 井上 割と初発例にも使っていますし、遷延化している症例とか寛解、再燃を繰り返す症例にも使っています。全体には、三環系抗うつ薬 amitriptyline とか imipramine による治療にコンプライアンスが悪かった人が対象になっていることが多いようです。私は副作用の可能性を懸念して、多い人でも1日用量150mg、大体100mg以内ですけれども、これぐらいの用量で5割ぐらいかなという感じです。

 丹羽 有効率がですか。

 井上 有効率です。軽症ないし中等症例の5割ぐらいにはなかなかいいかなと思っているんですけれど、重症例に本剤単独ではちょっと無理かなと思っています。それと寛解維持を目的として、1日量50mgぐらいまで落として使うというやり方を結構好んでやっています。それから、 maprotiline とか amoxapine と併用するような使い方もしていますけれども、まだその有用性を確認するには至っていません。

 丹羽 そうですか。50mgぐらいの比較的少量で維持療法に使うと他の、特に三環系の薬などに比べて使いやすく、おそらくコンプライアンスがよくなるということで、その背景には副作用の問題というのが…。

 井上 やはりあるだろうと思います。

 丹羽 実際使いやすいと先生がおっしゃっておられるのは、再発予防効果もあるでしょうし、それからまた副作用の訴えが患者さんから出てくることが少ない、というように両方あるんでしょうか。

 井上 副作用が少ないかどうかということですね。

 丹羽 ええ。

 井上 本剤の商品化された当初は、結構消化器症状が多いなと思っていたんです。しかしその後みておりますと、それほど多くない。やはり三環系抗うつ薬に比べると副作用はかなり少ないと思います。統計的な資料は持ってきていませんけれども、約2割弱と考えています。抗コリン性の副作用が多い三環系に比べたら使いやすいといえるでしょう。

 丹羽 次に、染矢先生にお伺いしたいのですけれど、染矢先生は社会恐怖とかうつ、強迫性障害のケースに使っておられると聞いております。先生の印象をお聞かせいただけますでしょうか。

 染矢 やはり一番多く使うのはうつ状態の患者さんです。それ以外の疾患として、これまでに強迫性障害、パニック障害、社会恐怖、ブリミア、珍しいケースでいえば抜毛癖などに、いずれも少数例ですけれど、使用経験があります。

 使い始めの最初の印象として一番強かったのが、先ほどから出ているように思ったよりも副作用が多いという点でした。特に消化器系の副作用、吐き気で我慢できなくて続けられないという症例が思った以上に多かったということです。実際に例えば30例ぐらい使った中で7、8人はかなり強い吐き気を訴えて、そのうちの半分ぐらい、つまり先ほど貝谷先生が5人に1人と言われましたけれど、大体私も同じような実感で、むしろもう少し多いかな、4人に1人とかそのぐらいの人はやはり吐き気が出る。そのうちまた半分はちょっとしんどくて続けられないという印象がありました。

 ただ当初は初期量を50mgでスタートしたものですから、途中で初期量を25mg、少なくとも最初の3、4日、あるいは患者さんによっては最初の1週間は25mgでいって、経過を見て50mgに上げるというふうな用量設定をしてみました。そうしますと、大体吐き気が出る頻度は半分ぐらいになったように思います。

 それから、もう1つやはり重要なのは、「この薬を飲むと4、5人に1人は吐き気が出ますが、それは最初の数日間に一番強く出るので、我慢できるようであれば続けて下さい。そのうちに消えることが多いようです」と最初に十分インフォームしておくと、実際に副作用が出た場合でも、数日間我慢すればということで何とか乗り切っていただける方が増えたように思います。

 丹羽 なるほど。最初にインフォームするということも重要なんですね。

 染矢 私たちのところでは薬の飲み方と一緒に吐き気等副作用について説明した用紙を患者さんに渡すようにしています。

 もう1つ副作用の印象として強いのが、眠気というのが結構多いように思ったのです。むしろ最初に不眠ということが言われましたけれど、この fluvoxamine を飲んで、「本当に久しぶりにぐっすり眠れました」という患者さんもいるし、あるいは昼間に眠気をかなり強く訴えた患者さんもいたので、発売前に説明を受けていたのと少し印象が違いました。

 効果に関しては、これはまだ確信がつかめていませんが、予想していたよりはよく効くという印象があります。ただ、最初を25mgで1週間みると、どうしてもその分だけ遅れるような感じがあって、もう少し効果発現を早めるような用量設定の仕方を考えていくことが必要かもしれません。

