ストレス講座 〜その17〜

「うつ」に陥らないために

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 現代ストレス社会では、高速の技術革新や情報過多、国際紛争、深刻な不景気やリストラ、青少年犯罪や悲惨な事件の多発など数多くの問題が氾濫し、こうした社会環境の中で生活している現代人は毎日多種多様のストレスシャワーをあびています。当然、精神的にまいったり、落ち込んだり、意欲・気力が低下したりといわゆる「うつ」になることも珍しくありません。最近の欧米の大規模な調査では、全人口の17%が「うつ」であると報告しています。もちろん、その中の一部の人が社会生活する上で支障をきたしたり、精神的・身体的不調を訴えたりする「うつ病」で、何らかの治療を必要とするわけです。今回は、「うつ」にならないための予防法を考えてみましょう。

 「うつ」に特徴的な性格としては、几帳面、こり性、完璧主義、責任感が強い、生真面目などが言われています。これは、仕事をする上ではむしろ望ましい性格で、頼まれたことはきちんとこなしますが、やや度がすぎてしまうと必要以上に責任を感じたり、仕事に熱中しすぎて、無理をして心身の不調をきたしてしまいます。

 また、「うつ」になる人には特徴的な考え方があります。

@自分に対する否定的な見方、
A周囲に対する否定的な見方、つまり「私はOKでない。他人もOKでない」ということで、自分もだめだし、相手も社会もだめだという悲観的絶望的な考え方です。
Bさらには将来に対する否定的な見方(このままでは八方ふさがりで見通しが真っ暗だ、トンネルの出口が見えない)まであります。

 こういった性格を直すのは難しいので、まず考え方を変える工夫をしてみましょう。ついつい暗い側面ばかり考えることと、100%できなければ全くだめだという完璧主義を変えるには表に示すような「行動日記」をつけてみます。1日の行動、その時に感じた気分、不快度(10点満点)、満足度(10点満点)を表にしてみます。そうすると、「不快な気分ばかりだった」という考え方が、「5点くらいの不快度」というように客観的にみれること、「満足のいくところも3点くらいあった」というように暗い面ばかりではなく、よい面もあったという見方ができるようになります。また、毎日つけた日記をふりかえって、「調子のよくない日もあったがよい日もあった」というように、自分の気分の波を客観的にみることができるようになります。

 「うつ」になると、人と話すのもおっくうになり、一人でくよくよ考えるようになり、ついつい暗い方面へ考えが行って、ますます「うつ」にはまってしまいます。そんな時には、「行動日記」をつけてみること、そしてそれを誰か信頼できる先生やカウンセラーあるいは友人に話してみると、「うつ」というトンネルから脱出することができるようになります。ぜひ、お試し下さい。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 38 2004 AUTUMN