ストレス講座 〜その14〜

適応障害

〜社会に上手に適応できない〜

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 適応障害とは、ある社会環境においてうまく適応することができず、さまざまな心身の症状があらわれて社会生活に支障をきたすものをいいます。だれでも、新しい環境に慣れて社会適応するためには、多かれ少なかれ苦労をしたり、いろいろな工夫や選択をする必要にせまられることはよくあることです。それがうまくいかなくなった場合には、会社では職場不適応、学校では登校拒否(不登校)、家庭では別居あるいは離婚などといった形であらわれます。

 ストレス学説によれば、心理社会的ストレス(環境要因)と個人的素質(個人要因)とのバランスの中で、いろいろなストレス反応(心理反応、行動反応、身体反応)が生じますが、これらは外界からの刺激に適応するための必要な反応です。ところが、ストレスが過剰で長く続く時、個人がストレスに対して過敏である時に、このバランスがくずれてさまざまな障害をきたすようになります。適応障害の出現に関しては個人要因が大きな役割りを果たしていますが、もし心理社会的ストレスがなければこの状態はおこらなかったと考えられることがこの障害の基本的な概念です。

 適応障害の症状はいろいろで、不安、抑うつ、焦燥、過敏、混乱などの情緒的な症状、不眠、食欲不振、全身倦怠感、易疲労感、頭痛、肩こり、腹痛などの身体症状、遅刻、欠勤、早退、過剰飲酒、ギャンブル中毒などの問題行動があります。そして、次第に対人関係や社会的機能が不良となり、仕事にも支障をきたし、引きこもってうつ状態となります。適応障害の診断には、次のような基準があります。

1 はっきりとした心理社会的ストレスに対する反応で、3ヶ月以内に発症する。
2 ストレスに対する正常で予測されるものよりも過剰な症状。
3 社会的または職業(学業)上の機能の障害。
4 不適応反応はストレスが解消されれば6ヶ月以上は持続しない。
5 他の原因となる精神障害がないことが前提条件です。

 適応障害のタイプとしては、その主な症状によって以下のように分類されます。

1 不安気分を伴う適応障害
不安、神経過敏、心配、いらいらなどの症状が優勢。
2 抑うつ気分を伴う適応障害
抑うつ気分、涙もろさ、希望のなさなどの症状が優勢。
3 行為の障害を伴う適応障害
問題行動、人の権利の障害、社会規範や規則に対する違反行為などが優勢。
4 情動と行潟の混合した障害を伴う適応障害
情動面の症状(不安、抑うつ)と行為の障害の両方がみられるもの。
5 身体的愁訴を伴う適応障害
疲労感、頭痛、腰痛、不眠などの身体症状が優勢。
6 引きこもりを伴う適応障害
社会的ひきこもりが優勢。

 適応障害の治療は、まず原因となっている心理社会的ストレスを軽減することが第一です。環境要因を調整し適応しやすい環境を整えることや、場合によってはしばらく休職、休学して休養し、心的エネルギーを回復することが必要です。また、心理的葛藤に関してカウンセリングを受け混乱した情緒面の整理をすることや社会適応へ向けての心理的援助を求めることも大切です。そして、不安を主とする場合は抗不安薬、うつ症状を主とする場合は抗うつ薬の服薬など、それぞれの病型に応じて薬物療法が必要な場合もあります。

 生活上の注意・予防としては、新しい環境に適応するためには相応の心的エネルギーを使いますので、適度の休養をとったり、気分転換にこころがけたり、日頃からストレスをためないような生活を工夫をする必要があります。また、適切な相談相手をもって一人でくよくよ考えないことや、人といかにうまくつきあい、その中でいかに自己実現するかというソーシャルスキルを身につけることも大切です。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 35 2004 WINTER