ストレス講座 〜その29〜

交流分析による自己発見
(その1)

早稲田大学人間科学学術院教授

野村 忍

人間関係によるストレス

 厚生労働省が行っているストレス調査によれば、働く人のうち約60%が何らかの強いストレスを受けており、その最たるものは人間関係によるストレスであることがわかっています。そこで、人間関係によるストレスに対処するために、交流分析による自己発見について考えてみましょう。

交流分析とは

 交流分析(Transactional analysys ;以下TAと略す)を創始したのは、エリック・バーン(Eric Berne)です。彼は、1910年にカナダのモントリオールに生まれ、「貧者のための医者」であった父デービットの後を継ぎ外科医となりました。その後間もなく米国にわたり精神科医としての研修を始め、ついで精神分析医ポール・フェダーン(Paul Federn)に師事することとなりました。第二次大戦には軍医として従軍しますが、その後、1947年にはカリフォルニアに移りエリック・エリクソン(Eric Erickson)に教育分析を受け精神分析医としての訓練を再開することになります。1950年ころよりTAに関する論文を発表し始めましたが、これが当時の米国の精神分析医学会に受け入れられず、彼は精神分析と決別して独自のパーソナリティ理論と治療技法を発展させることになりました。

 TAが一躍有名になったのは、バーンが1964年に出版した一冊の本'Games People Play'によるものです。彼の本は、たちまちベスト・セラーとなり、世界15ヵ国語に翻訳されて、「ゲーム」「ストローク」などの交流分析用語が一般大衆の日常語として使われるまでになったといいます。

自我状態の構造分析

 TAの基本は自我状態の構造モデルです。ここでいう自我状態とは、思考、感情、行動パターンを包括したものであり、「親(Parent;P)」、「成人(Adult;A)」、「子ども(Child;C)」の三つに分類されています。

1)成人(A)の自我状態
 人はだれでも、当面する問題を解決しようとするときは、自分の持てるすべての資源(知識、決断力、体力、経験など)を使って、最良の方法を選択し、それに基づいて行動しようとします。これを、Aの自我状態といいます。

2)親(P)の自我状態
 後輩や部下の面倒をみたりあるいは実際に自分の子どもを世話しているときは、自分の親の行動や考え方と同じようなふるまいをしていることがあります。これを、Pの自我状態といいます。

3)子ども(C)の自我状態
 コンパや宴席で一杯飲みながら騒いでいるとき、何かの遊びやゲームに熱中しているときには、自分が子どもであった時の感じ方、ふるまいに戻ってしまうことがあります。これを、Cの自我状態といいます。

 以上のように、その時々の状況に応じて自我状態は移り変わるものですが、それぞれの自我状態が一連の流れを持ち、まとまった人格を形成しています。そして、どの自我状態にいる時も、その行動を通して容易に観察可能であるというもので、これを構造分析といいます。

自我状態の機能分析

 図に示しますように、Pには二つの機能的側面があり、批判的な親(Critical Parent;CP)と養育的な親(Nurturing Parent;NP)に分けられています。CPは子どもに対して厳しく強く育てようとする父親的親を意味し、NPは子どものことを思いやりやさしく育てようという母親的親です。Aは一つですが、Cにも二つの側面があり、自由な子ども(Free Child;FC)と順応した子ども(Adapted Child;AC)です。FCは自分の感情や欲求をストレートに表現する自然の子であり、ACは周囲の様子をうかがい怒られるようなふるまいは一切しないという良い子です。表に、それぞれの自我状態の一般的な特徴を示します。

 これらの資料をもとに、自分の行動について振り返り、いま自分の自我状態がどのように機能しているかを自己分析していくことを機能分析といい、これがTAによる自己発見の第一歩です。(次号に続く)

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.50 2007 AUTUMN