うつノート(変わる常識)

讀賣新聞 2007/08/30 p17

過眠・過食 明るいときも

タイプ様々 変わる治療法

 ある30歳代の女性公務員は、職場の人間関係の悪化などから、強い疲労感を覚えるようになり、週末はずっと寝ている状態となった。うつ病と診断され、休職した。

 交際相手が訪れると気分が明るくなったり、職場復帰について上司と話し合うと、また気分が落ち込んだりといったことを繰り返した。休職期間を延ばすことが決まると、元気になるということもあった。

 約1年後に職場に復帰、短時間の仕事から始め、勤務時間を徐々に延ばしていった。

 
うつ病になると、気分の落ち込みが続くのではないだろうか? 楽しいことがあると、気分が明るくなるうつ病もあるのだろうか。

 女性を診察した、心療内科「赤坂クリニック」(東京)理事長の貝谷久宣さんは「うつ病は一つではなく、タイプがあることがわかってきました」と話す。中でも「非定型うつ病」と呼ぱれるタイプが注目されているという。貝谷さんには「気まぐれ『うつ』病−誤解される非定型うつ病」(ちくま新書)という著書もある。

 これまで典型的なうつ病として知られてきたのは、大うつ病の中でも、「メランコリー型うつ病」と呼ばれるタイプ。特徴として、「喜びが感じられない」「決まって朝、調子が悪い」「朝早く目が覚める」「食欲が低下する」などが挙げられる。症状が進むと、どんないいことがあっても気分の落ち込みは改善しない。

 これに対し、非定型うつ病とは、好ましいことが起これば、気分が良くなるのが特徴。「このため、お天気屋だと誤解されることが多いのです」と貝谷さん。

 過食や過眠など、メランコリー型とは正反対の症状も表れる。人からの批判に過敏という特徴もある。非定型とは、典型的ではないという意味だが、大うつ病の30%近くが、このタイプだという報告もある。

 貝谷さんによると、非定型うつ病は、薬物療法が必要だが、休職が必ずしも最良とは限らないという。仕事に出ると生活が規則的になり、睡眠も規則的に取れるなどのメリットがある。一方、対人関係による疲労などで悪化することも考えられる。「軽症から中程度の場合、仕事を続けることで症状が良くなることも多い」

 日本うつ病学会理事長で、防衛医科大学教授の野村総一郎さんは、一般向けにわかりやすく、うつ病を四つのタイプに分類している。

 「双極性障害」は、躁状態とうつ状態を繰り返すうつ病。かつては躁うつ病と呼ばれていた。「気分変調症」は、ひどくはないが、慢性的なうつ状態が2年以上続く。

 うつ病イコール「メランコリー型」と思っていると、違うタイプのうつ病の人を理解できず、「性格のせいではないか」と誤解してしまうことがある。

 野村さんは「うつ病のタイプによって、服用する薬や周囲の対応も違ってきます。うつ病には、様々なタイプがあるということを理解することがこれからは求められています」と話している。