医療法人 和楽会

主な病気の解説−非定型うつ病

 非定型うつ病が増えている
指導:医療法人和楽会理事長 貝谷 久宣

ばらんす8月号,p4-7,2009

好きなことならできるけど、いやなことだと体が動かない。そこで「気まぐれ」「わがまま」と誤解されてしまう…。そんなタイプのうつ病が増えています。

定型のうつ病とは、現れる症状も治療法も違うため、発見や治療が遅れがち

 非定型うつ病は、これまで知られている定型のうつ病とは、現れる症状も治療法も違うことから、「非定型」と呼ばれています。世間ではまだ知られていないので、単に「わがまま」と見なされ放置されて発見が遅れたり、従来のうつ病の治療法では治らないのですが、正しく診断できる医師も多くはないため、治療を受けてもよくならないという例も見られます。また、中年以降の男性に多い定型のうつ病に対して、非定型うつ病は若い女性に多いのも大きな違いです。


非定型うつ病って、どんな病気?

症状の特徴でチェックする



落ち込んだり、うきうきしたり、気分の大きな波が基本的な症状

 定型のうつ病は、ほとんどの場合、一日中気分が落ち込んでいますが、非定型うつ病は気分の浮き沈みが激しく、いやなことがあると落ち込んで無気力になる一方、好ましいことやうれしいことがあると、気分が晴れてうきうきし、ときには興奮します。気分の大きな波が、非定型うつ病の基本的な症状です。具体例を挙げると、いやなことは基本的にはプライドを傷つけられることで、「他人に意見された」「発表がうまくできなかった」「同僚より売り上げが少なかった」「化粧が濃いと言われた」など。はたから見ると、何でそれほど…と思えるくらい落ち込んでしまうのです。また、本人にとって好ましいこと・うれしいことは、「ほめられる」「励まされる」「好きなテレビ番組を見る」「友人とおしゃべりをする」「欲しいものを買う」などです。

いくら寝ても寝足りない、食欲が異常に高まり甘いものを過食する

 睡眠障害は、うつ病の症状のひとつですが、定型のうつ病では「眠れない」と訴えるのに対し、非定型うつ病では「いくら寝ても寝足りない」過眠状態となります。寝すぎると脳の働きが鈍り、気分が憂うつになるため、ますます起きられないという、悪循環に陥ります。また、食欲が高まり、特に甘いものを異常に食べたくなります。食べているときは気分がまぎれますが、その結果、体重が増加して自己嫌悪でさらに憂うつになってしまいます。過眠・過食はすべての非定型うつ病に見られるわけではなく、眠りたい・食べたいという欲求が軽い人もいます。


相手に悪意はないのに、何気ない言動を否定的に解釈して過剰に反応する

 相手の何気ない言動に過敏に反応し、「軽べつされた」「恥をかかされた」「バカにされた」などと否定的に解釈して、何日も寝込んだり、引きこもったり、激しく怒ったりします。多くの場合、言葉を口にした相手には、悪意などないのです。例を挙げると、彼に会ったとき「情熱的な色の口紅だね」と言われ、彼はほめたつもりだったのに、「みだらな女」と言われたように感じて落ち込み、「二度と会いたくない」と寝込んでしまった…。夫が「今日のご飯は少し硬めだね」と感想を言ったら、自分の能力を否定されたと憤慨し、炊事を拒否した…。


体が重くなって、立ち上がるのも苦労するほどの疲労感に襲われる

 手足に鉛が詰まったような重さを感じて、重労働をしたわけでもないのに、立ち上がるのもつらいほどの疲労感に襲われることがあります。いやなことがあったり、不安を感じたときなどに起こる症状です。健診を受けても異常がないため「気のせい」とかたづけられたり、「怠けている」「都合の悪いことを避けている」と非難されることもあります。この状態が進行すると、ベッドから起き上がることも難しくなって、学校や職場に行けない、家事ができないなど、日常生活に支障をきたすようになります。

突然、感情のコントロールができなくなる。自傷行為を起こす恐れも

 突然、テレビのチャンネルが切り替わったように、激しい情緒の変化が起こって感情のコントロールができなくなり、訳もなく不意に涙がこぼれ、抑うつ感、悲哀感、孤独感、不安焦燥感などに襲われるのが、不安・抑うつ発作です。非定型うつ病では、多くの場合、日暮れから夜間に起こって、数十分から半日近く続き、周囲の目には性格が変わったように映ります。発作時には、動悸、心拍数増加、息切れ、めまいなど、様々な身体症状が出るほか、リストカットなどの自傷行為や過食などを起こすおそれもあります。

ささいなことでキレて、怒りがエスカレートしていく

 ささいなことでカッとなる、いわゆる「キレる」状態が止まらなくなるのが、非定型うつ病の約3割に見られる怒り発作です。だれでもカッとなることはありますが、怒りを抑えることができます。怒り発作は、怒り出すと自分で怒りを止められず、ますますエスカレートさせて、大声で相手を非難し続けたりします。ふだんは温厚な人で、きっかけがささいなことだったりするので、周囲の人は困惑してしまいます。本人も発作が治まったあと自己嫌悪に陥リ、さらにうつ状態を悪化させます。

過去のつらい出来事を思い出し、そのときの心理状態に陥ってしまう

 不安・抑うつ発作の最中に、突然、過去のつらい出来事が思い出され、そのときの感情にとらわれてしまうのがフラッシュバックで
す。まるでタイムスリップしたように、過去の体験が、痛みやにおいなどもリアルによみがえって、そのときの心理状態に陥り、つらい感情がふくれあがって、コントロールできなくなってしまうのです。なかには、過去と現在を混同して、十何年も前のことを精算しようと行動を起こす例もあります。「情動の病」といわれる非定型うつ病で、過去が鮮やかに思い出されるのは、記憶を支配する海馬や扁桃体という脳の部位が、情動の働きと深い関係があるためです。

 突然、激しい動悸や息切れ、手足の震えなどに襲われ、「死ぬかも」という恐怖や不安に陥ることもあるのが「パニック発作」です。起こりやすいのは、満員電車の中、高速道路で運転中、エレベーターやトンネル内など、緊張や不安を感じる場所です。一度発作を起こすとくり返す例が多く、「また発作が起こったらどうしよう」という強い不安から、外出や仕事ができなくなって、日常生活に支障をきたすようになるのが、「パニック障害」と呼ばれる病態です。非定型うつ病の人の多くがパニック発作を経験していて、パニック発作を経験した人は非定型うつ病になりやすく、両者には密接な関係があることがわかっています。


 非定型うつ病が疑われるときは?

 非定型うつ病のような不安・抑うつ疾患は精神科の領域です。比較的気軽に受診できるメンタルクリニックや心療内科もありますが、症状が重いと思われるときは、精神科のほうがよいでしょう。




●「はい」が5以下⇒健康です だれでもたまにはブルーな気分になることがあるもの。気にせず、ふだんどおりのあなたでいてください。
●「はい」が6〜10⇒心の病の予防を ストレスがたまっていませんか。ストレスのもとを断つか、適度に発散させて心の元気を保ちましょう。
●「はい」が11以上⇒受診をすすめます 非定型うつ病にかかっているおそれがあります。なるべく、うつ病にくわしい医師に、早めに受診してください。