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病(やまい)と詩(うた)【43】ー墓穴を掘るのか?ドナルド・トランプ大統領ー(ケセラセラvol.89)

東京大学名誉教授 大井玄

 

トランプ大統領は、もともと不動産屋で、テレビショーの司会者がたまたま大統領になったにすぎない、と嘆くアメリカ人も多い。
たしかに、いまや3000万人ともいわれる彼のツイッターのフォロワーがいなければ、大統領にはならなかっただろう。彼はデジタル時代の申し子である。
前回断ったように医師としての私が興味を持つのは、彼の性格的特徴であって、私の愛する認知症高齢者とおどろくほど共通するところと、まったく異質なところがあるからである。
共通する性格特徴は、嘘だとは思わないで嘘をつくこと、誇り高く、過ちを認めることは絶対にしないこと、さらに不安を容易に怒りに転化させることである。ただトランプ氏が直ちに腹を立てるのは、その性格的未成熟さによる。

彼は選挙運動をしていた時、アメリカ社会の殺人率はかつてないほど高く、それはメキシコからの不法移民や、イスラム圏からのテロリズム支持者の所為であるなどと主張した。それは真っ赤な嘘で、実際には現在の殺人率は1980年代の半分ほどで、もっとも低いレベルである。
大統領選挙の総得票数は、ヒラリー・クリントン氏の方が300万票ほど多かったが、彼はそれを不法移民たちが不正に投票したからで、実際には自分の方が多かったと主張した。これも嘘である。

選挙中、オバマ前大統領がトランプ・タワーの通信を傍受していたと主張している。しかし、連邦捜査局(FBI)はそのような事実はないことを表明しているが、トランプ氏は依然としてそう主張している。
事実確認機関が彼の発言の七十パーセント以上が嘘か嘘に近いと判定している、つまり彼の発言は大部分が嘘だ。

 

九十歳の認知症高齢者が「わたしは三十歳」といえば、それを否定しないで、それに合わせることが、その怒りや夜間せん妄などの異常精神症状の発現を防ぐ対応である。熟練した介護者はそれを良くわきまえている。
トランプ大統領の場合、報道官などの側近がうまくつじつまを合わせて、親分の言動を正当化しなければならない。
トランプ氏が自分の就任式には、史上最高の人たちが集まって祝福してくれたと自慢する。実際にはオバマ大統領の時の方がはるかに多かった。
報道官はさすがに困って、「もう一つの事実alternative fact」である、と訳の分からぬ弁解をした。

しかし政治は不動産業ではない。司法組織、内政・外交など多くの行政機関、そして政治の動向を伝える報道機関がすべて入り組んで動いている。側近以外の外部の眼がつねに見張っている。

トランプ氏は、就任後何日もたたぬ一月二十七日、ジェイムス・コミー連邦捜査局(FBI)長官をホワイトハウスの二人だけの食事に招いた。(コミー氏は重要な会談や電話の後、直ちにそれをメモとして残すのを常とする。)
メモによると、その際、トランプ氏は、コミー氏に対し二回にわたり自分への忠誠(loyalty)を誓うことを求めた。
彼は中学生程度のガキ大将のような喋り方をする。テレビショーの司会者的言い回しはしたはずである。しかし話の中核は次のようであったろう。

トランプ「ジェイムス、俺はお前が味方だということを確かめたいんだ。いいか、ここで俺に忠実だと言ってくれ。そして俺がFBIの捜査を受けていないことを保証してくれ」

コミー「大統領閣下、私は政治的にだれの味方にもなりません。私はアメリカの味方です。国家に忠誠
を誓います」

トランプ「そうか俺に忠誠を約束できないのだな」

コミー「その代わり、正直であることを約束します」

 

二月十三日、かねてからロシアとの疑惑をもたれていた、マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官は辞任した。ペンス副大統領に彼が行ったロシア駐米大使との電話内容について虚偽の報告をしたという理由であった。

次の日、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、大統領執務室でトランプ氏とコミー氏は二人きりになった。
トランプ氏は、まず機密情報を公にしているニュースメディアを非難し、コミー氏に対しそういう機密漏洩をする記者を投獄すべきだと言った。
次いで、彼はフリン氏の件に触れて言った。「何とかしてこの件を終わりにできないかね。フリンを放してやるってこと。奴はいい男だ。奴を放して欲しいよ」

コミー氏はこの会談の内容を記したメモを書いた後、FBI上層部に見せた。彼らはトランプ氏の頼みは、捜査に対する干渉だと感じたが、FBI内部でも秘密にしておくべきだということになった。現在、フリン氏とロシアとの関わりあいについて捜査中であり、捜査に影響を与えまいとする配慮であった。
コミー氏はその後ロシア関係捜査への人員と予算の増額を司法省に要求したところで、五月九日トランプ氏に解任された。

翌十日、トランプ氏はロシア外相ラヴロフ氏とキスリャク駐米大使をホワイトハウスに招いたが、その際彼らに、「変人(nut job)コミーをクビにしたので、ロシア問題で自分にかかっているプレッシャーが大幅に減った」と伝えたという。
それどころではない、彼はイスラエルの情報機関がアメリカに伝えたI S についての機密情報をラヴロフ氏らに自慢気に喋ったという。
しかも彼はその後、自分は大統領だから情報をロシアとシェアする絶対的権利があるとツイートしたのである。

コミー解任の後を受けて、ローゼンスタイン司法副長官は、コミー氏の前任のF B I 長官だったロバート・マラー氏をフリン・ロシア関係捜査の特別検察官に任命した。彼は剛直な人柄で知られる。

 

トランプ大統領は司法妨害(obstruction of justice)を行ったのであろうか。もしそうだと認定されるなら、大統領弾劾の事態もありうる。
そうでなくとも、彼はあまりにも強権的で、あまりにも不用意で、あまりにも愚かに見える。
呆けた老医でさえ、憐みを感じざるを得ない。

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