 一方、三環系抗うつ薬で、うつが改善したんだけれど、本当に副作用がきつくてなかなか続けては飲めないという患者さんがいます。例えば、非常に口が乾くとか、体が重くてだるいといったことが一番QOL上問題になっているかと思うのですが、そういった患者さんに維持療法として fluvoxamine に変えて、50mgから100mgぐらいの量をきちんと飲んでいただくという点では、非常に使いやすいと思います。初期の吐き気が出ない人は、あとはこれといってあまり副作用を訴えませんので、QOLが落ちることなく、コンプライアンスを維持しやすい、そういった印象があります。

 丹羽 先ほどの井上先生のご意見と共通しておりますね、その点は。

 染矢 それから他の疾患ですと、先ほど貝谷先生が強迫性障害と社会恐怖にはSSRI投与に際して胃薬が要らないし、最も効果が出やすくて適応があるんではないかとおっしゃいましたが、非常に興味深いお話でした。私もやはり強迫性障害の患者さんが一番SSRIの耐性が強いといいますか、副作用がほとんど出ずに飲んでもらえるような印象があります。社会恐怖はまだ2例ですけれど、これも初診時から出したというわけではなくて、最初1、2週間はベンゾジアゼピン系の抗不安薬を使って、その後に fluvoxamine を25mgオンする形で増やしたところ、この方もほとんど副作用を訴えずに、むしろ効果が出ているように思います。

 一方パニック障害に関しては、私たちはちょっと貝谷先生と薬の使い方が違っていて、初診時はむしろベンゾジアゼピン系単剤で1、2週間みて、そのあとに fluvoxamine を追加するというのがほとんどです。追加した後にやはり吐き気を訴えて、あるいは何か気持ちが悪くて不安でそわそわするみたいなことを訴えて、中止せざるを得なくなるという症例が2例ほど続いたそうで、何かそういう点で問題があるのかなと。

 貝谷 その不安症状は、アカシジアにいませんか? 三環系抗うつ薬の Jittering と言われていたものと同じのようですね。

 染矢 そうかもしれないですね。

 井上 僕は先ほどの眠気の話とも関係してくるのですが、逆に過覚醒状態ともいえるはりつめたようなぴりぴりしたような感じになる症例を経験しています。見方を変えると、不安症状とリンクして考えてもいいのかもしれませんが……多くは投与初期に起こってくる症状で、数日間経つと治まってくるんですけれど、この症状が激しい人はドロップアウトするということがあります。

 染矢 もともと不安のレベルが高くて、覚醒水準が高いような人がSSRIを飲むと、それによってさらに高くなって、その時期がちょっと苦しくて超えられないという感じじゃないでしょうかね。

 井上 何かそんな感じしますよね。

Fluvoxamine による衝動性の制御治療

 丹羽 先ほど染矢先生、ブリミアのケースと抜毛癖のケースにも、とおっしゃっていましたけれど、いかがでしたか。

 染矢 ブリミアについては行動療法も併用しますから、SSRIが本当にどの程度本質的に効いているのかは、まだちょっと確信が持てません。

 抜毛癖の患者さんで、入院していただいて、環境調整もしながらSSRIも使っていくという治療をしたところ、入院期間中に抜毛癖がぐっと減っていった方がいますが、入院による環境調整の効果も随分大きいだろうと思いますし、はっきりしたことは言えません。

 井上 それは思春期ですか。

 染矢 20歳ぐらいの女性です。ただ僕としてはSSRIを使ったことも衝動性、つまりどうしても抜きたい、抜かないといられない、そう思ったらぶちっと抜いて痛みを味わうまでやめられない、そういうものが治まったことに関与しているのではないかと考えていますが。

 丹羽 井上先生、どうでしょう、ブリミアの患者さんとか、衝動性の制御の問題があるような方では?

 井上 私は摂食障害への使用経験は全然ないんですけれど、先ほどおっしゃった非定型うつ病、あるいは他の薬剤が全く無効ないわゆる境界例などの抑うつ状態に使って有効だったという経験はあります。

 丹羽 私たちもブリミアのケースは結構入院されたりしているんですけれども、一緒に他の薬剤と併用して使う場合が多いですけれど、 fluvoxamine を使用していて、決して悪い印象は持っていないし、むしろよいケースを経験しています。ブリミアの治療のための薬物選択の幅が広がったという点ではよかったのではないか、そんなふうに考えております。

