落ち込んだり、カッとなったり

不安定な状態が続いています

20代の女性に多い、『非定型うつ病』かも。

医療法人 和楽会

なごやメンタルクリニック
心療内科・神経科 赤坂クリニック
横浜クリニック

理事長 貝谷久宣

  若い女性を襲う心身の不調が増加中

 慢性的疲労に悩んでいるというS美さん。病院に行っても、ただの疲労と診断されたとか。

 「でも、いくら寝ても体が重く、疲れが取れません。気分の浮き沈みも激しくて、些細なことで文句を言ったり、涙が出たり……。とにかくヘンなんです」

 実は、彼女のような悩みを抱える女性は少なくないとか。心の病気が専門の貝谷久宣先生は、「この症伏から、非定型うつ病が考えられます」と話します。

 普通のうつ病との違いは?

 「いわゆるうつ病は、中年期男性に起きやすく、落ち込みや自責感が強い傾向に。一方、非定型うつ病は、20〜30代の女性に多い病気です。常に落ち込んでいないのも特徴。気持ちが高揚しているときもあれば、“強い口調だったかも”“相手を怒らせたかも”など些細なことで深く悩み、外出できなくなるときもある、と気持ちの振り幅が大きいのです。かっては、“気分屋”“ヒステリー”と片づけられることも多かったようです」

 そのほか次の表のように、うつ病とは異なる症状が。

 「しかし、この非定型うつ病がうつ病の一種として認識されたのは最近のこと。それまでは、適切な治療や投薬が行われず、治りづらかったのです。ほかの病気と診断されることも多かったようです」(下表参照)

  幼少期の家庭環境と脳の働きが関係

 この病気にかかりやすい人には、ある共通点があるよう。

 「子供の頃、親の愛情を十分に受けられなかった家庭環境の人が多いようです。また他人の言葉に敏感で、周囲に気を遣うあまりに、うまく自己主張するのが苦手な傾向があります」

 また、脳の働きも関係することもわかってきました。

 「病気の影響で、前頭葉の血流が悪くなりやすくなります。ここは、思考や情動を司っていて、人間が人間らしくあるために大切な部分。血流が悪くなると、前頭葉がスムーズに機能しにくくなって、心身の不調として出ることがあるのです」

 家庭環境や性格、脳の機能障害など、複数の要因が絡み合って起こる非定型うつ病。どんな治療法が効果的なのでしょう?

 「治療は、臨床心理士とのカウンセリングが中心です。この病気を持つ人はマイナス思考にとらわれがち。多角的な思考ができず、突発的な問題が起きると状況や自分の気持ちを整理することが困難になってしまいます。そこで、心理士と代替案を考える訓練を行うのです」

 これは、認知行動療法と呼ばれ、前頭葉の働きを高めるのに効果的な治療法です。

 「同時に、不安や興奮を和らげる薬も処方します。その人の症状に合わせて、5〜6種類の薬を組み合わせています」

 診察は保険適用で、1回5000円前後が目安。薬の種類にもよりますが、別に毎月数千円ほど薬代が必要です。治癒には平均3年かかるそうなので、焦りは禁物。そして、治療も大切ですが、この病気の改善には普段の生活習憤も、重要なカギを握っています。

 「病気で過眠傾向になるため、昼夜が逆転し、生活リズムが乱れがちに。これでは症状が悪化するばかりです。規則正しい生活と軽い運動、この当たり前のことが気持を安定させる、一番の特効薬なのです」

スタイル Vol.6, No.6, 2006, 講談社, P282