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マインドフルネスの臨床効果と脳科学⑥ マインドフルネスは痛みを和らげるか(ケセラセラvol.97)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

マインドフルネスストレス低減法の創始者カバット― ジン博士は90人の慢性疼痛患者に10週間のマインドフルネス・プログラムを行いました(1985)。その結果、訓練時の痛み、ボディイメージ、痛みによる活動性、病的症状、不快気分、不安・抑うつ、鎮痛剤の服用量、自己肯定感といった項目ですべて有意な効果があったと報告しています。多くの患者はその後も瞑想を続け、これらの効果は15か月後も持続していたということです。この論文で、マインドフルネスが臨床医学で脚光を浴びる大きなきっかけとなっています。しかし、現代医学でも慢性疼痛の治療はそれほど容易なものではありません。

痛みという主観的な感覚はいろいろな要因に影響されます。それは、注意(例:注意が向けば向くほど痛みは強くなる)、信念(例:自分は元来痛みに弱い人間である)、条件付け(例:家の中の怪我は以前のように痛みが強い)、期待(例:おまじないをかけると痛みが軽い)、気分(例:うつ病の人は痛みが強い)、情動的反応(例:好意を持つ看護師の採血は痛くない)などである。
何千年も前から瞑想行為は期待感、注意の強さと方向性、情動反応に働きかけて、痛みを和らげると考えられてきました。敬虔な仏教徒であるネパールのポーターは痛みに強いことや宗教的行為(瞑想)は痛みに対する忍容性を高めることも知られています。
最近の研究は(Zeidanら、2015)、短期間のマインドフルネス訓練でも痛みをずいぶん和らげることを証明しています。大変興味深い研究を一つ紹介します。75人の被験者を対照群(「セルボーン村の博物誌」というオーディオを聞かせる)、偽薬群(鎮痛作用のあるリドカインクリームだと言って偽って痛覚刺激部に塗る)、マインドフルネス群、偽マインドフルネス群(マインドフルネスに関する知識を教示せずただ座らせるのみ)、に分けて痛みに対する反応をみます。マインドフルネス群は、心に浮かぶものや感覚に対して無執着、無判断、受容の3原則が教示され、吸う息と吐く息に注意を集中することを指導されました。マインドフルネス訓練の期間は、たった、1日20 分4日間だけです。痛みは摂氏49度の熱刺激を左前腕内側部、35度の熱刺激を左ふくらはぎに与えて生じさせました。これらの実験はすべて機能性MRIの器械の中に横たわって行われました。痛みと痛みによる不快感の判定は視覚的評価スケール:VAS(Visual Analog Scale)により測定しました。これは、被験者が「0」を「痛みはない」状態、「100」 を「これ以上の痛みはないくらい痛い(これまで経験した一番強い痛み)」状態として、 現在の痛みが100mm程度の物差しのどの位置にあるかを示す方法です。結果は図1の如くです。実験後の痛みの変化は、対照:14%増加、偽薬:11%減少、マインドフルネス:27%減少、偽マインドフルネス:8%減少でした。痛覚不快感の変化は、対照:18%増加、偽薬:13%減少、マインドフルネス:44%減少、偽マインドフルネス:27%減少でした。これらの変化はすべて統計学的に有意の差でしたが、もちろん、マインドフルネスによる疼痛緩和作用は最も大きいことが明らかになりました。

図1
この実験の脳画像検査の結果はどうなっていたのでしょうか?その結果を図2に示します。図2の上段には左側は瞑想していない時の上から見た脳画像で、痛覚刺激を加えた反対側の大脳の一次性体性感覚野の活性が上昇しているのが見られますが、瞑想をしているとき(右画像)には活性が増加していません。中段は瞑想時の上から見た脳画像ですが、吻側前帯状回と左島前部の活性が増加しています。両部の活動性が高いほど痛覚の低減の程度が強いことが分かっています。前帯状回は体性感覚の調整を行い、島は内受容感覚の評価査定を行う脳部位であります。下段は瞑想時の画像で、左は上面から見た画像、右は右側面から見た左半球です。左側の画像では眼窩脳皮質の活性増加が見られ、右画像では視床の活性低下が示されています。眼窩脳皮質は文脈的評価に関与して、その活性が高いと疼痛の不快感が減少します。眼窩脳の活性が高まると視床網様体の活性が低下し疼痛の不快感が低下します。この実験のような短期間のマインドフルネス訓練でも、注意集中訓練とマインドフルネス的気づき(受容、非評価、非執着)をしっかり行うと、痛みは緩和されることが明らかになりました。

図1
ここでは、マインドフルネスを行っている最中に与えられた痛覚刺激が安静時におけるほど強く感じ取られないことが示されましたが、ある一定期間マインドフルネスを行うことによって生じた脳変化が痛みの感受性を低下させる事実もあります。瞑想を長期間続けた人ほど前帯状回/内側前頭前野の皮質が厚くなり、その程度に応じて痛みの不快感が低下することも明らかになっています。
慢性疼痛の治療は簡単ではないことを前述しました。マインドフルネスの効果率を比較した研究があります(Ballら、2017)。
うつ病:-0.28、疼痛:-0.13、不安:-0.16、生活の質:0.65、身体的健康:0.08といったところです。疼痛の軽減の程度は不安やうつに比べて低いです。
マインドフルネスは痛みの機構に直接関与しますが、それ以外に不安やうつを軽減することにより痛みを和らげる機序もあります。また、マインドフルネスの疼痛緩和機構はモルヒネのような鎮痛剤とは全く異なった機序で働きますから、慢性疼痛に対してマインドフルネスは薬物療法に補完的な治療ということができるでしょう。

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