 井上 もしブリミアで使う場合、用量はどれくらいですか。

 丹羽 私たちのところではうつの人と同じ用量で使っていますし、それで特に強い副作用が云々ということはないと思います。

 染矢 ブリミアのどういう症状というか、どういう側面に特に効いているというのでしょうか。

 丹羽 やはり先ほどから話になっているように、衝動の制御がしやすくなるということだと思います。

 染矢 過食、それとも嘔吐で違いはありますか。

 丹羽 過食の衝動を抑えるという意味ですね。食べてから後のことを止めるとかいう意味ではなくてですね。

 井上 衝動というのは強迫のスペクトルにすごく近いものと考えていいんですか、先ほどの抜毛癖のケースも含めてですけれど。

 染矢 強迫と衝動、それに妄想と自閉をつなげた中澤恒幸先生の三角錐というのがありますよね。欧米でもOCSD (obsessive-compulsive spectrum disorder)ということで、今も話に出た境界性人格、反社会性人格、いわゆる病的賭博や自傷行為などの行動制御障害、あるいは摂食障害、身体醜形障害、こういった一連の疾患を含めた広い概念が提唱されているようです。私自身はまだこうした症例についてほとんど経験がありません。先ほど井上先生が話された境界例の人でいい感触があったのかという話を非常に興味深く伺いました。

 丹羽 さらにこれから使用経験が増えていくと、また共通の認識ということもできるかと思います。

至適投与量は?

 丹羽 用量の問題をまとめておきたいと思います。副作用を避けるという意味もあって、少量の使用から開始するということだったわけですけれど、副作用の問題に関していえば、インフォームをして、あるいは貝谷先生のように最初から予防的な他剤の併用も行うということもあるかもしれませんが、そういう工夫をして、実際にどのぐらいの量まで、どのぐらいの時間をかけて増やしていかれるか、実際の使い方に関しての先生方のご意見を伺いたいのですけれど、まず染矢先生。

 染矢 副作用を考慮して現在では25mgを大体夜9時ぐらいに飲んでいただくという形で治療を始めています。1週間後に来院した時点でまだ症状が不変というか、その時点で相当よくなったというケースを除いては、1週目には50mgに用量アップしています。それから大体2週間に1回ぐらいのフォローアップで、効果不十分の場合には50mgから100mg、また2週間後に不十分であれば100mgから150mgというふうにして経過を見ている、そういうやり方をやっています。

 丹羽 貝谷先生のところはまた染矢先生の場合とは、施設の性質でも違っていますし、先ほど先生もおっしゃられたように、きちんと通院していただく満足度ということをより重視して診療に当たっておられると思いますが、貝谷先生の使用のされ方について、お話いただけますか。

 貝谷 パニック障害に関してはあまり用量依存的な効果はないように感じています。せいぜい50mgまでですね。広場恐怖に対して、例えぱ imipramine では最高225mgまでいく人もいましたが、 fluvoxamine の場合でもまあそんなに増やさなくても結構効くんですね。

 丹羽 広場恐怖の方はやはり50mgぐらいでよろしいと。

 貝谷 十分効くと思います。あとはもう行動療法的なアプローチです。

 丹羽 他の症例でどの程度まで増やして使われたご経験がありますか。

 貝谷 OCDでは1日50mg6錠まで、外国の最高例までは平気で使っています。それから社会不安は少量で十分効きます。

 染矢 少量というのは50mgぐらいですか。

 貝谷 そうですね。

 丹羽 染矢先生の場合、例えばうつの患者さんでどの程度まで。

 染矢 一番多かったのは200mgですけれど、やはり強迫性障害でも経験したのは200mgまでです。

 

他剤との併用療法

 丹羽 先ほど貝谷先生のお話は、患者さんの医療に対する満足度ということを考えると、最初から複数の薬剤を併用するということも考えなければいけないというお話だったと思いますけれど、実際に先生が例えばパニックなり強迫性障害なりに複数の薬剤を併用されるときに、どんなふうな使い方をされますか。

 貝谷 まずうつ病については最近やはりセロトニンだけではいけないなと。実際にノルアドレナリン系の薬が必要ですね、自発性のない患者さんには。 Fluvoxamine にα2ブロッカーを併用するとうつ病には僕は非常にいいと思います。具体的にはsetiptiline (テシプール)。

 強迫に対しては、まず fluvoxamine とベンゾジアゼピン系の抗不安薬、そして様子を見ながら、本格的なOCDであれば手強いですから、ドパミンブロッカーとして sulpiride を出す。そして最後はだめ押しでドパミンブロッカー+5HT2ブロッカーの risperidone を加えます。さらに、時に 5-HT1A  partial agonist の tandospirone を60mgくらい、大量に追加します。

 丹羽 私も強迫の患者さんについての最近の経験ですけれど、ベンゾジアゼピンと haloperidol を併用して、それでもなかなか確認強迫が治まらなくて、本人も非常に苦痛に感じているし、家族もとても大変な思いをしておられた例がありました。 Fluvoxamine を併用するようになって2週間ぐらいした時点で、奥様が「今までは確認強迫につき合うのに、本当にじれったい思いをしていたのだけれど、 fluvoxamine を服用するようになってから、そういうじれったさを感じなくなって、一緒に生活していても比較的苦痛が少ない」と言っておられました。ですから、強迫の症状のある方に fluvoxamine がかなり著効するケースも実際にあると思います。その方の場合は本人の満足度というのも結構よかったと思いますけれど。

 染矢 その方は clomipramine は使ってないんですか。

 丹羽 使っています。

 染矢 Clomipramine が効かないで fluvoxamine が効くという症例もあるんですね。

 丹羽 そうですね。そのケースについていえば、少なくとも fluvoxamine の方がはるかによかったですね。

 井上 うつとかパニックに対する効果は、発売当初の期待より若干低いような気がしているんですけれど、強迫性障害に関しては、従来の期待に近い効果をあげていると思います。コンプライアンスの問題もあるでしょうけど、効果は fluvoxamine の方がいいなという感じを持っていますが。

 丹羽 私も強迫症状+軽うつ症状があった患者に fluvoxamine を75mgぐらい使用して、家族の人が、やはりこれも2週間ぐらいだったんですけれど、もう全然行動が変わりましたと、そういうふうに言っておられるケースがありました。だから、単にうつというだけでなくて、強迫症状を持っておられる方の方が、劇的な効果を経験することは多いように思います。まあ少数例での経験なんですけれど。

 染矢先生、多剤を併用するときに、 fluvoxamine の効果をより引き出していくという意味で、こういうふうな多剤の使い方をしたらいいのではないかというご意見がございましたら。

 染矢 セロトニン1Aに対して何か作用を加えてというのが一番可能性が高いと思います。例えばSNRIの milnacipran などですと、SSRIよりも効果発現が早いという結果が日本でも出ています。その1つの理由として、1AのダウンレギュレーションがSSRIに比べると早く起こる注)。そのために1Aの作用がかからなくなってセロトニンのリリースが早期から増加するという可能性があるわけです。さきほど貝谷先生がおっしゃったように1Aのパーシャルアゴニストを使うということは、むしろアゴニストとしての作用ではなくてブロッカーですね。むしろフルアゴニストの作用をさせないという意味でのブロック。それからアメリカなどでは最近よく論文を見かけますが、1Aのアンタゴニストであるpindololを早期に併用することで1Aにブロックをかけて、それはセロトニンによるリリースを十分保つという理論ですが、1週目の時点でSSRIの抗うつ効果の発現が有意に早くなるという結果も出ていますから、我が国でも今後その併用を試してみる必要があるのではないかと思います。

 当初は効果発現が早くなるだけではなくて、効果も大きくなるんだという論調がありましたが、その後の論文ではむしろ効果発現は早いけれども、4週目ぐらいになると効果の程度はあまり差はなくなるということのようです。この辺についても十分な検討が必要かと思います。

 丹羽 そうすると、 fluvoxamine の効果を上げるための併用薬があるということですね。ありがとうございます。

注) 5-HT1Aセロトニンレセプターは一部がセロトニンニューロンの自己受容体として存在する。SSRIを投与した直後はこの5-HT1A受容体が刺激され、セロトニンニューロン発火が低下する。SSRIが効果を発揮するにはこの5-HT1A受容体のダウンレギュレーションが起こりセロトニンニューロンの発火(セロトニンの合成)が活発になることが必要であるという仮説。

Fluvoxamine の副作用

 丹羽 この辺で副作用の問題について、追加しておきたいんですけれど、1つは実際に使用しておられてセロトニン症候群の問題で困ったという経験がありましたら教えていただければと思います。私の周りではないものですから、あまり心配しなくてもよさそうだなと思っているのですけれど。

 井上 うつ病の治療に clomipramine を150mgぐらい使っていた方で、置き換えの段階だろうと思うのですけれど、少し減量してl00mgぐらいに落として fluvoxamine を50mgぐらい上乗せしたところでセロトニン症候群が起こったという方を知っています。この経験から、薬剤変更ないし上乗せの際に同系薬を使う場合には注意を要するかなと思っていますけれども。

 丹羽 そういうケースはそれほど多く経験しているというわけではないですね。

 井上 そうですね。副作用については、かなり皆さんナーバスになっていますし、割と慎重な投与がなされていますから、そんなに身近で多くは知りませんけれど。

 丹羽 染矢先生、そういうようなケースは?

 染矢 私は fluvoxamine によるセロトニン症候群は今まで経験しておりません。ただ今後それは非常に選択性が高い薬剤ですので、十分気を付けていく必要はあるかと思います。

 丹羽 貝谷先生、いかがですか。

 貝谷 いわゆるセロトニン症候群は、私全然経験がありません。私は500例以上のケースに fluvoxamine を使用しましたが。

 染矢 すごい。

 井上 すごい。

 貝谷 非常に不思議な副作用として、遠近感がわからない、みんな平面に見えてしまうというのです。これが何らかの精神症状につながっているのではないかと。

 井上 分裂病の知覚変容感みたいな感じですか。

 貝谷 そうですね。2例あったんで、まあ間違いなく副作用だと。

 丹羽 どんな患者さんだったんですか。

 貝谷 パニックです。それとは別に fluvoxamine の副作用は用量依存性ですね。というのは、パニックの患者さんに25mgで、すごくよくなってぱっと明るくなって、さあっとどこかに出かけるようになった。もっとよくしてやろうと50mgにしたら、すごいめまいが出て、1週間起きられなかったという方がいます。

 井上 消化器系の副作用は少量投与で出るのであまり用量依存性はないと思うのですけれど、中枢神経系の副作用は用量依存性があるような気がしますけれどね。

 染矢 でも吐き気も50mgと25mgだとやはり随分出方が違いますよ。

 井上 逆に吐き気は50mg投与で出なかったら、量を上げてもあまり出てこないなという感じがしているんですけれど。

 染矢 そうなんです。そういう意味の個体差はすごく大きいと思います。

 丹羽 わかりました。他に副作用に関して、染矢先生、いかがでしょうか。

 染矢 私はSSRIの中で一番の利点というか、抗うつ薬として使う場合の医者にとって一番安心な点というのが、大量服薬時の安全性が高いところだと思っています。三環系抗うつ薬と比べて、効果が同等であるか少し弱いかという問題があるにしても、やはり長期に処方していて非常に安心感が強いという点で、そういう長所が特に強調されるべきではないかと思っています。

 丹羽 実際に大量服薬されたケースをもしお持ちでしたら、お聞きしたいのですが。

 井上 自殺目的で800mgぐらい飲んだというのはありますけれど。

 丹羽 その場合にはどんなような?

 井上 いやあきらかな症状は出なかったですね、ほとんど。セロトニン症候群の論文の3割近くは自殺目的の大量服薬でしょう。量も800から1,000mg前後ぐらいの量でセロトニン症候群が出ているということでしたけれども。

 丹羽 問題はなかった?

 井上 ええ、この程度の量の単回服用でセロトニン症候群が生じた症例は知りませんが…。

 貝谷 今の心毒性の問題ですが、パニック障害の抗うつ剤治療薬は従来 imipramine だったんです。 Imipramine はどうしても頻脈を起こしてしまうんですよ。そうするとパニックの半数以上の人は心悸亢進を強く訴えているわけです。そういう点で、50人ぐらいを対象にデータを取って、血圧と脈拍をimipramineを飲んでいて、それから fluvoxamine に変わって、どれぐらい変わるか。脈拍は確実に下がりますね。そういう点ではパニックの心悸亢進をメインに訴える患者さんには絶対にいいと思うのです。

 井上 一部に昇圧作用の論文もあるんですけれど、先生のご経験ではどうですか。

 貝谷 いや僕も経験していない。

 井上 血圧も測っていらっしゃるのでしょう?

 貝谷 Imipramine より fluvoxamine に変更すると低血圧が正常に戻ります。大体 imipramine で低くなってしまっていますから。

 丹羽 わかりました。そろそろ時間です。今日はどうもありがとうございました。今のお話で fluvoxamine という薬、実際に使われて、副作用がある面もあるけれども、しかしそれについては最初から患者さんにインフォームすることによって、また対処するべき薬剤の併用ということも考えたりすることによって克服しやすいということがあります。また副作用が少ないという点で使いやすい面が多い、そういう薬であることもわかってきたと思います。今のお話の中では、特に強迫性障害に対する効果が期待どおりといいますか、良い効果があるという印象が出たと思います。どういう疾患に対して、どんな効果があるかといったことに関して、さらにこれから症例を重ねていただいて、お考えをまとめていっていただければありがたいと思います。

 それでは今日の座談会をこれで終わりにさせていただきます。どうもありがとうございました。